二人芝居『ボツ!東京くらげ男』改訂版

二人芝居『ボツ!東京くらげ男』改訂版
作:すがの公

■ファーストクラゲ男

 東京クラゲ男がやってきて、なんかうんちくを語ります。

男:はいこんにちわー。
終わりゆく平成永遠にボク足クセェ、カンバック世紀末、東京クラゲ男です。
今日はクラゲのココがスゴイぞってところをお伝えしていきます。
クラゲです。水の中でプカプカ浮いているあれです。
クラゲには骨がないということはみなさんご存じだと思いますが、無いのはそれだけじゃありません。まず、これはなんとなく気づいていると思いますが手足がないです。
まだないものあります。肺がないです。
もっとスゴイものがありません。心臓がないです。これはすごいです。どうやって血液をまわしてんだというハナシですが、大丈夫です。なんと血液もありません。
クラゲの体にまわっているのは水です。血管のかわりに、水管が通ってます。
それでは今日ぼくが言いたいクラゲのココがスゴイぞというハナシにうつります。
なんとなんと。クラゲには脳がありません。これはスゴイことです。でも動物です!!たとえばミズクラゲ。
「動物界/刺胞動物門/鉢虫鋼/クラゲ目/ミズクラゲ科『水水母(ミズクラゲ)』」
これがみなさんご存じミズクラゲの正式な名前です。立派に動物です。
だけど脳がないのです。じゃあなにを考えているのか。
何も考えていません。
クラゲは5億年前から地球に存在し、その種類は3000種以上。なのに、何も考えていないのです。
これはスゴイ。つまりみなさん、5億年もあったのに何も考えずにプカプカ海の中にただよってきた生物、それがクラゲです。
ほろびゆく惑星お茶にごす俺ダセェこの世界を救うのはオレたちだ。東京クラゲ男でした♡
ケイタイの電源オフでお願いします。

 映像。

■はじまり

 暗。

 都会の雑踏の音が、いつのまにか遠くの波の音に負けて入れかわる。

 白い舞台が青くなる。
 波の音、さらに大きくなり、次第に暗。
 最後のひと波が来て、カットアウト。無音。

 クラゲ男、大きな漫画のカキ文字を出す(めくりになっている)。

 ドタドタドタドタドタドタ(二階に上がってくる音)
 ちゃりん(鍵を出して)
 もたもた(もたついて)
 ガチャリ(鍵が開いて)

 明るくビートの効いたゴキゲンな音楽が鳴る。

 『ヒロイン登場』

 女が入ってくる。

 『北島ハル(ペンネーム)』

女:東京到着!!

 『着替えます』

 (女、着替える。)
 ※その間カキ文字が入り女についての情報をテロップで。

『一九八八年四月二十七日生まれ』『B型』『元腐女子』『牡牛座』『本名波留子(ハルコ)』『リスペクト 手塚治虫』『好きな場所 吉野家』『嫌いな所 海』『世代 ゆとり』『ペット クラゲ(死んだ)』『好きな食べ物 タコ 牛丼』『嫌いな生き物 タコ』『前職 漁業組合事務』『バイト歴 タコ仕分け レジ打ち』『出身 日間賀島(愛知県)』『家族構成 ちゃんとした父母姉・妹』

■さいしょ

 女、着替えをしながら、話し出す。

女:生まれて初めてのまんがは小学校の図書室にあった『手塚治虫の火の鳥』です。壮大すぎて1週間くらいトリップして、友達に本気で心配されました。島で唯一のコンビニっぽい商店タックメイトやまとの漫画をかたっぱしから買おうとして「これは大人用」と売ってもらえなかった時に流した涙を今でも覚えています。殺意を覚えました。
中学になっても私のまんが欲は留まるところを知りませんでした。親はタコ漁のことしか頭にないので、教師に取り入ることが、島のまんが在庫を増やす唯一の方法だと考え、勉強をがんばり、生徒会長をやり、予算で図書室にワンピースを全巻そろえようとしたら、やっぱり止められ、そのときに流した涙も今でも覚えています。憎しみに近いです。
卒業の頃には、私はナルト、ワンピース、ドラゴンボールの同人誌を学校のコピー機を私物化して作っていました。なぜ少年誌に寄ったかというと、姉(メンヘラ)の彼氏が半島のヤンキーでジャンプを輸入してくれたからです。

 『現職』(のプロジェクターが残っている)

 『漫画家(←売れない)』

女:私は、すべてを捨ててココシェアハウストキワ南千住205号室に来たのでした!!

■東京2日目

 曲切れ

女:書こう。まんが。

 (あらためて部屋をみまわす)

女:三畳半って。まんがしか描けないじゃん。藤子不二雄か。手塚治虫か。赤塚不二夫か。足塚茂道か。トキワ荘か。これじゃまるで、まんが道DAYO!!浮かれてるワタシ!プロになってアシスタント増えて!すぐに引っ越すことになると思いますが!
シェアハウストキワ南千住205号室、あらためまして、ヨロシクお願いします!!

 『ドドン(描き文字)』
 曲

■立ちこめる暗雲

 女、漫画の道具を準備しながら、話す。
 プロジェクターで情報が出続ける。

女:島に高校はなく、船と電車を乗りついで片道1時間半で半島に通いました。そこで所属したのが漫画研究会です。私はとうとう漫画世界のはしっこに足を踏みいれたのです。目につくまんがをすべて買ったら15年分のおこづかいは一ヶ月で消えました。そこで、タコの仕分けバイトの他に、高校近くのスーパーでレジ打ちを始めました。学校の机では、まんがの案とネーム。放課後はレジうち、家では寝る暇を惜しんでペン入れ、朝はタコの仕分け。
私の一番のファンだった妹はまんがのアシスタントとして、消しゴム、ベタ、トーンはもちろんのこと、親の説得、教師のケア、果ては友人の選別まで、私がうとわしく思っていた全ての事をうけもってくれました。
進路を決めなくてはいけないと気がついた頃には、私の学力で入れる学校は自動車学校くらいだったので、半ばヤケクソで免許を取りました。一度も乗ってません。

■ヒーリングミュージック

 女、ハチマキをして一人で考えている。

女:…えーと、集中しなきゃ。男が…いや…女が…とにかく主人公が。まず…うーんと、地球を、いや、宇宙、いやいや壮大すぎるだろ。うーん、集中しなきゃ。

 (都会の雑踏)

女:…はぁ、この…環境音が…どーも慣れん。あ。そうだ!!

