三人芝居『僕に魔法をかけろ魔女』

三人芝居『僕に魔法をかけろ魔女』
作 すがの公

■上演時間:1時間

■あらすじ
「はは、終わってんな(自嘲)」半年前に離婚した小林麻子(30歳)は、人生への期待というものをまるで失っていた。ひょんなことからネットカウンセリングのバイトを始めた彼女の前にあらわれたのは、魔女になりたい中1だった。歳が倍違う二人の友情の行く末は?

■登場人物
<メイン役>
・小林麻子
・五月のはじめ(梅原摩耶)+天使+友人
・チーフマネージャー+元だんな+悪魔
<ちょい役>
アバターたち、カウンセラーたち、JK、主婦's、タイムカードなど
ちょい役は、主人公以外の二人が兼任する事で、三人芝居となる。

■僕に魔法をかけろ魔女
客電消え、音楽あがり暗

カウンセラーたち:魔女?
女:小さい頃、私は魔女にあこがれました。

 人形が、浮いている。

カウンセラーたち:魔女。というと?あの?
女:物語で活躍するヒロインではなく、崖の上の古びた塔にネズミやくもとひとりぼっちで暮らす老婆のようなみにくい魔女です。

 ライトが人形をてらす

女:汚い魔女のマネをする私を嫌がって、ママは私の魔女の本や黒魔術の道具をもやしました。
カウンセラーたち:なるほどお。お母さんが、もやしたんですねぇ?
女:それで、ママに呪いをかけようとひみつのノートから選んでたら、ママが救急車で運ばれて病院で死にました。

 少しずつ、人形をてらすライト

カウンセラーたち:なるほどぉ。病院で死んだんですねぇ?
女:はい。
カウンセラーたち:今日はここまでにしておきましょうかねぇ?
女:え
カウンセラーたち:眠れていますかねぇ?
女:あの。わたし。
カウンセラーたち:お薬出しておきましょうねぇ?
女:わたし、あの、離婚したんです。
カウンセラーたち:続きはまた今度ね。はい次の方ーぁ?

 とおくに、電車の音がする。
 SEガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン

女:、、、、

女:半年前、私の全てを受け入れてくれたハズの男の人と離婚しました。30歳バツイチ。子供はいない。私たちは談笑しながら離婚届にハンコを押した。

 元だんな登場

元だんな:はっはっはっはっは
女:わっはっはっはっは
元だんな:はっはっはっはっは
女:わっはっはっはっは
二人:ぽん(ハンコ)

女:「私は1人でも大丈夫。」そう言うと元ダンナは最後に
元だんな:「お前もう魔女にでもなっちゃえば?」
女:と言った。

 音楽の中、魔女の姿がシルエットで見える。
  魔女、帽子をとりローブをとりホウキをとり小林麻子(パジャマ)になる。

SE映画の予告編の音。

女:うん。うん。あぁー。大変なんだね、子供って。あたしむりだったな子供。
 今?映画の予告編だけずっと2時間見てんの。最近気づいたの。映画2時間みてつまんないよりも、2時間ずっと期待だけでいれた方がいいなって。そう、苗字戻って。バイトはじめた。カウンセリングのとこ。ネットの。見たことない?

 ハロトークのハロくん登場。

ハロくん:Halotalkを利用するには
女:これ、ハロトークのマスコットキャラクター、ハロくん。
ハロくん:ハロ!
女:かわいいでしょ?
ハロくん:Halotalkを利用するにはまず自分の分身を作る所からはじめてください。人間型やロボット、動物や恐竜。自分の写真からアバターを生成することも可能です。ネットカウンセリングの方法は2つ。映像と音声で遠隔カウンセリングをする方法。
もう1つはメールのやりとりでマイペースでカウンセリングを進める方法。24時間あなたのそばに。ハロ!ネットカウンセリングはハロトーク。

女:私はテレアポ。相談しない人。単なる分別係。今の私にはちょうどいい。

 SEカタタカタタカタタカタタタ

女:ワンフロアーに100人弱。パソコンをならべて、ヘッドセットつけて。パーテーションごしにたくさんの頭が並んでる。全国各地のクライエントから寄せられるお悩みの概要をデータにおとし、学校、恋愛、進路、仕事、家族、結婚、老後、イタ電、出会い系。カテゴリーごとに種類分け。クラウドのフォルダにピュンと入れる。時間になったら誰かが回収。アレににている。燃える、燃えない、プラ資源。私は、今この仕事で生きている。私は、人の悩みを、分別して生きて行くみにくい魔女だ。

 主婦’s登場

主婦’s:おつかれさまディーース!!ぴよぴよぴよぴよ
女:あ、あ、どうも
1:なれたー?
女:まぁ
2:ま、そりゃなれたか!
1:私たちみたいな
主婦’s:おばさんじゃないし!
女:あ、でも、むずかしいなって
1:あらごけんそん!!
女:いえ
2:今月トップよ!!
1:私たちみたいな
主婦’s:おばさんさておきっ!
女:私、時間あるから
1:いいわあ時間あって!!
女:離婚したので
2:はずSEかしくないのよ!!
1:私たちみたいな
主婦’s:おばさんよりかは!
女:ありがとうございます
1:困ったことあったら
女:はい
2:何でもきいてよ!!
1:私たちみたいな
主婦’s:おばさんでよければ
女:ありがとうございます。
1:でもどおしたのお?
2:この若さでりこーん
1:なにかあったのお??
1:やっぱうわき?
2:どっちの?
1:どっちも?
女:とくに理由は
三人:ないわけないのよ
主婦’s:あるあるあるあるーぅ!!
女:性格の不一致かな
主婦’s:ぴよぴよぴよぴよ!!
1:まぁどんな?
2:もんだい?
1:すごいの?
主婦’s:ちょっとお茶する?
女:いやまだ、残業なんで
主婦’s:バイトなのにぃ?!
女:おつかれさまでーす。
主婦’s:ぴよぴよぴよぴよ、ぱぁ

 主婦's退場。

 SEカタタタタカタタタタ

 ふと、手を止めて、会社の壁のデジタル時計を見る。

女:家に帰ってもやることないから、どんどん残業するな。
 やばい。スーパーしまる。ぐわ。今日もピザ?!あれ?今日何日?
 あ、今日で離婚してちょうど半年だ。、、なんの記念日だ

