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あの日の「1番」は今も「1番」なのか。

 この前Twitterで「2005年のドラマは良かった」という旨のツイートを見かけた。私は毎回その類いのツイートを見ると、リツイートをして、「分かる!」と半ば反射的に呟いている。

 2005年に放送されたドラマは個人的に良作揃いだった。「女王の教室」「野ブタ。をプロデュース」「電車男」「ごくせん2」「ドラゴン桜」……特に日テレの学園ドラマが軒並み当たっていて、当時中学3年生の私には、狙っているであろう年齢層にも被っていたため、今でも観たいと思うドラマが本当に多かった年であった。

 その中でも特に好きなドラマが菅野美穂主演のドラマ「あいのうた」であった。


 遊び人の母から生まれた洋子(菅野美穂)は、親からの愛をほとんど与えられることもなく育つ。故に暗く、卑屈な性格となり、これといった友人は誰もいない。幸い顔は良いため、男は寄り付くが束縛を繰り返し長続きせず、別れ際には「お前といると幸せになれない」と言われる始末。
また男に愛想を尽かされ、生きることに何も価値を見出せなくなった洋子は、橋から落ち、川へ飛び込む…………。

 ここまでの内容だと、よく中3が観ようと思ったなと改めて感じる(笑)でもちょっと面白くなるのはここから。

 川へ飛び込んだ洋子は泳ぎ切ってしまう。潜水は得意だったらしい。岸まで泳ぎ切り、ずぶ濡れの洋子はその足で居酒屋に向かい、ビールを頼み一気飲み。体力の消耗もあってか飲み切った瞬間、意識を失って倒れた洋子を助けたのは、妻に先立たれ、3人の子供を男手ひとつで育てる優二(玉置浩二)であった。

 意識を取り戻し、運ばれた病院でベッドの名前欄に「?」の文字を見た洋子は、自分が自殺を図った理由に、生きるのが面倒くさくなったということと、一度人生をリセットしたかったことを思い出す。

「君、名前は?」という優二の問いに「分からない」と答える洋子。記憶喪失の「フリ」をする。洋子本人は、記憶喪失になったつもりで新しい人生をやり直してみようと思っただけ。そのためのその場しのぎでもある、記憶喪失の「フリ」。これがなんと引き金にもなり、優二は「洋子が記憶を取り戻す目途がつくまで」行くあてのない洋子を家に招待する。

 理解しがたいほどのお人好しな優二と、その優二と亡くなった母親にたくさんの愛情を貰った3人の小さな子供たち、そして愛を知らない卑屈な性格ブスの洋子の、奇妙な共同生活が始まる。何故優二は家に招待したのか、何故洋子を放っておかなかったのか、それには理由があった……………。



 内容はざっくり(ざっくり出来たのか?)説明するならばこんな感じ。ジャンルでいえばホームドラマであり、この後の展開が想像つくように、洋子と優二による恋愛ドラマでもあるのだが、これが当時中3の私に何故かドハマりしてしまったのだ。群雄割拠の2005年代ドラマに燦然と輝いたのは、学園ドラマでなく、子供向けではおそらくない、OLが風呂上がりついでに観ているような恋愛ドラマだったのだ。

 ちなみにこのドラマ、平均視聴率は9%と低く(参考にするならば野ブタ。は16%、女王の教室は17%、ごくせん2は27%であった)当時15%あれば人気ドラマと言われる看板を貰えることもなく、いわゆる「不発」に終わったドラマであった。おそらく今この記事を読まれているあなたも、冒頭にあげたドラマの名は聞いたことがあるが、この「あいのうた」はほとんど聞いたこともないであろう。

 だからこそ、このドラマを見終わって6年ほど経った大学生時代、偶然リサイクルショップでこのドラマのDVDボックスを見かけたときは興奮し、悩んだ末に購入したものである。



 前置きがすんごく長くなった。今回はそんな昔好きだったドラマをもう一度見てみたという話である。

 好きだと言ったが、リアルタイムで1回。大学入学前の休み期間にレンタルDVDで2回。DVDボックスを買った時で3回目であり、最後に見てから9年も経っている。ボックスを買うといつでも見れるという気持ちがあったのだろう。気付けば9年も見ずに放っておいていた。

