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mystaという「リモート公開オーディション」の可能性について

※以下の文章は、「デジタルコンテンツ白書2020」に寄稿した文章の一部を抜粋・編集したものです。

 「mysta」というオーディション特化型のアプリがある。アプリひとつでスターになれる、というコンセプトを掲げた同アプリでは、常に様々なオーディション(権利獲得競争)が行われている。これはSHOWROOMやミクチャや17などと同じで、アプリ上で要は公開オーディションが開かれていて、ギフトやチアといったポイント数の獲得ランキングを通じて合格者が決まっていくという、いわゆる「ユーザー参加型オーディション」の形式をとっている。これも、AKB48グループの「選抜総選挙」や韓国K-POPの「国民プロデューサー」の仕組みと大きな違いはない。
 大きく違うのは、本アプリが非同期型動画の投稿に限っている点だ。これにはいくつかの理由が考えられるが、mystaでは大物審査員による審査を必ず挟み込んでいる(審査員賞の存在)が大きいと考えられる。去年であれば元NMB48の渡辺美優紀、今年であれば元モーニング娘。の市井紗耶香や夏まゆみ(敬称略)といった面々がそれにあたる。こうした大御所がいざ審査しようというとき、リアルタイムの動画配信だけでは無理がある。そこでmystaでは、「XXの課題曲をアカペラで歌おう!」といった具合に、審査員が審査できる形での非同期型動画の投稿を求めている。これは極めてオーディションアプリとして合理性が高いといえる。
 また同アプリが興味深いは、途中のオーディションはすべてアプリ上の応援ポイントで決まっていくのに対し、最後にリアルでの選考イベント・合宿選考をきちんと置いているということだ。2020年4月より実施されている「市井紗耶香タレントアイドルグループオーディション」では今年7月5日、選考イベントが開催された。その模様は以下のとおりである:「元モーニング娘。の市井紗耶香がプロデュースする『タレントアイドルグループオーテディション』のイベント審査が5日、都内で行われ、通過者30人が決定した。同オーディションは、市井プロデュースのタレントアイドルグループを発足することが決定し、オーディションアプリ『mysta』にて募集。この日のイベント審査では、54人が12グループに分かれ、課題曲を歌と踊りで披露した。今後は、通過者30人で合宿を行い、今月26日に東京・有楽町朝日ホールで最終審査が行われた。
 実に興味深いことに、同イベントはマネタイズという点でも目をみはる点が多数あった。選考イベント中も、mystaアプリで生中継される画面でチアやギフトでの応援が可能だったこと。事前に予約販売された各候補者の名前が刻まれたTシャツを購入すると、その売上が応援ポイントして換算されること。そして上位10名は、無条件で合宿審査に進出できること、などである。つまりこのイベントは、単なる公開オーディションではなく、リアルもネットも融合した完全なる参加型オーディションとして実施されたのだ。筆者は会場に身を置いていたが、その熱気たるや相当たるものがあった。
 重要なポイントは、AKBグループが生み出した最強のビジネスモデル「選抜総選挙」を、デビュー前のアイドル未満の存在に適用することで、充分に熱狂を生み出せることを実現している点にある、と筆者は考える。まだmystaからはそれほど有名なアイドルグループは出てきていないが、この熱狂を見る限り、この数年でこうした「リモート公開オーディション」から、新たなアイドル戦国時代が巻き起こるのではないだろうか。

 そしてこのモデルは、必ずしもアイドルだけではなく、声優・漫画家・アニメーター・ゲームクリエイター・e-sport選手の「卵」など、あらゆるコンテンツクリエイターや表現者に適用できるのではないか。ここに筆者は、今後のデジタルコンテンツの未来をうらなう、具体的なヒントを見いだしたいと考えている。

脱稿:2020年7月20日

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