 SEちゃらんぽろーん

アバター:『老後が不安すぎて、テレビを見すぎます。年金関係の番組を全て録画したら寝る時間が無くなり不眠です』

SEピュン
SEちゃらんぽろーん

アバター:『妻も子供もおりますが、私ゲイです。カミングアウトすべきか、このまま自分を偽って生きていくか』

SEピュン
SEちゃらんぽろーん

アバター:『メンヘラっ気は昔からありました。薬と自傷がやめられず、やさしくされると誰とでも付き合ってしまいます。』

SEピュン
SEちゃらんぽろーん

アバター:『ブサイクすぎて彼女ができません。昨日体重が100kgをこえました。』

SEピュン
SEちゃらんぽろーん

アバター:『もう、消えてしまいたいです。』
女:………。

SEピュン

女:このテレアポを始めたときは、やめようかと思った。

 半年前

   SEポキーン

チーフマネージャー:そっかー。数字見る限りあなたに合ってると思うんだけどなぁ。
女:悩みの内容が、エグすぎて。
チーフマネ:クライエントの悩みを仕分けするだけですから。
女:仕分け、、。
チーフマネ:その後は、それなりのカウンセラーがそれなりのカウンセリングしてそれなりに処理するわけだからさぁ
女:気持ち悪いんです。中途半端で。
チーフマネ:あ。最後まで面倒を見たい。そういうコトネ?
女:え?
チーフマネ:ネットメンタルクリエイター3級の資格講座うけてみませんか?
女:ネットメンタルクリエイター3級?
チーフマネ:んー、軽いカウンセラー?軽いセラピスト?みたいな?感じの?
女:いや、まだ、はじめたばっかだし。
チーフマネ:佐々木さん。お仕事のコツですが。
女:はい。
チーフマネ:困ったら未処理フォルダにピュン。
女:、、、ピュン。

 SEカタタタタタタタカタタタタタタタ

女:一週間で慣れた。
 だって世の中は不幸であふれている。
 テレビをつければ不幸が目の前をピュンと通過してく。
 他人の不幸がふさわしい音楽で編集されて飛び込んでくる。
 それをニュースと呼び、次の日の雑談に使う。
 今までだって、そうしてきた。

 SEちゃらんぽろーん

 小学生6年か中学1年生くらいの女の子。
 芸術的なアバターを持って登場する。

女:お。芸術的なオリジナルアバターきた。
 クライアントID『五月のはじめ』。えーと。件名なし。
 案件。『私の中の天使と、悪魔のこと』
 え?これだけ?あ!こゆこと!?

 楽しい音楽にのって、天使&悪魔登場

天:わたしあなたの心の中の天使。
悪:おれ、悪魔。ここはコンビニです。
女:え?
天:コンビニのコピー機の前にお金が落ちていたら?
女:お金?
天:店員に届ける?そのままポッケ。
女:いくらかによるわ
天:じゃ500円
女:ぎゃ微妙
天:どうする?
女:店員に届ける
天:でもなぜか、店員さんが出てこない。
女:え。
天:すると頭の中でささやき声がします。

 悪魔登場

悪:ポッケ入れちゃいなって。
女:出た!悪魔のささやき!
悪:だって店員でてこないんだもん。
天:誘惑にまけないで!!
女:う、うん!
悪:財布拾ったわけじゃないし。どう思う?
天:わたしに聞いてんの?
悪:お金に名前書いてないじゃん。ごほーび。
天:ごほぉび?
悪:おまえにも半分やるぞ。ちょっといいアイス買え。
天:ちょっといいアイス
女:え?
悪:さんはい
天・悪:ポッケいれちゃいなって
女:おい!!
天・悪:ばれやしねぇよぉ!
女:もっとがんばれ天使!

 照明戻り。音楽消える。
 カタタカタタ

女:はっ!!寝てた!!ああ!ちっちゃい「つ」が一杯!
 「っっっっっっっっっっっt」ってなってる!
 えっと、なんだっけ

 女の子、再び登場。

五月のはじめ:私の中の、天使と悪魔のこと、

 SEピュン

女:お悩み解決してほしいなら、もっと詳しく書きなさい。

 五月のはじめのアバター、未処理フォルダへ分類され、

五月のはじめ:あ。

 五月のはじめ、とぼとぼ退場する

 (舞台案1:壁に分別用のクラウドの穴があいている。またはゴミ箱)

女:おし。帰るか。タイムカード!余談だが私はこのタイムカードの。
タイムカード:シャリ
女:という音がたまらなく好きだ。

 (スマホへ目を落とし、ピザを注文する時間)

女:離婚以来、はっきり言って人生に対してのやる気が失せた。私の人生はもうだいたい終わったのだ。フッ(自嘲)終わってんな。スマホの待ち受け画面にピザアプリが3つ並んでるとか。ドミノピザーラピザハット。(ピザとりに行く)
友人:デブの呪文かよおおおお!たべたーーーい!

 女、自宅でピザ食っている

女:今年4人目が生まれるおさななじみのY子は、普通の幸せを両手を広げて余さず享受している太陽のような子で、職場で年上の旦那を見つけコトブキ退社。2年おきに10月生まれの子供を産み続け、
友人:四人目妊娠中〜〜!!
女:現在も記録更新中である。
友人:マコもまだ30なんだから!!
女:あさこですッてば
友人:マコはマコ!
女:そのあだ名で呼ぶのワイ子だけになっちゃったな。

 元だんな

元だんな:子供は最低二人は作りたい。僕は一人っ子だったから。マコも一人っ子?
女:消えてー!!

友人:子供はねえええかわいいよおお!
女:10月に産むコツとかあんの?
友人:マコは全然わかってない!!
女:はいすいませんでした。
友人:まあたそうやってほうらあ!
女:ちなみにワイ子のワイはうるさいからだ
友人:しあわせになってほしいんだよ!!マコにも♡
赤ん坊:おぎゃああああ!!
友人:やば!!キララによばれた!!
女:キララによろしく
友人:またLINEしてねぇ!!
女:あ、これLINEだったのか。
友人:婚活!!ファイト!!

 友人退場

女:婚活、、、、
 子供が欲しくなかったわけではない。
 もっと自然にそうなるもんだと思ってた。
 でも違った。
 欲しくなったら作ろうと思った。
 そしたら、
 あっという間に3年が過ぎて、私たちは離婚届けにハンコを押した。

SEガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン

女:満員電車。ラインやフェイスブックやツイッターで、ここじゃないどこかとつながってこの無駄な時間をやりすごそうとしている。電車からつながる無数の電波がもし見えたら、巨大なゲジゲジが世界とつながりながら、ぐるぐる這いずり回ってるように見えると思う。

SEガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン

女:、、私に婚活の権利あんのかな。

 女子高生1、2

JK1:やばいって!それ絶対犯罪じゃね?
JK2:それな、森はえる
JK1:彼氏NTR記念に、タピる?
JK2:おごられまっくいーん!(自撮り)
Jk1:クセがすごい!
二人:(写真見る)ばえるー!!!
JK1:相手「三十」っておばはんじゃん
JK2:悲しみ熱盛りでないたー!