 (スマホ。Youtube。)

女:ゆーちゅーぶ…作業用…BGM…集中…。
よし、これでいこう。「めっちゃ集中力の上がる作業用BGM。ピアノ。自然の音」

 (曲。あきらかに寝るだろうというのがかかる)

女:……はいはい。集中力。上がってきた。上がってきた感じする。
よし。あーはいはい。はい。

 暗

男:『30分後』
女:ガーーーーーーーーーーーッ。

■初日、書けない

 明

 (ガバッとおきる)

女:(原稿をやぶる)真っ白おおおおおおおおお!!だめだあああああーーーーーー!!
全然書けない…。上京失敗だ。帰ろう。スゴスゴ帰ろう。東京ついただけでも満足だ。あーるーはれたーひーるーさがりードナドナドーナードー

 (と、カバンをもつと)
 (何か、おまもりのようなものを見る)

女:なに言っとーか(なまる)まだ初日だべや!生まれて初めての自分の城でねが!なんてったって、家賃、なんと、1万円だでよ!

 再び音楽。女、気を取り直しておどり出す。

■シェアハウストキワ南千住205号室

『三畳半一間』『家賃一万円也』『シェアハウストキワ』『南千住二〇五号』『家賃一万円也』『バストイレ別』『駅遠し』『家賃一万円也』『家賃一万円也』

 女、踊りながら話のつづきに戻る。
 背面には『家賃一万円也』がずーとうつっている。

■苦しみ

女:バイトの時間は居なくなるが、他の時間は自室から出てこない。
娘はひきこもりと認定した母は、漁業組合の事務員の空きを見つけてきました。
しかしおつぼねとの戦いが激化、私は半年で自主退社させられ、もしものための古武術独学も無駄になりました。
次なる目標は商業誌への応募。情報をくれたのは姉(メンヘラ)の新しい無職の彼氏でした。
同人というものは、すでにあるマンガのキャラやストーリーを自分勝手なモウソウのもと好きにハナシを展開します。
商業誌となると、もちろん二次使用が許されません。
私のまんが人生において、初の『産みの苦しみ』であります。

■ワケ

女:そういえば。(とふりかえる)

 SE犬の遠吠え(ワオーンワンワン)

女:大家さん、なんか言ってたな。
大家の扮装:『押し入れの半分使えないから』

■でんわ

女:おしいれ…

 (なにか恐いものが迫ってくるような映画音楽がかかる。JAWSとか)
 (さんざん鳴らしたあげく、ピ、とスマホをとると母である。)

女:あきじゃびよ!着いたよウン!いや、かーちゃん、東京やから。島とちがうけん。今日一日でもう島の人間の超えたけんね。うじゃうじゃいよる本当ばい。スムーズなもんたい。なんてったってスイカがあるさ。改札口にピってしたらさ、そいで通れるとよ。JRも地下鉄もバスも全部よ。は?重くねか?メロンの方が上等でねか。そのスイカじゃないがに。大丈夫。田中氏が手まわししてくれとって。心配することないっちゃね。え?なによ?あーーわがってら鳴かず飛ばずだらあ、島かえって結婚すっから。ちゃーんと浩さんともそーゆうハナシつけてきたばい。はいはいはい。切るよ。忙しいけん。切るばい。ばいなら。……もんだい。

 (壁を見る)

 SEワオーンワンワン

 (女、おそるおそるちかよってみる)

女:…押し入れの、…半分
 
 (中から声がする)

女:ま、住めば都って、

 (くしゃみ)

女:言うしね

 曲

■クラゲ男のうんちく

男:人間というのは慣れる生き物です。どのような刺激でも繰り返し経験するとその新奇性を失うことになります。「美人は3日であきるブスは3日で慣れる」これはどちらも心理学でいう馴化(じゅんか)というプロセス、人間が生活する上での自衛本能です。幸せにも不幸にも人間は慣れるように仕組まれています。どんな違和感も、本能が全てを解決します。波にぷかぷかうかぶように、潮の流れに身をまかせて今この時が過ぎるのを待つ。そして、いずれその時が来るのを待つ。力を抜いて。ぷかぷかーぷかぷか
女:ぷかぷかーぷかぷか

 (クラゲの映像)

男:まるで、クラゲのように
女:ぷかぷかーぷかぷか

 音楽きえている。クラゲ男きえている。

女:グゥ…グゥ。…グゥ…(リアルっぽいねいき。いやうそくさいねいき。ギリギリの。いいかんじの。)

 SEスズメ(ピチ。ピチチチ。ピチ。)

女:やべ!!…ゲ!!朝!!9時?!だあ!!お母さん!!

 (と下の居間にいこうとする)

女:そうか、、東京だった。

 SE雑踏音が押しよせる。
 
 暗

■やっぱ気になる

 昼

 (カリカリカリとペンを走らせる音がする)

 (明)

女:……。だめだ。気になる。完全にふすまの左が開かない。カモフラージュの絵が逆効果。題名『よろこび』小日向剛。タイトルとかいらないし。まさか、自己物件。いや。気にしないっ

 カリカリカリ

女:だめだ。(止まる)(ふすまあけにいく)……よかった…こっちはふつうだ。
…ふとん……毛布。(中を見る)あ。こっちの壁…きれーで新しい…後からはってある。
(ふすま見る)

 (しめる)(もどる)

女:…ハメ殺しって言うんだよなあれ…恐!!事故物件じゃないの!?
でもここ、田中氏が紹介してくれたんだしな。

■田中

 SEポッキーン

女:ぬう!びびった。あ、ウワサをすれば田中氏。『東京…どう?』おータモリみたいな質問きた。えーと、『都会 です』送信。

 SEポッキーン

女:『早く東京に慣れて、バリバリまんが書きましょうね。仕事部屋は整いましたか?なにかこまった事あったらいってください。』打つの早いな田中氏。定型文コピペ疑惑!!えーと、『なんか押し入れの左が開かないのがとても恐いです。ハハハハ』送信。

 SEポッキーン

女:『さっそくですが次のネームのしめきりきめましょうか』ああ!!スルーした!!

