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大阪府、私学授業料完全無償化への道しるべ


はじめに

現在の大阪府の私学授業料無償化制度では所得に応じて年間授業料60万円までを大阪府と国が負担し、60万円を超える場合は学校が負担する制度となっている。これは橋下徹知事の時に作られた就学支援制度で、「低所得の人でも私学を選択できるように」という理念で作られた。
 しかし、家庭の所得が増えると制度上家庭の負担が増えてしまうという状況になっている。これを受けて大阪府の吉村知事や大阪維新の会は2023年春の統一地方選挙で私立高校の授業料完全無償化(所得制限撤廃)などを公約に掲げて圧勝した。これが実現すれば親の所得に関係なく家庭の授業料の負担は「0」となる。財源を無視した構想ではない。橋下知事が就任する2008年まで大阪府では足りない予算を減債基金と呼ばれる借金返済のために積み立ててる貯金を切り崩していた。橋下知事、松井知事、吉村知事の代で毎年返済してこの積立不足が解消する。その財源をこれからはこれらの無償化の財源に充てるのである。財源に関する不安は全くない。
 一方で、私学の団体から反対する声が上がったのだ。それは、完全無償化となった場合、所得が高い世代における標準授業料60万円を超える部分の学校負担が増えるからである。そもそも標準授業料とは大阪府にある私立高校の授業料を平均したようなものであり、例えば60万円以下の学校は新制度となっても学校の負担はこれまで通り一切ない。しかしながら60万円より高い学校の負担は増えることとなり、様々なコストを削減せざるを得ない状況となりそれは教育の質を落とすことを意味すると私学の団体は言う。今回はその新制度の妥協案について解説していきたい。

関西テレビで吉村知事が使用した図

上の図は吉村大阪府知事が新制度について反対派の校長2名と討論した際に使用したものである。

 今回の制度で新たに学校負担が増えるのは右上の図(授業料が60万円以上で所得が高い家庭)だ。
先述した通り授業料が60万円以下の55の学校は大阪府と国が負担することとなるため影響はない。60万円を超える場合は学校が負担するキャップ制を大阪府は導入しているため質を上げるために授業料を上げられないという意見もあるが、それは私学が経営努力をしてされるものであるため大阪府に負担を求めるのは論外である。大阪府や国が私学の授業料を負担しているのはあくまで公教育を担っているという観点から補助しているものであり、私学の独自性は自ら作っていくべきだ。それができないならその責任は私学側にある。標準授業料の60万円の設定を70万円などに引き上げれば良いのではという意見もあるが、そうしても授業料を上げれば意味はないため解決策とはならない。

制度案


私が考える解決策はこうだ。

60万円を超える学校で、所得800万円以上は学校に負担してもらい910万円以上の場合は家庭で負担するというものだ。授業料が70万円の学校は10万円の家庭負担である。完全無償化とはならないが、所得が910万円の一般的に極めて高いとされる家庭では10万円で質の高い教育を受けられるなら躊躇はあまりされないだろう。70万円全てを家庭で負担するなら所得による不公平が著しいが、この案ならそうならない。授業料が極端に高い一部の学校でも年間100万円ほどのため40万円(本来の半分以下)の負担で通うことができる。完璧な制度案を作ることは難しいため、大阪府と私学の間で妥協することが必要だ。詳細は後ほど説明する。

新制度案(授業料年間60万円以上の学校)


※親の所得のケースは原則であり子どもの数などによって要件は緩和される。

制度例

・新制度案の例(素案)

A高校 授業料年間55万円
現状))
親の所得が590万円以上から一部家庭負担となり、段階的に家庭負担が増えて910万円以上は55万円全額が家庭負担となる。家庭負担でない部分は国と大阪府が負担する

新制度素案))
保護者負担となっていた部分は授業料55万円を全て大阪府が負担する。保護者負担も学校負担もない。

B高校 授業料年間70万円
現状))
標準授業料の60万円と実際の年間授業料70万円の差額である10万円は所得800万円までは学校が負担し、それ以上は保護者が負担する。590万円以上の世帯は段階的に保護者負担が増えて910万円以上は70万円全て家庭の負担。

新制度素案))
標準授業料60万円までは国と大阪府が負担し、差額の10万円は学校が負担する。家庭の負担はゼロとなる。

⭐️筆者が考える新制度案


 標準授業料60万円までは新制度素案通り国と大阪府が負担し、所得910万円までの世帯で60万円を超える部分は学校が負担し、それ以上の世帯は保護者が負担するというものである。高所得の世帯では負担が一部増えるが、910万円以上というのは幅が広く、一部の負担は影響が少ない。    

 保護者から見る完全無償化にはならないが、質の高い教育のためには多少の負担は許容範囲とできるのが所得910万円以上の世帯と考える。厚生労働省の「2021年 国民生活基礎調査の概要」によれば、18歳未満の児童のいる世帯の2020年の平均所得金額は813万5千円であり、所得制限が所得を増やす足枷とならないよう910万円以上を家庭負担とする案を提案した。

 また、大阪府の財政とも相談していかなければならないが、学校ごとに現状の授業料にラインを定めて、授業料を増やす(910万円以上の家庭の負担が増える)場合、大阪府と協議して値上げの妥当性が認められた時に限って、その学校の大阪府の負担金60万円から65万円などに上げる案も併せて提案する。

あるいは、生徒数30人に1人分の人件費を大阪府が負担したりすることも公教育を担っているという観点より最低限を保証する案も。

8月ごろに制度案が決まるとのことなので様々な観点からより良い案を作っていただきたい。

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