女:ガキを責める権利はない。
 「三十になる前に結婚できてよかった」と27歳の私は心の底から思った。
 実際三十にさしかかった女性にたいして
 世の男性はあきらかに態度を変える。
 冷静に考えて、
 三十を越えた離婚したての女に
 どんな反応をするのか、
 いや、もしかして反応すらしないんじゃないかと
 ぎゃくに、笑えてくる。

 ちかん登場痴漢する。

女;あれ?
ちかん:ガタンまったくまんいんだからゴトーン
 ガタンまんいんだからまぁしかたがなくゴトーン
女:ちかんですか
ちかん:年考えろばばあ!!終わってんな!!終わってんだわ、世の中終わってんだわあ!!

 SEプシュー

女:、、そうか。終わってるのか。

 SEカタタタカタタタタタタタ

女:、、、、、

 SEちゃらんぽろーん

女:「げ。また?」ワンフロアに百人のテレアポがいるのにクライエントID『五月のはじめ』のメールはまた私に届いた。

女:案件『わたしの中の悪魔との約束を守るには』、、。
 えーと。分類。、、なんだこれ。、、約束?えーと、契約トラブル?

 SEピュン

女:次の日

 SEちゃらんぽろーん

女:連投?『わたしの中の悪魔の意見が通りすぎる』意見?えーと、人間関係?

 SEピュン

女:次の日

 SEちゃらんぽろーん

女:うわ。もう日課になってる?
 えーと『魔女になるにはどうすればいいですか?』、、女の人か。
 えーと仕事やめて、鍋買って、毒ガエルとか煮たらいんじゃないか。
 五月のはじめさん、、あ、分類。、、転職問題。

 SEピュン

女:次の日

 SEカタタタカタタタタタカタタタタタ

女:今日もどうせくるんだろ。あいつめ。あ、そうだ。
 、、検索、、、五月のはじめ。「五月の、、月の初めのころ」しっとるわ
 五月一日。すずらんの日。関係ないな。
 あ、動画だ。音楽?へー。Kalenda Maya。クリック
 
 SEちゃらんぽろーん

女:『私の中の悪魔が殺される』

 音楽「Kalenda Maya」

女:、、、、これは、、白昼夢。

 白昼夢。

 女の子があらわれる。

女:どうしたの?
女の子:悪魔が言うの。
女:なんて?
女の子:僕に魔法をかけろ魔女。
女:、、、、魔女。
女の子:助けて。
女:え?
女の子:私の中の悪魔が殺される!

 音楽あがる。

女:!

 ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン!!!!!

 女、ふりむくが、女の子の姿は見えない。

チーフ:佐々木さん?

 曲、突然切れる。

女:え
チーフ:だいじょうぶですか?
女:え?
チーフ:会社のパソコンで大音量で音楽かけちゃだめですよ。
女:うわ!!すみません!!
チーフ:疲れてます?
女:大丈夫です!

 チーフ退場

女:白昼夢とか。やばい。あれ?大丈夫か私。
 いや、大丈夫。私は、まだ大丈夫。

SEちゃらんぽろーーーん

女:あ、、また、、、

 主婦's登場

主婦's:またああああああああ????!!
1:こぉおおおわいわああ
2:だいじょうぶぅ?ねらわれてない?
1:あなたキレーだからぁああ
女:いや、たまたまですたまたま
1:こういうときコレよ。
2:コレコレ!
女:コレ?
主婦's:こーーーれっ!!!

 主婦's、お揃いの数珠をつけてる。

女:え
1:うちの子これで合格!
2:旦那の浮気もピタ!
1:肩こりにも効くの!
女:じゅず

 もじゃヅラについている

主婦's:数ーーーー珠!!!
女:お。おしゃれ。
主婦's:あなたも数珠る?
女:休憩入りまーす

 女、立ち眩む

女:うわわわ。立ちくらみ。やば、最近、ちゃんと、、、

 暗くなる。
 カウンセラーの先生たちの声

カウンセラーたち:眠れていますかねぇ?
女:えっと、どうでしょう。
カウンセラーたち:今日はここまでにしておきましょうかねぇ?
女:わたし、終わってますか?
カウンセラーたち:お薬出しておきましょうねぇ?
女:最近、他人との、距離のとりかたがわからないんです。
カウンセラーたち:はい次の方ーぁ
女:先生あの。私は。
カウンセラーたち:はい次の方ーぁ?
女:先生!

 ポキーン

チーフマネ:早退?オッケーです。タイムカード忘れずにー
女:忘れてた!私の、小さな喜び!

 タイムカード

女:、、、あれ?
チーフマネ:あ、故障かな?
女:、、故障。
チーフマネ:お大事にー。佐々木さん。
女:、、こばやしです。
チーフマネ:あ!入ったとき佐々木さんだったもんだからつい!
女:ははは。家に帰ってコンビニ弁当食べて寝た。
 なんかが、じわじわ、くる。毎日が、もやもや、する。
 呪文をくりかえす。私は、大丈夫。私は、大丈夫。
 夢で私は変な天使に呪いをかけられた。

夢。照明かわる。夢の音。呪いの音楽がきこえる。

女:ぎゃあ!あたしの中の天使がどんどん変な方にいく!

 魔女帽とズラをかぶった天使登場
 銃を撃つ。バーーン!(火薬)

女:わああああ!
天使:おいで悪魔!役に立たないアラサーだよ。
女:役に立たない?!

 悪魔

悪:ヘイ。ヘイ!!ヘイ(つかまる)
天使:世の中には役に立つアラサーと役に立たないアラサーがいる。おまえは
天&悪:役に立たない方だ!!
女:やめろおおお!!
天&悪:アラッサーナッタラーアラッサーナッタラー
女:アラサー、なったらって言ってる!!
天:のろいは気もちだよ!!

 天使、ネクタイを出す。
 悪魔、ハサミを出す。

女:それは!!私がプレゼントした元ダンナのネクタイ
天:バーバリーエルメースユナイテッドアローズ
女:ハサミでなにするの!