 SEポッキーン

女:『たとえば』

 SEポッキーン

女:『来週の頭とか』

 SEポッキーン

女:『いかがですか』
たたみかけてきた。部屋については過去の話題にする気だな。

 SEポッキーン

女:『少しジャンルが違って書きにくいとかあるかもしれませんが、ぼくとしては北島さんのポテンシャルにかけてみたい。そう思うんですよ。それじゃ、よろしくお願いします』コピペじゃないな。はー。少年誌かー。よし。

 曲

■少年誌

 (女、バリバリと描きはじめる)

 うんちくがきこえる。

男:日本で発行されるマンガ雑誌の数は約400誌。1年間に出版されるコミックスは15000冊。ひとつきで1250冊発行されるまんが大国である。現在、日本で連載を持つ漫画家は5000人。漫画家志望はその100倍。まんが賞や持ち込みで編集部から担当がついて、ネームとよばれる下描きのOKが出て、ようやく短期連載までたどりつくのは、1000人に1人。長期連載を持ち、プロになる確率は0.003%以下とも言われる。

■田中

女:年二回、大阪のコミケつまり「同人サークルがどちゃっと集まる日本最大規模のフェスティバル」コミックマーケットに参加するようになっていました。そこで声をかけてくれたのが田中氏です。スーツのコスプレってなんのアニメだと思ってたら少年誌の編集者。新人発掘に来ていたわけです。オリジナルのまんがは思った以上に難しく、やっぱ同人に骨をうずめようかと思いはじめていた私には「東京で勝負しないか」の一言はそりゃあ天の声。電撃的ショックでした。私は田中氏の期待に応えなくちゃいけません!!

■ボツ∞

 曲切れ
 SEポッキーン
 『ボツ』(プロジェクター)

女:え?!
あれ?あの、どこが悪いですか。でも、えーと言われた通りに直したつもりで…はい。…え?次の案ですか?あ、来週?…はい。

 SEポッキーン
 『ボツ』(色んな所におちてる)

女:え?!
あれ?あの、どこが悪いですか。でも、えーと言われた通りに直したつもりで…はい。…え?次の

 SEポッキーン
 『ボツ』

女:え?!
あれ?あの、どこが悪いですか。でも、えーと言われた通りに直したつもり

 SEポッキーン
 『ボツ』

女:え?!あれ?!あの!!でも!!はいえ?次?!

 SEポッキーン『ボツ』
 SEポッキーン『ボツ』
 SEポッキーン『ボツ』

 暗闇に忽然と浮かぶ『ボツ』(白抜き)

 (だめ出しが流れてくる)(SEポッキーンつづく)

テロップ

『ストーリーが弱いですね』『どこかで見た感じ』『読者のニーズを考えていない』『さあ、ぼくは描き手ではないのでわかりませんけど』『エロがないとだめです』『弱いです。全体的に』『もうなんでもいいんで描いてください』『好きでやってるだけじゃだめです』『言われるままやってもだめですけどね』『笑わせたいんですか泣かせたいんですか』『同人にもどりますか?北島さん』

女:……あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。(スマホを置く)

 SEポッキーン

女:…。(よんだ)……(スマホをふせて置く)田舎もんだからか?女だからか?ちくしょう。今に見てろよこのやろう。なにが「デート」だ!!

 暗

■時間経過

 SE都会の雑踏音

女:知多半島南のはじっこ、沖合いにうかぶ人口2000人の離島で暮らしていた私には東京はびっくりするくらい便利な場所でした。テレアポバイトも始めました。バイト先の飲み会。とりあえず無難にチェーン店。とりあえず生で。二次会はとりあえずカラオケ。都会の生活。とりあえずコンビニ。とりあえず100均。とりあえずドラッグストア。とりあえずバイト。とりあえずやることループしてきて毎日。昨日と今日の差なんてなくて。だんだんにぶくなる。便利に同じもの食べて、便利に同じもの見て、便利に同じとこ行くから、だんだん、にぶくなっていくのかもしれない。お酒もタバコも増えてきて。私はちょっと世界に慣れてきたような気がします。
あー、描けない。
誰か助けてえええ


◼対面

 押入れが開く。中から男が現れる。

女:お ゛お ゛お ゛お ゛お ゛お ゛お ゛お ゛お ゛ぅ!?
男:..............................。
女:..............................。
男:............(礼)(女も礼)
男、そっと逃げる。
女:!!(つかまえる)
男:!?!(抵抗する)
女:!!(全身を使い、つかまえる)
男:!!(抵抗する)
女:......!!(本気を出す)
男:!!(本気を出す)
女:...!!...!!!!(絶対に負けない)
男:!!...!!!!(絶対に負ける気がないなと気づく)
女:!!(時間との勝負よ)
男:!!(時間との勝負か)
女:..................。(あなたがあきらめるまで私はあきらめない)
男:..................。(............あきらめる)
 
 やっと脱力する2人。

女:..................。
男:..................。

 気まずい時間が経つ。男、たえきれず。

男:......実は、開閉します。

◼で?

女:.........。
男:...えーと、まず、あ、えーと。まず、すいませんでした。まずあやまります。
 (え)っと。んー、っと。もし、この、こっち側も、やっぱり押入れとして利用したい。ご
 利用になりたいということであれば、ちょっと、あのー。お時間はそれなりにかかると思うんですが、対応、いや、検討させていただきます。
女:...
男:っと、んーと。じゃ、あのー、今日のところは、とりあえず失礼させていただき、、ますので、えーと、あのー、いったん通報とかは待ちというカタチで。
女:?
男:あ、しないでください。
と、んーと
女:...
男:......失礼します。あ、失礼しました!

 男、退場する。

◼くらげ男だ!

