実証例(の計画)

貧しい人々にベーシンックインカムを生涯保証するとどうなるか?我々は今まさにそれを検証する

(’What If We Just Gave Poor People a Basic Income for Life? That’s What We’re About to Test’. By Michael Faye and Paul Niehausの和訳)

過去10年、我々にとってぱっと見奇異に映るであろう、お金を持たない困窮者対策への関心が高まっている。その方策とは、ひも付きでないお金を供与するというもの。
古よりの政策決定においては、「魚を与えればその人を一日は食わせられる(それよりは魚の捕り方を教えよ)!」の警句で知られるように、単に貧しい人々にお金を与えるという方策は疑う余地のない愚策であると考えられてきた。「何と浅はかな。単にお金を与えるなど。もらった人々は努力しなくなる。飲んだくれる。」ここに底流する仮定とは「貧しい人々は彼ら自身の意思決定がマズい(から貧しい)。しかるべき人間が彼らのためにとるべき道を定めるべきだ。」というもの。
しかし、注意深く設計された社会保障プログラムはしばしば意図された目標達成に及んでいない。最近の世界銀行が行った調査では、「技術訓練と小規模金融は、特にそれらプログラムに費やされるコストとの比較で、貧困削減と人々の生計安定にほとんど目に見えた変化を及ぼしていない。」と結論付けた。さらに、このような保護者然とした方策はしばしば無価値におわる。例えば、ジェッセ・クニャ女史は、基本的な食糧の供与と、それと同額の現金供与との間で、健康および栄養面の変化に何ら違いがないことを明らかにした。しかしそれよりもさらに重要なことは、貧しい人々は、自由、尊厳そして現金供与の柔軟性をより好むということである。インドのビハールで行われた調査では、8割以上が食糧引き換え券を現金化したいと回答した。(しかも多くは25~75%もの割引価格でも)
これらの結果、開発政策の世界の風向きは変わってきた。欧州委員会は最近、政治家たちから常に「なぜ現金(供与)ではだめなのか?」と問われることをほのめかし、バン・キ・ムン国連事務総長は、「現金(供与)に基づく支援計画策定が、定型として選好されるべきだ」とした。つまり、現金(供与)の確固たる証拠が、貧困削減計画のための諸制度および海外援助をいかに改革すべきかについての健全な議論を呼び起こしている。
では、我々はそれら実証結果やこれに基づく議論をどこへ向かわせるべきなのか?我々が創設したGive Directlyという組織は、いわゆるベーシックインカムを保証することにより、ケニアの村々に暮らす数千人の人々の極度の貧困を永久に根絶することに挑戦することを決めた。我々は過去10年、Give Directlyを通じて極度の貧困者への現金供与を行ってきたが、例外なく、長期に、そして基本的生活ニーズを満たすというものではなかった。そう。その未だかつて行われなかったことこそ、我々が今まさにトライすべき時と考える由縁である。

ベーシックインカムのアイデアについては世界的に議論され、フィンランドの中道右派政権及びカナダの自由主義政党がパイロットを検討中であり、また、カトー研究所のリバタリアン、ブルッキングス研究所の自由主義者を含む、政治主張を超えたサポートが得られてきている。スイスでは、来る6月5日に、ベーシックインカムの法制化に関する国民投票が行われる。これらが議論する予算規模は巨大であり、数兆ドル規模の社会保障費の見直しが行われる。我々はしばしば重複のあるつぎはぎの貧困削減計画システム、栄養、住居、雇用など各課題をバラバラに実施管理するような、から単にベーシックインカムを保証する方策へ移行すべきだろうか?もし移行するならどのようなことが起こるだろうか?

ベーシックインカムの主唱者たちは言うだろう。ベーシックインカムは最も効率的な社会支援形態であると。労働意欲をそぐようなマイナスの効果も及ぼさず、また、ベーシックインカムを得るための労働を義務付けない。このシステムの簡便性は複雑な社会プログラム管理に要する人件費も削減するだろう。さらにいいことには、多くの社会プログラムにありがちな、国家等上からの守護押し付け(従って依存)的性質もさけられる。IT等先端技術方面からは、そのような(簡便化に向けた)ソーシャル・セーフティ・ネット(社会安全網)の抜本見直しはますます自動化される仕事そしてそれに伴う潜在的失業の問題を扱う上でも必要となるとの声もある。また、ジュディス・シュレヴィッツを含む性差による格差解消を目指す陣営は、ベーシックインカムはその目的に適う手段と見ている。一方現金供与にまつわる典型的な懸念を示す懐疑的な見方もある。最も広く抱かれている懸念は、貧困者は信頼できず、(供与された)現金を浪費するにちがいない、というもの。より熟考された批判では、ベーシックインカムを持続的に実施する資金源は確保されるのか、或は、資本(つまり資産形成に必要な分の投入)を予め全て供与するという方策の方がより効率的ではないのか?という疑問も予想される。しかしながら、根源的に、それらの疑問は事実として確認・検証されたことに基づくべきであろう。普遍的なベーシックインカムは一体どのような変化をもたらすのか?そして、そのような変化は他の支援形態とどのように比較できるだろうか?
我々は検証する。そのために、少なくとも6000人のケニアの人々に、10~15年にわたりベーシックインカムを供与する。これらの受益者は世界でも最も脆弱とされるグループに属しており、米ドル換算で1ドル未満で暮らしている。加えて、我々はMITのアビジト・バーナジー氏を含む著名な学者と協力し、厳密にインパクトを検証する。
「厳格に」とは以下の点についてである。第一に、検証は実験的であり、よって公平で透明性の高いインパクトの試算をおこなう。第二に、ベーシックインカムの保証は長期間をコミットする。我々は数年にわたる現金供与の効果については既に実証している。したがって、キーとなる検証点は、10年以上もの期間生計の安全が保証されるとの認識が、人々の行動にどのように影響するか?よりリスクをとるのか?教育を受けようとするか?よい仕事を探すのか?第三に、ベーシックインカムの保証は厳格に定義された共同体群内においては普遍的である(選択的でない)必要がある。既に多様なベーシックインカムのパイロット事業が過去行われているが、これら3つの条件を全て満たす事業は今のところ実施されていない。
この厳格な評価プロジェクトには、およそ3000万ドルが投入される。そのうち90%が極端に貧しい世帯に直接供与され、残り(10%)がスタッフ、事務所等実施運営費に回される。新興成長市場で本事業を実施することにより、ベーシックニーズの額は少額で済み、統計的に有意な証拠を得られるよう十分な数の人々の参加を可能とする(同規模のプロジェクトを米国で実施するとおよそ10億ドルが必要)。また、新興成長市場地域における政策協議にも直接活用可能な情報を提供可能となる。本プロジェクトはまた、フィンランド及びカナダ政府による実験計画にも有用な情報を提供する。さらに、Y Combinatorという起業促進組織による実験プロジェクトにも貢献することになろう。
開始に当たって、我々は1000万ドルを我々自身の資金から投入し、既に寄付を受けた1000万ドルに対応させた。最悪のケースでも、この現金は数千人の低所得世帯の生活を変えるであろう。理想的にはさらに、世界の貧困の撲滅についての考え方に変化を及ぼすことができるだろう。

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