 切る

天&悪:キーーール♫

切れたネクタイをかかげて妖艶におどり出す。

天:毎年毎年ネクタイでごまかしただろう〜
女:え!!
悪:「サラリーマンには何本あっても困らない」で有名な
天&悪:ネクタイでごまかしてただろう〜〜
女:ギクリ!
天:もらっただんなはこう思う。
悪:とにかく働け。ってコト?
女:やめてええええええ!!
天&悪:アラッサーナッタラーアラッサーナッタラー(まわりだす)
女:やめて
天&悪:もぉっとかんがえて〜♫(以下続く)
天:なんで離婚されたと思う
女:ごはんつくるのサボるから?
天:ふふふふ
女:せんたくものためるから?
天:はっはっはっは
女:そうじたまにしかしないから?
天:うわっはっはは
女:性格がよくない?相性がわるい?しゅみがあわない?ハナシがあわない?わたしつまんない?
天&悪:アラッサーナッタラァ!!
天:もう言葉は必要ないだろう

 変な魔女、毒ガエルの被り物をかぶせる。

天:今日からみにくい毒ガエルだ。しゃべってみろ
女:ゲコゲコ、ゲコゲコ
天:言葉は誰にもつうじない。
天&悪:助けになんてならない。
天:魔女失格だ。
天&悪:だれの役にも立たない。
天:誰も愛さない。誰にも愛されない
女:ゲコゲコ、ゲコゲコ
天&悪:アラッサーナッタラァ、アラッサーナッタラァ、
天&悪&魔:もぉっとかんがえて〜?

女:夢からさめてメールを開くと、元ダンナからだった。
 「元気か」ときかれた。
 いちお、「元気だよ」と答えた。
 「大丈夫か」ときかれた。
 だから、「大丈夫」と答えた。
 もう一度やり直そうとか、言ってきたらどうしよう。

 SEカタタタタタカタタタタタカタタタタタ

女:別に、嫌いになって別れたわけではない。
 なんだかこのまま一緒にいても
 お互いのためにならないんじゃないかって思ったから。
 そもそも結婚ってなんのためのシステムなんだろうって。
 大げさに結婚式もしなかったから、
 これだったら
 ただ同棲してるのとあまり変わらないねって思い始めて。

 SEカタタタタタカタタタタタカタタタタタ
 ちゃらんぽろーん。ポキーン。
 SEカタタタタタカタタタタタカタタタタタ

女:でも、いつの間にか、あっちが用意してきたんだよな。離婚届。
 いや。いかん。今戻っても、同じだ。たぶん。
 どうせ、もやもやしたままだ。

 SEちゃらんぽろーん

女:あ。、、『魔女になって、悪魔を守ってあげるには、、』よしきめた!

 SEピュン

 女、立ち上がる。

女:進まなきゃ。

 ポキーン

チーフマネ:え?ほんと?
女:ネットメンタルクリエイター3級受けます。
チーフマネ:佐々木さーん!
女:小林です!
 勉強をはじめた。
 映画の予告編集も見なくなった。
 私はその通信講座にのめり込んだ。
 いい調子だ。
 ひさしぶりの感じ。
 新しいことに挑戦してる。
 何か、変わる気がする。
 変わらなくちゃ。
 この調子。
 もやもやから、
 抜け出す。

カウンセラーたち:でも。
女:え?
 
 暗くなる。ろうそくの明かり。

カウンセラーたち:毎日同じ夢をみるわけですねぇ?
女:毒ガエル。
カウンセラーたち:毒ガエルですねぇ?
女:もうずいぶん生きている、みにくい毒ガエル。の夢です。

 音楽が聞こえる。夢がはじまる。人形が使われる。

2:夢の中の毒ガエルは、
3:ずいぶん大きくなって、
2:だんだん黒くなって、
3:だんだんイボだらけになって、
2:みにくさを増した。
3:みにくいものどうし…魔女とは友人になった。
2:だけど、
3:魔女は年老いていて、
2:先に死んだ。
1:毒ガエルはまた一人になった。ずいぶん、月日が流れた。
2:もうずいぶん生きている、みにくい毒ガエル。

 ジリリリリリリ!!

女:玄関のドアポストに認定証が届いていた。
 私は最短の2ヶ月の通信講座でネットメンタルクリエイター3級を取った。
 もう、不安になるくらい本当に、簡単だった。

主婦's:さみしくなるわーーー!!
女:上の階行くだけですから
1:難しかったんじゃないのぉ?
女:まあ、それなりにはい。
2:上昇志向?!
女:いや、まだ実績ないんで
1:あらもう気分はセラピスト?
女:え?
主婦's:カウンセラーの先生〜〜〜!
1:ちょっと調子にのってる?
2:やだ冗談よぉ!
1:笑って笑ってぇ?
女:もうあまりお会いすることもないと思います。勤務帯も違うんで。
主婦's:おやあ?!
女:今まで仲良くしていただいてありがとうございました。さようなら。
主婦's:ま!ピヨピヨピヨピヨ!

 女、エレベーターに乗る。

女:切り捨てる。
 私の人生を進む。
 他人に望まない。
 期待をするから、ガッカリするんだ。

 白衣を着る。

 上のフロアがあく
 SEウィーン

 ポキーン

チーフマネ:東の角部屋があなたの面談室です。
女:部屋が、もらえるんですか。
チーフマネ:カウンセリング業務になると、映像と音声をあわせての、つまりテレビ電話になります。クライエントとのプライバシーを守るためです。
女:頑張ります。

 パソコンの前に座る。

 SEちゃらんぽろーん

女:わ。
A:お願いしまーーす。

 ポキーン

チーフマネ:クライエントはだいたいアバターと呼ばれるキャラクターのままです我々は彼らの信頼を得るため、顔だしです。ニックネームだけゆるされています。

A:いくつですか東の魔女先生
女:え?
A:いや見た目若いなぁと思って。
女:あ、そうですか
A:「いくつに見えるう」とかやめてくださいよ?ははは
女:はい、えっと
A:いくつっすか、ぶっちゃけ
女:さんじゅうです
A:うえー、見えなーーい。
女:あの、えっと、ほんじつのお話はどのような?
A:こっちいくつだと思います?
女:わかりません
A:あ、ちょっとめんどくさくなってますか
女:えと
A:正直に言っていいすよ
女:え。いや。なってません
A:いやなってるっしょ
女:なってません
A:なってるよ
女:なってます。
A:やっぱりー!
女:すみません
A:チェンジで
女:は?
A:チェンジ。
女:……

 ポキーン

チーフマネ:クライエントには『チェンジ』の権利があります。カウンセリング内容が不満な場合、別のカウンセラーと交替させることができます。

A:先生におれのなやみわかってもらえそうにないかなあって。
女:まだなにもうかがってませんが
A:いや怒ってるし
女:怒ってません
A:やっぱチェンジされるとあれですか?
女:は?
A:じゃあいいですよ
女:え?
A:お願いしてくれたらチェンジなしで話ししてあげます。
女:……お願い?
A:お願いします。チェンジしないでください。って
女:お願いします。
A:えー、どおしよっかなー!