 襖が閉まると、さっきと同じ状況になる。

女:けいさつだな
男:(小声)あーーーーーー(まだいた)
女:(スマホ)1、1、9
男:(襖を少し開ける)それ救急車
女:ん?(見る)
男:(閉じる)
女:(立ち上がる)なんか、、、なんか凶器。あ!!(トーンナイフ)トーンナイフ。スクリーントーン切る用のナイフ。刃替えたばかりだ
からそれなりの殺傷力だ。
女:自傷癖のある友人K君は、あまりにサックリ切れすぎて、リストカットを中断したシロモノだ。
女:おまえにひとつ質問がある!
女:そこに住んでいるのか!!
女:そしてひとつ質問がある!!
女:おまえは人間なのか!!
女:最後の質問だ!!
女:何が望みだ!!
女:そしてだ!!
女:(ボツ原稿を出す)おまえ東京くらげ男か!!
男:(出てくる)
女:あ ゛ーーーーーーーー!

 女、気絶する。

 曲。

 男、出てきて、女の書きかけの案ノートを読む。

 『東京くらげ男』
 『あらすじ』
 『クラゲ星人は地球人をクラゲ化することで地球を植民地化する計画を進めていた!!次の都市は東京』
 『しかし、クラゲ化手術の途中で麻酔が切れて起きてしまった紅男(ベニオ)(43歳)(レジ打ち)はクラゲ船から脱出に成功する』
 『変体!!プラヌラ幼生!!』
 『おまえは!!キャノンボールクラゲの!!』
 『遅すぎるなんて誰が言った?!本当の戦いはこれからさ』
 『地球の未来を守るために東京クラゲ男の戦いが始まる!!』

◼書こう

 2人まんがをかいている。女、クラゲマフを被っている。

男:担当のオファーは「オリジナル」そして「パンチラ」あとは「恋愛もの」でしたね。
女:えぇ
男:たとえばまずはその条件をクリアできるストーリーの背景を、あの主人公で何本か考えて
みましょう。5W1Hの基本形で。
女:......はい。
男:はい。
女:どうしてこんなことに...
男:それはですね
女:はい
男:ほわんほわんほわんほわんほわーん

◼一週間前

 倒れている女。

男:食べてないと人間の体はもちろんエネルギー不足になりますしーーーーーーー(やたら伸ばす)
寝てないと人間の脳のシナプスは破壊されますしーーーーーー(やたら伸ばす)
能率の話で言えば、徹夜をするよりも、しっかり寝てから仕事に臨んだ方がパフォーマンスはあがります。
体に無理をさせてアイデアを出したところで、あなた方のいうところの、ボツ。
女:あのー
男:あ、起きてました?聞いてました?どこからですか?納得しました?
あ、失敗。相手のこと考えずに質問責めにした。いち。
女:?(いち?)
男:質問ありますか?
女:...私...気絶
男:気絶というよりは、栄養と睡眠不足による過労です。きいてました?
女:なにを?
男:食べてないと人間の体はもちろんエネルギー不足になりますしーーーーーーー(やたら伸ばす)
女:きいてました!
男:なぜ食べないんですか
女:眠たくなるから。
男:なぜ寝ないんですか
女:描かなきゃいけなくて
男:なぜ描かないんですか
女:描かないんじゃなくて描けないの!!(キレ)
男:なぜ描けないんですか
女:才能がないから
男:なぜ才能がないんですか
女:知らないよそんなこと!おもしろいのがうかばないから!!
男:なぜおもしろいのがうかばないんですか
女:才能がないから!!
男:なぜ才能がないと思うんですか
女:描けないから!!
男:なぜ描けないんですか
女:知るか!!
男:でもそれ知らないと、ずっと描けないんじゃないですか?ロジックも破綻しています。才能がないからを2回言いました。
女:......才能。
男:あ、失敗。相手のこと考えずに質問責めに。に。さらに口調が冷たい。いち。

◼質問

女:質問
男:はい
女:その数字は何?いち。に。
男:自分が気をつけるべき改善点です。なかなか直りません。
直したいのに直せないとか経験あります?あ、あります?なんでそんな目で見るんですか?
あ。
女:質問攻め。
男:はい。
女:3
男:3
女男:はははははは。(ちょっとなごむ)
女:!!(とびおきる)なごんでる場合じゃねえ!!部屋の押入れから不審者でてきたんだっ
た!!
男:やっぱり警察ですか?
女:あたりまえでしょう。部屋の押入れから不審者でてきたんだぞ!!
男:同じことを2回言ってます
女:けいさつ!!えーと177
男:天気予報
女:住んでるんでしょう!!そんなせまいとこ住んで!!
男:契約書には書いてると思うんですけど。
女:けいさつ!!11...0!
男:ここ僕の部屋と繋がってるって。
女:え?

 曲

男:......あなたの契約した205号は、押入れのここからそっち
女:そこは?
男:204号。僕の部屋です。
女:え?
男:おなじアパートでも間取りが違うなんてよくあります。定規とペン借ります
女:え?

 男、ものすごい早さで間取りを描く。プロジェクターに映る。

女:早い!!
男:そういう訳です
女:でもどう考えてももともとこっちの押入れだったところを侵食してる!!
おかしい!大家さんに電話する!!(スマホ)
男:あ。えーと

 女電話する。

◼大家

女:えーと(絵を見る)こひなた。こひなたさん。
女:もしもし
男:はい
女:私205でお世話になってる北島です。
男:はい
女:ちょっとおたずねしますが
男:はい
女:押入れがですね
男:はい
女:204の人に侵食されてるんです。
男:あー。

女:こひなたさん?
男:はい?
女:え?(男をみる)
男:(あ、みられた)(礼)
女:(礼)あ、すみません。
男:はいはい
女:.........(気づいた)
男:あの。
女:こひなたさんって
男:こひなたです。
女:いや。大家さんおじさんだった!!
男:それ管理会社の人です。僕が雇ってる。アウトソーシングっていうんですか
女:は?
男:シェアハウストキワは、南千住だけじゃなく、東十条と東池袋と亀有にあるんです。あとつつじヶ丘にも今増えそうで。
女:へ?