 この9年には「いつでも見れるだろう」以外にも言い訳はあった。見終わった後に自分の中の1番が崩れるのでないかという不安であった。

 好きなドラマは何だろうと考えたときに、いつも1番にこのドラマを挙げていた。別に発表する場も、発表したところで何があるのかという話なのだが、自分の中でこのドラマが1番であって欲しいと思い続けている節があるのは、自分でも分かっていた。

 それは月日が経ったことによる、いわゆる思い出補正というやつと、面白かったのに視聴率が振るわず、私だけが知っている「名作」に浸っていたいという欲が無いとも言い切れなかった。元々学園ドラマが人気を博した年代に、誰も見ていなかったちょっと大人なラブストーリーを選んでいた中3。その可能性は大いにある。そしてそのマインドは変わらずそのまま大人になった私。焼き鳥は中学から塩派である。

 更に言えば、最後に観た9年前、あのシーンの演出は過剰だな………と感じたところがあるのも覚えている。今になって観て、もっと合わないシーンがあったらどうしよう。「1番好き」じゃなかったらどうしよう。


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 そんな超個人的な葛藤がこのDVDボックスに埃を被せてしまっていた。好きな曲なら数分、好きな映画なら約2時間。端から見れば「勝手にせいや」の一言で終わる10話分、約10時間の確認作業が始まった。



 過剰だなと思っていたシーンは1話だった。1話鑑賞終了。

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 過剰だ。やはり過剰だ。家族の温かさを伝えようとしているのだろうが違和感を覚える。そしてまた新しい違和感を発見してしまった。本来は気にしないで良いような、サラッと流したシーンが気になってしょうがない。もしかしたら2話で触れてくれるかも……いや何も触れんのかい。ってか純粋な子供を、都合の良い装置に使うなよ。そうか俺、結局子役がらみのとこでしか泣けてなかったのでは……?あ!3話良い!3話凄く良いぞ!!違和感なくすっと入り込めた。4話ね。ここ良いよねー。あ~ここまで性格ブスが発揮される理由はイマイチ伝わらんな。あ~そうそうここのラストね。いいやり取りなんよ。5話は恋愛要素が強めなんだよね。お互いの距離感が見て取れるこの感じね。6話は転機なんだよなー。第一部終了というか。話が一個片付くんだよね。お!そっかそっか。ここで視聴者の代弁者になるのがこの人になるんだ。でもねー言われたほうの気持ちも分かるんだよね。その行動を取る理由が無いもんね。にしても、こうやって結ぶつけるのはどうかなー。もっとやりようがあったと思うんだけどな。ここまで経ての7話ね。そうなんだよねー噓をついていたのは「2人」だったんだよねー。いやそのアイテムのそれだけでここまで感づけるかー?そこは違和感だわー。そうだったな。ここは、中3の時も思ってたけど、何でそのチョイス?と疑問が湧くわな。あー!この表情は素敵ー!!!この表情に至るまでの経緯よね。そこはすごく丁寧にゆっくりと伝えてたから入り込めるわー。うん。名シーンです。8話は全体的に重いんだよなーどんよりしてる。ここへ来るとそうもなっちゃうんだけど……まぁだからこそここのシーンは、素敵なシーンだよね。元々少ない登場人物の関係性の濃さが凝縮されているというかね。いややっぱ、重いな。ポップに出来る限界があるから仕方ないけど重い。9話は前観たとき、泣き過ぎてもう泣けなくなっちゃったな。ほらここ感動シーンですよという感じが、ちょっとな……。それよかここのシーンのほうがグッとくるな今観ると。こうやって言える関係性が素晴らしいよね。10話……あ、最終回か。そうそう10月~12月期のドラマだからクリスマスの雰囲気が良いのよね。毎年この時期に観よう観ようと思っては観なかったんだけど。あーそっか。ここでやっとこの流れになっているんだよな。なるほどなー。あ、ラストってこうだったのか!?間違った見方してたわ。うわー見てて良かったー。そうなるとこのドラマの伝えたかったメッセージが変わってくるな……。


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あー面白かった。こういう雰囲気が苦手って人は全く見れないかもな。自分でもキッツイなと思うぐらいだもんな。全話良いってわけじゃないけど、疑問や違和感、笑いと感動もあって全体通して心揺さぶられまくってたな。







あれ?今日何の話してましたっけ???









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