 SEボゴォ(A消える)バタン

女:カウンセリングにならないと判断した場合は強制退出ボタンをクリック。あとは、会社の判断に委ねる。これ、強制退出ボタン。(壁にある)

 SEちゃらんぽらーん

女:あ。
アバター:『叱られたいんです。それでも時には甘えたい。目元が母に似てますね。』

 SEボゴォ。消える。バタン

女:おや?

 SEちゃらんぽらーん

アバター:『僕は脱いだらスゴイです。あなたのスリーサイズを』

 SEボゴォ。消える。バタン

女:あれ?

 SEちゃらんぽらーん

アバター:『当方年収1千万。若く見えれば30代でも可』

 SEボゴォ。消える。バタン

女:これは、、、

SEポキーン

女:あいつら出会系サイトと勘違い
チーフ:してるんですよぉー。
女:どうにかならないんですか
チーフ:ならないんですよぉ、料金発生してるんで。そういったグレーなラインでサスティナブルに対応願えませんかぁ
女:サスティナブルってなんですか?
チーフ:佐々木さん。
女:小林です。
チーフ:小林さーん文科省所管の日本臨床心理士ともなれば、そういった案件が回される事は皆無と言っても過言ではないんですが、佐々木さんの
女:小林です
チーフ:小林さんのネットメンタルクリエイター三級という資格。あれあくまでも我々HaLoグループで認定する新しい資格なわけで佐々木さん
女:私離婚したので今は小林です。
チーフ:でしたね!すいません!
女:まともな案件って
チーフ:きます!そのうちきます!

 チーフ退場

 SEカタタタタカタタタタタカタタタタ

女:結局、まともな相談は全体の二割程度らしい。
 はっきり言って。拍子抜けした。

 SEカタタタタカタタタタタカタタタタ

女:結局、またおんなじだ。
 、、そんなに簡単に変わらない。

 SEちゃらんぽらーん

アバター:『ご趣味はなんですか?僕は夜のスポーツ』

 SEボゴォ。消える。バタン

女:、、それしかないのか。

 SEカタタタタカタタタタタカタタタタ

女:期待しすぎた。
 結婚しても、離婚しても、わたしのもやもやはずっとある。
 趣味。そういえば趣味。趣味と呼べる趣味がない。
 
 あ!この階のタイムカード。
 わたしの唯一の楽しみ!

タイムカード:ビッ。
女:、、、変な音。

 女、肩を落とす。

女:この先、期待しないなら。
 仕事も、結婚も、遊びも、ダメなら、何があるんだろう。
 もやもや、再発。

SEライン

赤ん坊:おぎゃーーー!!
女:うまれたの?!
Y子:油断した。
女:なんかキャラ変わった?
Y子:生まれたから!
女:ごめんなんか大変なときに
Y子:4人目なんて片乳にぶら下げてテレビ見ながら、洗濯もんたたみつつラインできるから
女:へえ
Y子:仕事で落ち込むとかうらやましい
赤ん坊:るううああああああああ!!
Y子:あ、おなかすいたねぇ、ごめんねぇ

女:うらやましい、、

(TVをつける)

 SEニュース

アシ:また、孤立死です。
TV2:女性のミイラ死体が元亭主の通報により発見されました。
女:…
アシ:死後数カ月が経過しており、

 チャンネルを変える

TV3:次のニュースです。少子化による年金

 チャンネルを変える

TV4:次のニュースです。日本の離婚率が世界

 チャンネルを変える
 チャンネルを変える
 チャンネルを変える

TV2:次のニュースです
TV3:次のニュースです
TV4:次のニュースです

 リモコンを捨てる。

女:あ、ごはん

 女、スマホをみる

女:、、、

 ピザを注文しようとして、やめる。寝る。

<夢>

2:もうずいぶん長いこと生きている毒ガエル
3:そこなし沼のそばの居心地の良いいつもの岩のうえにひなたぼっこをしてた。
2:人間だった頃は、どうしてあんなにあくせくはたらいていたのだろうと
3:自分を毒ガエルにしてくれた魔女の顔もわすれてしまった
2:その魔女が死に際にくれた帽子はお気に入りで、
3:私のボコボコのイボだらけの背中にちょうどよい。
1:風下から突然何かの音がして、そっちからきたのは、、

 SEジリリリリリリリ
 SEガタンゴトンガタンゴトン

女:検索。サステナブル。「維持できる」「耐えうる」「持ちこたえられる」を意味する形容詞。

 SEちゃらんぽろーん

ウルトラの父:なんとおっしゃいましたか?
女:ウルトラの父さんの場合、私このさいですね、はっきりと言ってみてはどうですかと思います。
ウ:え。
女:奥さまに。
ウ:いや、しかし、
女:自分は、ゲイだと。奥様に。
ウ:しかしですね。
女:カミングアウトなしにはこの問題は解決しません。
ウ:でも、息子も
女:わかってくれますよ。
ウ:しかし、
女:以上になります。
ウ:、、ありがとうございました。

 messenger SEポキーン

チーフ:佐々木さん先月の評価が反映されてます。確認してください。今。
女:今?小林です。
チーフ:この評価のままだと問題あります。
女:問題?え?、、「1」?
チーフ:10段階評価で「1」です。
女:みなさん「ありがとう」って言ってくださるんですけど
チーフ:そんなもん日本人ならだれでもいいます

SEガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン

女:、、このままだれにも感謝もされず、

 SEカタカタカタ

1:カウンセラ〜の先生〜!!
2:もうあいさつもしてくれないわぁ
女:え。
主婦’s:カウンセラ〜の先生〜!!
女:このままだれもにも必要ともされず

 SEちゃらんぽらーん

アバター:『夜のスポーツしませんか』

 SEボゴォSELINE音

Y子:しあわせになってほしいんだよお
女:なにも成し遂げず
 SEちゃらんぽらーん

アバター:『補正下着入りませんか?』
女:壊れて

 SEボゴォSEちゃらんぽらーん

A:『まだ怒ってる?』
女:年老いて

 SEポキーン

チーフ:佐々木さんならまだ大丈夫!
女:死ぬんだろうか。

女:私は、ひとりでも、、大丈夫。

 SEカタタタタカタタタタカタタタタカタタタタカタタタタカタタタタ
 SEポキーンSEボゴォSEちゃらんぽらーん
 SEガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン

女:ウワアアアアア!!!!