◼押入れのワケ

男:ここ、ぼくの倉庫にしてたんです。押入れからつなげて。でも管理の人が契約したから仕方ないんで塞いだんですけど。ぼく発明家です。これリラックスイヤーマフです。どう思います?かっこ悪い?使ってみますか?
女:えっと、えっと
男:あ、やば。相手のこと考えずに質問攻め。よん。
そして自己開示が矢継ぎ早すぎて相手が困惑。いち。
どうしますか。引っ越しますか。費用持ちますよ。さみしくなるなあ。あなたの騒音も聞けなくなる。
女:え、騒音!?
男:はぁ。夜中にひとりごととか奇声とか、あと変な歌
女:すみません!!
男:いや、ボクは楽しかったです。同類の匂いがして。
女:同類。
男:何か作ってる人だろうなって想像してました。まんがですか。
女:......はい。すみません。
男:尊敬します。黒と白だけで世界が広がる。それ原稿ですか。見てもいいですか。
女:はあ
男:スゴイ!生原稿だ
女:ボツですけど
男:これがボツ?誰がボツって言ったんですか?
女:田中
男:これ何ページもの?31?16?少年誌ですか。絵柄的には
女:あ...くわしいですね
男:研究ばかりで外出ないから読書とネットから情報入れるしかないからでも最近全然アイデアでなくて、もう、助けてくれって感じです。

◼なぜつくるか

女:............。
男:あ。しまった。相手のこと考えずにベラベラと。4。いや3?いや5かな。
女:(勇気)私も思います。助けてくれって。

 間

男:芸術のことはわからないですけど
女:芸術?
男:まんがも芸術です。
女:そんな、大それたものじゃないです。
男:いや、芸術ですよ。文化。価値がある。
女:私のはぜんぜん。価値なんて
男:価値はあとから誰かが勝手につけるんです。宮沢賢治だってゴッホだって、本人は極貧のまま死にました。
女:やだあ
男:岡本太郎わかりますか。天才芸術家。芸術はバクハツだ。太陽の塔。『子供はどんどん絵を描くだろう』って。だから本来そういう欲求は誰にでもあるんだっていうんです。もともとみんな天才なんです。大人になるうちに忘れちゃうけど。

◼人間の脳

男:クラゲって脳がないんです。だから、5億年もあったのにずっと海にプカプカ浮いてるだけなんです。人間が地球上に出てきたのは400万年前。アウストラロピテクスのルーシーの時代です。クラゲのおよそ100分の1の時間で人間は猿人から原人、旧人類、新人類に進化して、20万年前のクロマニョン人はスペインのアルタミラ、フランスのラスコーに絵を描くまでになりました。

人間の脳の比率は他の生き物に比べると圧倒的なんです。人間の脳には他の動物にはできない働きがある。
それは、想像して創り出すことです。

考えたんです。わざわざ、他にもあるのになんで作るんだろうとか。
発明やってると毎日ガッカリするんです。ボクが思いついたと思ったものは全部もう世の中にある。
この前なんて気がついたら重さ3kgの傘を作っていました。
重いから背負うんです。バランスを取るために持ち手が二つついてます。開閉に1分かかります。単一の電池が6個必要です。
100均のビニール傘でいいなと気がついたのは完成した次の朝です。雨だったから。なにやってんだ!!(頭をかかえる)
この前なんて新しい味を作ろうと炒り大豆を粉にしたらただのきな粉に。
アメリカの13歳ローハン君は1600円でフリーエネルギー装置を自作しているのに!!

 男、我にかえる

男:何の話でしたか
女:ちょっと、わかんないです。
男:だめだな。寝ます。あなたも寝たほうがいいです。
女:私も?
男:おやすみなさい
女:......はあ。なんだ。

 雑踏音

女:それから、クラゲ男からの音沙汰はなく、私は私で田中氏からのダメ出しにより打ちのめされ続けていたので「もういいや」という気分が私の頭と体を8割がた占拠する毎日でした。少し健康のことも考えるようになったのは、彼のいうことももっともだったと少し思ったからでした。
そして、一週間が経ちまして。

◼べんきょうした

 男現れる。ゲッソリしている。

男:読んできましたマンガ技法研究会「マンガの描き方」。ビギナーからのマンガパワーアップ計画第1巻2巻3巻。コミッカーズマンガ技法書「激マン10ステップで完成今すぐマンガが描ける本」石ノ森章太郎の「漫画家入門」藤子不二雄の「まんが技法」手塚治虫の「マンガの描き方」
女:よんだんですか!?
男:まだ読みます。その後ネーム提出しましたか?
女:ボツでした。3本。
男:残念でしたが仕方ありません
女:簡単に言う!
男:あきらめちゃダメです。あきらめたらそこで試合終了ですよ。
女:す、スラムダンク
男:少年誌も押さえときました。読んだというには先生方に申し訳ない読み方でしたけど一応(ジョジョ立ち)
女:じょ、ジョジョ立ち!
男:徹夜明けですか?
女:昨日寝ました
男:食べました?
女:一応
男:外へは出ました?
女:それはまだ
男:5分
女:え?

 メモ

男:5分でいいです。リフレッシュしましょう。日光を浴びてください。不健康に創作する時代はもうおわりです。ドアを開けて1歩踏み出すんです。ここからわれわれの逆転劇が始まります。
女:(目を向く)ぎゃくてん

 女、ふらりとドアの方へ歩いていく。

男:覚悟してください。本当の戦いはこれからです。

 女、ドアを開く。外の光。

女:え、われわれ?

 曲

◼快進撃のようす1

男:イヤーマフの進化形です。集中力があがります。
女:えー
男:帽子やパーカーのフードやマスク。あれ安心しませんか。
女:あ。
男:このイヤーマフは頭全体を包みこむことにより外界と距離を取ることができます。
女:職質されませんか
男:なるほど。改良します。
女:......はあ

 女、しぶしぶかぶる。

女:.........
男:...どうですか?
女:.........イイ。

 曲上がり

 2人机に向かう

男:プロットから洗います。どこかで見た作品になるのは妄想力が足りないからです。
女:妄想力?
男:完成を急ぐあまり、安易にハナシを作ってしまう。そういうことないですか?
女:あります!エスパー?!
男:書いてます。
女:勉強します。

 曲上がり

◼快進撃のようす2

男:「クラゲ星人に改造された主人公が地球をすくうために戦う」
女:すみません
男:もうちょっと別のあらすじ出して見ましょう。
女:えーと
男:逆にしてみたり
女:逆?
男:クラゲ星人に改造された主人公が地球をすくうために
女:戦わない?
男:あたらしい!

 曲上がり

女:でも救ったほうがいいんじゃ。地球は。
男:でも彼は戦いたくありません。
女:誰かに強制されて戦えば?
男:だれに?
女:お母さん

 曲上がり

男:彼何歳ですか?
女:44
男:なにしてる人?
女:レジ打ち
男:好きな食べ物
女:吉野家
男:吉野家はダメです。ゆでたまご先生のキン肉マンの主人公筋肉スグルは牛丼一筋です。へのつっぱりはいらんですよ。
女:松屋
男:それだ!

 曲上がり

◼快進撃のようす3

 あらすじを漫画のフリップでだす

女:クラゲ星人は地球人を改良し、環境にやさしい生物に作り変える活動をしていた。好意で。
改造されている途中で目覚めたニートで無職の43歳紅男は、なんかめんどくさくなって家に帰った。
お母さんが怒るので、しぶしぶクラゲ星人と戦うことにした紅男だが、タコクラゲ星人の女兵士、マステギアス・ターコ(パンチラ)に恋をして、困る。
男:おお!!「オリジナル」「パンチラ」「恋愛」クリアしてます!!そして!!
男女:新しい!!

 曲上がり

男:やっぱり必殺技は必要ですね。少年誌としては。
女:ニートでクラゲで44に必殺技なんて出せるのかな
男:主人公44でいいんですか?
女:やっぱだめかー
男:改造で若返ったことにしたらどうですか?
女:中身は44歳ニート!小学校に通わなきゃいけなくなくなる。
男:部活に入らされる!!
女:バトミントン部!
男:必殺技じゃ
女:必殺技は、
男:クラゲスマッシュ

 曲上がり

◼快進撃のようす4

女:うーん。なんかこのふきだしが埋まらない。
男:セリフですか
女:ちょっと読んでみてください
男:ボクですか
女:お願いします
男:どこですか
女:ここからです
男:「ああ、おれがおれでなくなっていく」
女:もっとこう気持ち(をこめてくれ)
男:「ああ!!おれが!おれでなくなっていく!!どうしちまったんだ!!」
女:次クラゲ王のセリフ
男:全部?
女:男性なので
男:「お前はそのままプラヌラ幼生期まで若返り、クローン繁殖で増えるのだぁ!!」

 フリップで漫画のコマをだす

男:あ、ここですね
女:そうです。ここ叫ばせたいんですけど
男:叫ぶんですね
女:ええ叫びたいです
男:これってボクのクローンが増えるんですか、たくさん
女:クラゲ類って大人になる前のプラヌラ幼生期のときオスもメスもなく分裂して増えるんです。たくさん
男:嫌だな
女:あ。
男:嫌だな。ボクがたくさん増えるのは。
女、セリフを書く。よませる
男:「やだーーーー!!」(空いているセリフが「嫌だーーーー!!」で埋まる)
男女:............。

 曲上がり

◼快進撃のようす5

 男、必殺技を出す。
 『必殺』
 『クラゲスマッシュ!!』
 『ブオ!』
 『ギャン』
 『ペチ』

 どんどん出来上がるネーム。

◼ネーム完成

 バナナを食べる2人。
 バナナを買いに行く。
 男ねむる。
 女ふとんかけると思いきや自分ねる。
 男すごい粘土もってくる。
 女起きる。描く。
 新しい発明『がんばれパグ君』をみせる。ひっこめる。
 きゅうり食べる。
 ネーム完成。

女:...できた
男:...できましたね
女:できたーーーーー!!
男:(バンザイのポーズ)
女:よし
男:悔いはないですか
女:............ない。
男:まだネームですけどね
女:うあそうだったっ
男:きっと通りますよ。これは

◼家出

男:じゃ
女:お礼言わせてください
男:何言ってんですか、気が早い。
女:いや、言わせてください
男:だめだめ。それ以上言うなら死ぬから。殺す気か!
女:いや、言わせてください
男:死んじゃう死ぬ
女:ありがとうございました!
男:........................。(男、なんとも言えない顔になる。)

 ふすまに消える

女:あれ?まいっかネームできたしっ、、あ。

◼境地

女:お。

 窓の夕焼けに気づく。

女:都会の夕焼けもキレイだな。
よぉし。銭湯いこう!一週間ぶり!はっはっはっはやっべ!
で、なにか食べて、次のネームの構想やろう。エライわたし。
うー。腰いてー。おしりごわごわ。お、紅の豚。「とばねえ豚はただの豚だ」「バカっ」
「ブータぁ」ありーんしゃとう♪ふろーしゃとう♪(加藤とき子)

 女、上機嫌で退場。


 しばらく、誰も居ない部屋。時間が経つ

 SEカァカァカァ

■告白

 なんか押入れから聞こえてくる。

男:えーと、まず、えーと。
ぼくは、あのー。対人恐怖症。というかなんなのか、つい、パニックを。
でも、まあ、人にさえ会わなければ、今の時代だし。だいたい。なんでもできるから。
一応、シェアハウスの運営とか。パソコンあれば。
ぼく、高校、学年トップで。でもイイ大学言ったら、その後のことは考えられなくなって。考えたら恐くなったっていうか。なんかキャパ越えして。
あ、なにが言いたいかというと、あのー、こちらこそありがとうございます。だな。
あ、そういえば、あのー。君とは不思議ときんちょうしません。


◼ポッキーン

 SEポッキーン

男:?


 SEポッキーン

男:田中氏。

 SEポッキーン

男:あれ?いない?