 音が止み

 SEメール音

 女、メールを開く。

女:フッ(自嘲)

 SEちゃらんぽろーん

子供(声):こんにちわー
女:ちょっと無理。
子供(声):え?
女:ちょっと、人の相談とか、、、無理。
子供(声):あのう
女:結婚するって。元だんな。

 女退場

 舞台にパソコン

 子供登場

子供:あのぉ、だれか、、もしもし、もしもーし

 暗(白衣を脱ぐ)

2:もうずいぶん長いこと生きている毒ガエル
3:風下から突然子どもの声がして
4:そっちからきたのは元だんなとその家族だった。
1:私はものすごくうろたえて、どこかへかくれようとしたが、
3:このあたりにはなにもない。
1:この毒ガエルのすがたを見られたくない。
2:思いあまって私は魔女のぼうしを脱ぎすて、
3:底なし沼へとびこんだ。
4:どぶんと大きな音がしたが
1:元だんなはそれに気づかず、
3:底なし沼にも気づかず、
4:家族とそのままとおり過ぎた。
1:私はゆっくりと底のない沼をしずんでいった。
3:どうして私は、
1:こんな、
2:バカなことをしたんだろう。
1:どうして私は、
4:こんなことをしたんだろう。
1:どうして私は…。

 ろうそくの火

カウンセラーたち:眠れていますかねぇ?
女:だから夢をみるんじゃないですか。
カウンセラーたち:今日はここまでにしておきましょうかねぇ?
女:はっきり言ってください。
 私のせいですか?
 私がおかしいせいですか?

 SEポキーン

女:テレアポに戻りたいんです。私にはむいてないみたいで。

 チーフ。なんともいえない顔で眺める。

女:?、、あの。
チーフ:あ。ごめんなさい別のこと考えてた。
女:止めないんですね
チーフ:は?
女:なんでもないです。
チーフ:あ、止めて欲しい感じ?もう少し頑張ろうよ、みたいな?
女:あっさりしてるんだなと。
チーフ:ああ、そういうことね。はい。してますよ。あっさり。

 間

チーフ:こういうの知ってます?「心理三分の一説」
女:?
チーフ:心理学を専攻する人間の三分の一は普通の人、三分の一は過去に病んでた経験のある人。三分の一は、今、病んでる人。
女:え
チーフ:ユング、フロイト、ロジャース、アドラー。特にここ20年、日本は未曾有の心理学ブームです。
女:、、、
チーフ:ちなみに僕は過去にうつ病でした。患者は増える一方です。
女:、、
チーフ:もし、眠れなかったら、合う薬探してくれる精神科医、紹介しますけど。
女:結構です。
チーフ:部署変え申請しときます。明日すぐにってわけにはいきませんけど。

 チーフ退場

女:(ため息)

 スマホみる。

女:、、、

 スマホしまう

女:魔女。なれるもんならなりたいわ。
 
 SEちゃらんぽろーん

 五月のはじめ登場。

女:(ため息)よりによって。、、おまえか。

 SEちゃらんぽろーん

女:案件『魔女になりたい』、、、。

 SEちゃらんぽろーん

女:、、、。もう、ヤケだ。

 ばっさああと、白衣を着る。

女:どうぞ。
五月のはじめ:よろしくお願いします。五月のはじめです。中学1年生です。
女:先日は申し訳ありませんでした。えーと、、投げ出しちゃって。
五月のはじめ:、、、
女:ごめんなさい。なんか気乗りしなくて。いろいろで。
五月のはじめ:そんなこと言っていいの?
女:たぶんダメ。だけどもういいの。ヤケだから。たった二ヶ月で取ったネットメンタルクリエーターという怪しい資格のカウンセラーだから相談しても解決してあげられないと思います。それでもよければどうぞ

五月のはじめ:私、たくさんカウンセリングや診療内科うけたんですけど
 なんだかどこもパッとしなくって。
 なんでパッとしないのか自分なりに考えたんです。
女:、、
五月のはじめ:話しを聞いてくれない。
女:、、、
五月のはじめ:そのかわりあんまり話したくない私のこと根掘り葉掘り聞いてくるんです。自分のことなんて上手に言葉にできないから結局あんまり伝わらない。
女:、、
五月のはじめ:自分のことなんてわからないし。
女:、、、
五月のはじめ:でも無理して言えるだけ言って。
 小さいころのトラウマだの、親のせいだの、気質だの、体質だの、
 それが原因ですっていうんです。
女:あ
五月のはじめ:そしたらそれで解決したような顔になる。
 「どうですか?僕は原因を突き止めたでしょう」って。
 でもほんとはもっと
女:ほんとはもっと、私の話を聞いてもらいたいのに。
五月のはじめ:寝れていますかねぇ?とか言って。
女:そんなこと聞かれたら寝れてないような気するから
五月のはじめ:寝れてないかもしれません
女:そしたら、
五月のはじめ:お薬だしましょうねぇ。
女:焦らないでいきましょうねぇ。
五月のはじめ:今日はここまでにしておきましょうねぇ?
女:わたし、勇気だして打ち明けたのに。
五月のはじめ:勇気だして、ここにきたのに
女:今日はここまでにしておきましょうねぇ?つって、そんで、
五月のはじめ:次の方ぁって

 フラッシュバック

元だんな:結局何が問題なの?なんの焦り?
女:え
元だんな:結論から言ってみて?解決できることなら解決するし。
女:あの
元だんな:何かやりたいけどできないってはなし?
女:ええと
元だんな:今まで出来てたけど出来なくなったってはなし?
女:もやもやって
元だんな:まずその、もやもやってのがわからないから、俺。
女:もやもやはもやもや。なんかうまく言えないけど、もやもや。
元だんな:病院行ってみたら?そういう。
女:え
元だんな:そういうさ。頭の。いや。心の。
女:わたし病気なの?
元だんな:わからないけど。
女:そうなのかな
元だんな:自分が一番よくわかってるはずじゃない?自分のことなんだから。
女:自分のこと。
元だんな:俺次あるから、ごめん。
女:ねえ。私たち。
元だんな:え?
女:なんで結婚したんだっけ?