 SEポッキーン

 SEポッキーン

 女戻ってくる。風呂桶に風呂グッズ

女:風呂すげー。
男:............。

 SEポッキーン

女:え?(スマホ)げ。6件田中氏。

 SEポッキーン

女:7件。いや。明日。明日みます。どうせダメ出しの嵐のワケですから。

 男

男:今見ないと。
女:だって、またボツだったらやじゃん
男:同じ落ち込むなら早い方がいいです。
女:えー
男:なんでもためる人間は人生においても遅れを取ります。
女:リア充の勝ち組は言うことが違いますね
男:.........。
女:わかりました。よみます。よみますよ。よみゃーいいんだぎゃ。
ちゃーちんちんだもな。あずましくないべ。ヒロヒロめてんがあ?
男:はやく。

◼OK

 SEポッキーン

女:げぇ8件目。.........え?

 女、立ちあがり不思議な行動をする。
 たとえば
 「あれ?仙骨ってここか?それから肩甲骨ってこっから尺取り虫でなんぼだ?虫っていうけどアレなんの幼虫だよ。ちょう?え?成虫?!いやこれはゲリツボです(笑)」
 を行動で表す。

男:?.........え?
女:1件目「ネームありがとうございました。」
2「まだ詰めるところありますが良いと思います。」
3「これで行きましょう。」
4「原稿入っていただいて結構です。」
5「下書きの段階でFAX下さい。」
6「それでは楽しみにしています」
7「追伸」
8「本当におもしろいです。北島さん。」
男:つまり?
女:......嫌がらせ?
男:違うだろお!!
女:じゃあ
男:そうですよコレ!!
女:通ってしまった!!
男:やりましたね!!
女:わあ!!やばい!!通った!!うれしい!!泣く!!う ゛ぇー!!
男:さあ!いよいよ作画です。人物、フキダシ、書き文字、背景。これをB4の白いケント紙にバランスよく配置。
そしてカラス口、ペン、消しゴム、ベタ、ホワイト、トーン全ての工程を経てマンガが出来上がっていくんですよね!
さあ!さっそくかかりましょう!!

◼会食

 SEポッキーン

女:あ
男:?
女:「たびたびすいません。田中です。お疲れ様です。突然ですけど今日時間あいてますか?原稿に入る前に一度打ち合わせときましょう。ネーム完成のお祝いにめしおごりますよ」
男:.........
女:えーと、これは...行くべき...か?

 SEポッキーン

女:「19時半に新宿あたりでどうですか」?!銀座!きた。ザギン!どうしよう。めし、めしってなに食べるんだろう。ザギンでしーすー?!あ!!服!!ない!これはないな。やばい。人に会うなんてちっとも考えてなかった。
あ。(クラゲ男を思い出す)スイマセン!!1人で舞い上がってしまって。
男:行くべきですよ
女:え?
男:行くべきですよ。打ち合わせ。
女:...ですよね!!

 間

男:(笑顔)ハイ。
女:服っ
男:スーツ
女:それだ!お金
男:おごりですって
女:そーだった!スイカ!
男:財布に
女:そーです!時間
男:ろく時半です
女:えーと、新宿って
男:間に合います。
女:すみませんあの!!着替えるんで...あの...

 という頃には押入れに戻るクラゲ男

男:部屋戻ります。その前に返信した方いいです。
女:わ!!そーじゃん!!(返信する)えーと...
 
 男、その様子を少し見ている。

◼別れ

 女、必死にメールを打っている

男:..................。

 男、静かに退場

女:よし、送信!!

 女、男がまるでもとから居なかったかのようにも見える行動をする。
 溶暗。雑踏音。

◼クラゲからの好意

 クラゲ星人の扮装で男登場
 フリップで地球人へのメッセージ

 『人間のみなさん』
 『我々はその繁殖方法を捨てました』
 『オスとメスが結合し、子孫を残す』
 『そのために費やす時間を考えると』
 『実に、無駄、極まりない。』
 『みなさんから見ると』
 『我々は5億年、なにもせず』
 『何も考えずに生きてきたように』
 『見えるのでしょうが』
 『これは、我々の結論です』
 『無駄なことはしない。』
 『人間のみなさん』
 『くらげなす ただよへる』
 『あの、太古の昔へ回帰しましょう。』

◼帰宅

 深夜。だれも居ない部屋。都会の雑踏音。
 玄関のドアが開く。
 どしゃ降りの雨の音。ザアアアーー!!
 女、乱れたスーツ姿でしばらく立っている。雨で濡れている。

女:.........。

 くつのままあがる。
 ネームを乱雑につかむと、そのままやぶりはじめる。

女:.........。

 男

女:けっきょくボツです。すみません。いや、私の、私の覚悟が足りなかった。そのせいです。すいません。
 よく言うじゃないですか。イイものだから売れるわけじゃないって。そういうことです。
男:大丈夫ですか

 男、寄る

女:ちょっと!よらないで!!あぶないから!!すいません。
男:よっぱらってますか
女:でいすい。めいてい。いや、酒気帯び。よってまぺん!!あははは、すいません。

◼ゲロ女

男:大丈夫ですか?
女:ゲロ臭い?!すいません!!おごられたパスタ!!全部吐きパスタ!!
男:どのくらいのんだんですか?
女:とりあえずビール!からのお。えーと(紙みる)
フェルゲッティーナミッレディフランチャコルタブリュット白!!アホかメモってる!!ウケる!!
男:白ワインですか
女:さぁすがいっきゅーさーん。知識のハバハンパないっすね。でも全部ブリュット吐きパスタ!!
男:まず着替えた方いいですよ。(靴を脱がす)土足だし。
女:やめろ東京!!さわるんじゃねえ気やすく!!たっぴらかすぞ!!
男:.........すいません...

 ザアアアアアアーーーーーー

女:すいません。ほら...よくあるあれですよ。ゲーノーカイ的な。なんつーの、枕?枕よ。
男:え
女:新宿から南千住まであるいちゃいました。枕ショック!!
男:枕営業ですか?
女:正解ピンポン!!いやぁスーツさえ着れば私も捨てたもんじゃないなと。
つーかほぼスッピンで向かったっつーのになんでもいいのかオイ田中と。
あれは初めてじゃないですね。間違いなく全国のまんが少女をくいちらかしている外道です。でもざんねんながら好みです。顔が。
ちょっとぉ!!ひいてる?!まじで?いやガチで?!This is TOKYOよ?!
ナウでヤングな若者でしょーが!!こんなんもーまんたいよ!!
男:いいんですかそれで
女:はひ?

 ザアアアアアアーーーーーー

◼ゲンメツ

男:北島さんは純粋に創作意欲があると思ってたからボクお手伝いしてたんですけど、
あ。スゴイ。
もしその人と結婚することになったらもうマンガ家ですよ。担当だもん。
うまくいってる。もしかして計算してました?北島さん頭いいんですね
ボクバカみたいだなあ。北島さんまんがより体売ること目的だったのに
ぼく、結構本気でまんが手伝っちゃって。体売ってマンガ売るなんていいんですかそれで。

 ザアアアアアアーーーーーー

◼できんかった

女:ヤレるもんならヤッてたわ!!
男:え?!
女:もっかい言うぞ!!ヤレるもんならヤッてたわああ!!
男:、、、、。
女:覚悟が足りなかったってハナシよ。後悔してる。ヤレばよかったって。ヤらせりゃよかったって。マンガ家なれたのに。あたしのこんな、持ちぐされの処女なんて売れるうちに売っちまって、マンガの足しにすればよかったんだ。ちくしょー。(やぶる)
男:すいませんボクあの!勘違いして!!
女:ごめんなさい!!!
男:え?
女:ごめんなさい!!私ゲロあいつの顔にぶちまけながら貴様なんぞの世話にならんでもテッペンとったるわいってタンカ切ってホテル出てきた来たからもう絶対にボツ(泣)
男:あ、ホテルまでは行ったんですね
女:行った!!がんばった!!処女が惜しかったわけではない!!
でもおおいかぶさってきてこう(男をおおいかぶす)
あやっぱ無理ってなって古武術でこう(古武術で反転)
男:古武術できたんだ
女:なんかね!そして、ゲロゲロゲローって
男:おー

◼めんきょ

女:逃げ出したら、ラブホのろうかをゲロまみれで追ってくるわけ。
私そのゾンビにつかまって、足踏んづけたっけ車のカギおとしたから。車うばって逃走したの!!
男:免許あったんだ
女:なんかね!
男:でも飲酒運転
女:大丈夫!!公道出る前に事故ったから。
男:事故ったの!?
女:なんか後ろに走っちゃって。ラブホの壁に思いきり
男:気の毒になってきた。
女:私は大丈夫です!
男:いや田中氏がね
女:これで、田中氏とはおさらばです!!!

 (女、落ち込む)

女:あーあ。......あーあ...あーあ......。

 (うずくまる。たぶん、泣いている)

女:帰ろうと思います。島に。

男:.........。
女:いちばん悔しかったのは...やっぱ、権力にまけそうになったことです。
男:.........。
女:なさけない。
男:.........。
女:せっかく、作る楽しみ思い出したのに。ごめんなさい。
男:......「なにもすんじゃねえ」って親に言われました。
女:......?
男:コミュ障。からのニート。からのひきこもり。からのネット廃人。からのネット起業。
からの親に借金。からの倒産。それで、親がやってた不動産のひとつわたされて。
「おまえはもう自分で何もすんじゃねえ」って
つらくて。けっこう。それ。
女:......
男:ボクはこの世の中に必要とされてない。そう思ってて。

◼必要

女:......
男:北島さんとマンガ作ってて本当に。うれしかったから。なんか。必要とされてるってゆーか。役に立ってるっていうか。

 男、クラゲマフを脱ぐ。ぼうず頭。

男:......10年間ひきこもってる。小日向愛悟って言います。
ボクは外に出る勇気もない。北島さんを責める資格もなかったのに。北島さんはなさけなくないです。
リア充なんてとんでもなくて。ボクの本当のとこ、もう発明しかなくて。でも、一度も出来たことない。
ボクは、10年間も、ただここに居ただけの、ですけど。誰かに、その、自分は無意味じゃないっていわれたくて
大げさだけど......ボクはその...生きるために、作ったり。
思ったんです。ぼくは、北島さんの、がんばるの見て...やっぱり生きるためにかいたりするんだって。
ぼくなんかがもう何いっても関係ないって言うか...。
やめちゃだめですよ。
やめちゃだめですよ。
やめちゃだめですよ。
北島さんがボクの作ったものホメてくれたら、何年か、生きていける。

◼1人でも

女:.........。
男:1人でも

 ぴくりともしない女。

 男、あきらめて押入れに入る。

 溶暗。
 音楽。波の音にのまれていく。

◼完成

女:(スッと引く).........はい...完成...。

 ふすまがあく。
 そこにはやっぱりぼうず頭の、しかしリュックを背負った小日向がいる。

女:うわ
男:できた?
女:、、、うん。さいごの。
男:よんでいい?さいごの

 男、すわる

男:なにその格好とか
女:なにその格好
男:東京特許許可局いくから。
女:どこ?
男:東京とっきょきょかきょく
女:やったじゃん
男:初。
女:がんばって。
男:そっちは?帰るんでしょ。
女:うん。
男:...そっか。

 クラゲのお守りをあげる

女:お守り。
男:妹がくれたやつ
女:都会から守ってくれる
男:帰ったら、、お見合い?
女:うん。でも。
男:え?
女:時代はネット漫画ですよ。
男:え?

 曲

女:時代はネット漫画ですよ。
男:同じことを2回言った。
女:帰るけど、ネット漫画ですよ。
男:三回言った。
女:漫画はやめない。
男:(ばんざい)帰る?漫画はやめない?ネット漫画?お見合いは?これタコ?
女:矢継ぎ早に質問。いち。
男:いち!お見合いは?
女:結婚はしない
男:え?そうなの
女:漫画は、やめない。
男:(ばんざい)タコ?
女:(ばんざい)くらげ。
男:くらげ
女:発明見ていい?
男:漫画読んでいい?
女:いいよ。
男:タイトルは?
女:(発明品を袋から出す)?、えーとねぇ

<了>
2018年6月14日

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・許可なく上演コピー配布することを禁じます。
・許可については別記
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たくさん台本を書いてきましたが、そろそろ色々と人生のあれこれに、それこれされていくのを感じています。サポートいただけると作家としての延命措置となる可能性もございます。 ご奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。