 元だんな、消える。

五月のはじめ:私は学校でも家でもうまくやれない。
 私の中で、悪魔が、悪魔みたいなの人が、大きくなってく。
 このままじゃ、やばいって、どきどきする。
 どきどきをうまく言えない。
 言葉にすると、なんかちがくなる。
 ちっちゃいころは、大丈夫だったのに。
女:、、うん
五月のはじめ:東の魔女先生。どうしたら私は魔女になれますか?
女:悪魔を飼っちゃうつもりでしょ
五月のはじめ:!!
女:魔女になって。
五月のはじめ:、、、そう!
女:おんなじこと考えてた子、知ってる
五月のはじめ:それすごい!
女:だけどごめん。わたし助けてあげられないと思う。やめるから。
五月のはじめ:え?
女:わたしは、まともな人間と思ってたけど。
 たくさん、カウンセリングうけて
 たくさん、薬ももらって。
 もう大丈夫って思ってたのに。
 たぶん、今病んでる人だ。
 というわけなので、さよなら。
五月のはじめ:やめない方がいいのに!
女:え
五月のはじめ:やめない方がいいのに絶対!
女:どうしてそんなことわかるの
五月のはじめ:わたしわかる!そういうの!
女:なんだよそれ
五月のはじめ:わかるから!
女:やめてちょっと
五月のはじめ:なんか!絶対やめない方がいいです絶対!なんか!
女:わかるわけない!!
五月のはじめ:、、、、

 間

女:ごめんね別にあなたに限ったことじゃないの。みんな心配してんだかおもしろがってんだかしらないけど色んな言葉をかけてくれる。だけど見当違いなの。どの言葉もひとつのこらず意味がわからないの。ふだんは気にしないことにしているの。わたしの言葉とあなたの言葉は似てるけど全然ちがうから。楽しいねとかおもしろいねとかきれいだねだとかさみしいねとかかなしいねとかそういう事。わたしとあなたの言葉はちがうから。同じもの見ても同じこと言ってもどこか全然ちがうから。だんだんいっしょになってくるって思ってたけどぎゃくだった。別になにも変わらない。たぶん私が悪いんだと思う。
五月のはじめ:先生
女:ごめんなさい、なにいってんだわたし。
五月のはじめ:(かぶりをふる)
女:今日はごめん。切る。
五月のはじめ:、、
女:なんか、泣きそうだから。
五月のはじめ:先生また話しに来ていいですか?
女:やめるんだってば。先生じゃないよ。
五月のはじめ:わたし
女:?

 アバターを置く。

子供:わたし、本名、梅原摩耶(まや)です。
女:、、私、中学生になにいっちゃったんだろう。
子供:先生のこと、なんて呼べばいいですか?
女:小林麻子、、、マコ。

 音楽

女:毎日、その子は現れた。

 ちゃらんぽろーん

女:聞いたよカレンダマヤ。
子供:あ、五月のはじめ。
女:いい曲。
子供:なんかこう
二人:わくわくするよね!
女:なんかはじまる感じ
子供:不思議なこととか!
女:これがもう800年前からあるなんて
二人:すごいよねぇ〜〜!

女:吟遊詩人!ラインバウト・デ・ヴァケイラス!
子供:12世紀南フランスのトルヴァドール
女:名曲!カレンダマヤ!
子供:日本のタイトル、五月のはじめ。
女:それで渋いペンネームなわけね。
子供:たまたま、魔女のこと調べてたら中世で。
女:あー。ね。私も調べちゃった。
子供:なんであんなことしたの?魔女狩り。
女:異質なものを、排除しようとするんだよ。

女:そして少しづつ、私たちは友達になった。

 ちゃらんぽろーーん

女:魔女になるには!
子供:やっぱりありました!魔法学校!
女:うそ!
入学金は120ドル!
女:え、安くない?1万円?
それなりに魔法使えるようになるには7年!
女:使えるようになるんだ!
子供:グレー魔法学校!ホグワーツかよ!
女:なにそれ?
子供:ハリポタじゃん!
女:ごめん、あたしSFみないの。
子供:ハリポタはファンタジーだよ!
女:怖いじゃんなんか
子供:まず見て!!
女:ちょっと待った!魔女の定義が違うんじゃないか!?
子供:魔女といえば?
女:老婆!
子供:ええ!?
女:違うの?!
子供:魔女の宅急便!
女:なにそれ?
子供:ジブリジブリジブリ!!
女:アニメみないから
子供:何見るの?
女:韓流。
子供:おばさんかよ!
女:おいいい!!!

 ちゃらんぽろーん

女:みましたあ!
子供:みた?
女:泣きました!
子供:どれみたの?
女:ハリーポッター賢者の石!
子供:泣くとこある?
女:あるよ!!
子供:どこで?
女:たくさんのフクロウが手紙をハリーに(泣き)
子供:そこ?!

女:私たちは友達になった。

 ポッキーン

チーフ:えええええええ?!!続ける?
女:ごめんなさい、コロコロと。
チーフ:まぁ、いんですけど、うちとしては。
女:すみません
チーフ:評価見てます?
女:いえ。
チーフ:ま、がんばってください。

 ちゃらんぽろーーーん

女:えーと、評価。
子供:どしたの?
女:はち
子供:え?
女:評価、あがりまくり。
子供:ほらーー!
女:うれしーー!!!
子供:やったーーー!!!

女:毒ガエルの夢を見なくなった。
 自分の中で何かが変わった。

 ちゃらんぽろーーん

子供:男子はわからない
女:つきあったことは?
子供:ないないないないない!!!
女:今小学生で彼氏いたりするでしょ?
子供:するかもだけど私は無理
女:えーーそうかな
子供:むりむりむりむり
女:好きな人とかは?
子供:、、、
女:いるんじゃん!!!
子供:だめ!この話!なし!
女:名前は?同じクラス?かっこいい?!
子供:チェンジ!
女:はあ?!
子供:チェンジで!!!別の先生お願いします!
女:チェンジなし!
子供:ずるい!
女:話、ききますよ。わたし!
子供:おばさんのえじきにされる
女:はああ?!!

女:見える景色が広くなった。体に力が戻ったことを感じていた。

 ちゃらんぽろーん

 子供、『魔女図鑑』持ってくる

子供:買った!魔女図鑑!
女:魔女図鑑だあ!懐かしい!
子供:魔女とは!
女:中世ヨーロッパ。悪魔と契約を交わして魔力を得た人間のこと。
子供:薬草・自然療法・占い・悩み相談・ヒーリングなどを行う女性!
女:へー、そうなんだね。
子供:自分のためではなく、クライアントの依頼で魔術を行う
女:ほう。
子供:マコじゃん!
女:へへへへへ
子供:なにその薄ら笑い
女:照れる
子供:きも
女:はああ?!!

女:私は、逆に、この子に癒されていた。

女:マヤちゃんの中の悪魔って?
子供:ピンチの時のヒーローだから
女:悪魔なのに。
子供:ダークヒーロー。学校行けっていってる。
女:ダークヒーローが。
子供:うん。きびしいよ
女:学校か。
子供:学校ね。
女:私もいじめられてたな。
子供:似てるね
女:でも大丈夫
子供:え
女:ずっとは続かない。
 いつか終わりがくるよ。
子供:、、そしたら
女:うん
子供:いいことあるかな。
女:、、、ある。
子供:、、、

女:わたしは、この子の、役に立ちたい。

 SEポキーン

女:え?
チーフ:セラピストがクライエントに入れこんでくの、危険です。
 逆転移というやつです。フロイトが言うところの。
女:くわしいんですね
チーフ:わたし、心理学系の大学で資格ももってます。
 なんでこんな、ゆるいつながりのカウンセリング事業やってるかわかりますか?
女:…
チーフ:自分以外は全部他人だからです。
女:、、
チーフ:深入りはしないことです。忠告、しましたからね。

 チーフ退場

 ちゃらんぽろーん

女:あれ?今日はアバター?
五月のはじめ:ごめん。悪魔が、問題を起こしちゃって。
女:問題?
五月のはじめ:なんか、どんどん、悪くなってる。混乱してく。
女:混乱
子供:だからもう手術かも。来週の、木曜日。
女:手術?
子供:人格を殺すの。言葉で。魔法みたく消えるの。
女:人格?
五月のはじめ:あ、切るね。お母さん来たから。
女:え
五月のはじめ:マコ。
女:なに?
五月のはじめ:こわい。

 カタカタカタ、カタカタカタタ

女:それから、マヤは現れなくなった。

 子供。カッターナイフを持っている。
 女には見えていない。

 ガタンゴトン!ガタンゴトン!ガタンゴトン!

 暗

 カタカタカタカタタタカタカタカタカタタタ

女:もうマヤが現れなくなって一週間になる。

 カタカタカタカタタタカタカタカタカタタタ

 机の上にたくさんの本。

女:悪魔。自分の中の。悪魔。人格。
 幻聴。幻覚。見えないお友達。
 、、イマジナリーフレンド。
 「みな忘れてしまうのだが、だれにでもイマジナリーフレンドは存在する。
 大人になる段階で、消えたり、一緒になったりする」。

 ポキーン

チーフ:小林さん。
女:手短にお願いします。
チーフ:あきらかに評価下がってますけど
女:出会いが必要なら、そういうサイト行けばいいってアドバイスしてるだけです。
チーフ:クライエントが求めてるのは、解決じゃありません。
女:カウンセラーの仕事は話を聞くことですよね。わかってきました。だから聞く必要のない人は排除してるんです。私、忙しいんです。
チーフ:小林さん。
女:そっちのデータで何か上がってないですか?
 この、五月のはじめさんの、問題。
チーフ:小林さん。
女:はい
チーフ:共感だの、共有だの、受容だの、同一化だの、心理学用語でいいますが。人間、共通の言葉なんてもってないんです。完全にわかりあうなんて、無理です。同じ脳みそを共有してないとありえない事なんです。
女:何が言いたいんですか?
チーフ:カウンセラーの仕事、途中でこなくなることを失敗といいます。
女:、、知ってます。
チーフ:でも、我々が必要とされなくなっただけってこともないですか?
女:、、、
チーフ:いまごろ元気に学校へ行ってるかもしれません。
女:、、
チーフ:倍も年の違うような子のことを、わかろうなんてそもそも無理ってことです。
女:、、、
チーフ:解決なんてできません。
女:でも
チーフ:それに。
女:、、
チーフ:あなたがその子を必要としてるだけじゃないですか?
女:え、、

 チーフ退場。

 ライン音

Y子:うちの子もたまにだれもいない所みて笑ったりしゃべったりしてる
女:頭の中にいる感じじゃないね
Y子:あれ?幼稚園の頃いたよね?マコにも
女:え?
Y子:見えないお友達。
女:うそ。
Y子:魔女だって言ってたよ。
女:魔女?
Y子:うらやましいよそやって悩む余地があって。
女:私だって子供うらやましいよ。
Y子:子育てなんてアクティブなひきこもりだから。
女:無いものねだり
Y子:あんたは私の希望だから。私の歩けない道、どんどん行ってよ。
女:りこんとかな。
ひめ:オギャー
Y子:ひめによばれた。
女:男の子なのに
Y子:上から、ダイヤ、レノン、キララ、ひめ。
女:キラッキラしてるね
Y子:それなー。

女:実家に行って私は、昔の日記をひっぱりだした。

 昔の日記

女:居た。…魔女。名前…マコ。小さい頃…みにくい魔女のまねをしたがったのは、私の中の、マコだ。魔法の本をもやされてママをにくんだのはマコだ。あたらしいお母さんからはなれるおまじないをしたのはマコだ。脱走の日をうらなったのはマコだ。私の中に小さい魔女がいた。

女:連絡がこないまま、水曜日になった。

 ポッキーン

チーフ:最後のメールです。
女:最後。

 メールを読む。

女:「いみなんてないんだ。みんなそのうち死ぬ。虫みたく。死ぬ。道路を一生けんめい渡る、かたつむりをみていた。もう少しでわたりきるとこで、前とうしろに子供をのせたおばさんのチャリにつぶされた。こなごなにくだけた茶色のカラと緑色のしみ。雨がふって次の日の朝には全部消えた。何も変わらない。もともと、ひとりだった。それだけだ。ただもとにもどる。明日。手術。大丈夫。悪魔」

ここから先は

2,586字

¥ 100

たくさん台本を書いてきましたが、そろそろ色々と人生のあれこれに、それこれされていくのを感じています。サポートいただけると作家としての延命措置となる可能性もございます。 ご奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。