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シン・桃太郎

 ええと、これはどこに書いたのかな。
 桃太郎の話はどこに書いたか分からなくなってしまった。書き直しておこう。
 吉備だんごというが、どこのものかご存じであろうか。実は私もよくは分からない。とは言いながら、山陽地方に吉備という所があって、そこで吉備だんごとは売っていた。吉備舞いという舞いもあって、その地方では有名だそうである。
 だから、桃太郎も山陽地方の話なのだろうか。

 すぐに本題に入ると、話が短く終わてしまうので、子ども劇場の話をしておくが、昔、船橋子ども劇場という所に在籍していた。そこでは「運営委員会」というおばさんの集まりがあって、どこか北朝鮮の、朝鮮労働党のようでもある。
 船橋市、三千人の組織なのだが、市内に三つの事務所を持つものの、事務所とは名ばかりで、カネがないから月三万円のボロアパートを借りている。そこへ朝からおばさん達が集結して、「会議」と称して、一体何をやっているのかよく分からない。

 人間関係に、あまり向いてもいない人間だった自分は、無理やりこの「子ども劇場」という組織に入れられて、事務所へ行くものの、そのたびに「あなたってどうしてそんなに問題なの?」と説教を受ける。
 事務所へ行って、黙って座っているだけなのに、おばさん達に囲まれて、「どうしてあなたってそんなに問題なの?」とつるし上げを食わされるのである。いったい何が何だか分からない。
 あれこれ劇場の研究をしてきたが、次第に分かってきた。そこに金正恩のような、その通りデブの独裁者の男がいた。それが前田だった。
 いつも前田が電話でおばさん達に「吉川君は問題ですよね」と電話しているから、事務所へ行くたびに、「どうしてあなたはそんなに問題なの?」とつるし上げを食うことになる。
 「吉川君は悪い人ですよね」とか、「吉川君は嫌な人ですよね」などと言わないところがポイントである。独裁者は決して自分の立場を危うくするような発言はしない。必ず「この人は問題ですよね」と言えば、おばさん達をだまして、おばさん達の支持を得られることを知っている。
 こう言ったあたりまでは、前にも書いたかと思うが、この先である。

 ゆっこって、本名はなんていうのかなあ。実は知らない。いま何歳になっているのかも知らないし、どこに住んでいるのかも知らない。
「ゆっこって、背が高いね、何センチなの」
「164センチ」
「背が高い人はいいね」
「あ、じゃあ吉川君も背を伸ばせばいいんだよ」
「え?」

「なんでこんなに偶然なんだろうね、俺ゆっことであっちゃったよ」
 前田が酒を飲んで酔っぱらったように、顔を真っ赤にして大声で事務所に入ってきた。
「ゆっこのさあ、高校があの駅にあるだろ? 下校時間が三時じゃんか。だいたいさあ、駅の階段あたりに立っていたら会えそうかなあって思ったら、スゲーんだぜ、会っちゃったよ」
 大関さんが「前田君、そんなことしていていいの? 彼女に振られるわよ」というと、前田は一瞬でめきんのような顔をして、目を見開いて笑った。
 それから、前田は毎日のようにゆっこを待ち伏せをして、デートをするようになった。
「クックック。ゆっこと歩いてたらさあ、俺の彼女が前から来ちゃってさあ。あいつ俺たちのこと無視して通り過ぎて行っちゃったよ」
 前田はあまり悪い事とは思っていなかったらしい。
「吉川さあ、俺、彼女振ってゆっことつきあっちゃおっかなあ?」
「つきあえば?」 

 ミケのことは、前にも書いたけれど、俺からミケを奪おうとした前田である。それが今度はゆっこを奪おうと画策する。
 勝手にやっていればいいじゃんか。どうにも前田のやっていることが分からない。独裁国家の独裁者とは、やることが意味不明である。
 劇場のことは、今日はここまでにしよう。

 で、シン・桃太郎である。
 おじいさんとおばあさんは、実はまだ年が数えの47だった。昔の人は栄養状態が悪く、寿命も短い。だからそのような年にもなれば、老人扱いされるものだった。
 おばあさんが川で洗濯していたら、どんぶらこ、どんぶらこと巨大な桃が流れてきた。実はそれは張りぼてだった。生まれたばかりの子供を誰かが上流で捨てたのである。
 おばあさんがその張りぼてを持って帰ろうにも、あまりに大きくて、無理な話だった。山へ芝刈りにいったおじいさんを呼びに行き、その桃を見せると、「こんな人でなしなことをするなんて、とても人間のすることとは思えない」と、中にいる子供のことを嘆いた。
 しかし、その子を自分たちで育てるにも経済力に自信がなかった。いっそのことと、おじいさんは斧で桃を真っ二つに、子供ごと切ってすててしまおうと決断するのである。
 ところが、おじいさんが斧を振り下ろすと、「ちょっと待った!」と中から、天上天下唯我独尊とでもいうように、まるで悟り切った子供が現れ、両手でその斧を真剣白刃取りのように受け止めた。
「この子は違う!」
 おじいさんとおばあさんは互いの目と目を見つめ、何か使命感のようなものをとっさに感じ取った。そうだ、二人でこの子を育てよう。それが吉備に生きるものの宿命なのだ。

 やがて、立派な若者に成長した彼には、待つべき悪というものが存在していた。
「お前は本当に行くのかい?」
「おじいさん、おばあさん。俺はこの日のために生きてきた。行かねばならないのだろう」
 おばあさんは若者に吉備だんごを持たせ、そっと涙を拭いた。これが最後になるかもしれない。
 新型高エネルギー反応「鬼」に対して、この子はたった一人で立ち向かうのか。
「碇、本当にこれでいいのか?」
「ああ。冬月、しばらくここを頼む」
 これには碇も耐えかねるほどのショックを受けていた。
 若者が行く途中、山道では野獣が待ち伏せ、幾度となく死闘を繰り返すも、これに勝利。犬、猿、キジに吉備だんごを与えて飼いならし、供にした。

 鬼ガ島へ行くと、血で血を洗う激戦が待ち構え、さすがの若者も命の保証など約束のされない状況は続くも、遂には状況は若者のほうへと有利に傾いていく。奇跡が起き始める。やはりこの日のために、この若者は生まれてきた。信じるとはこういうこと。だから君も闘うんだ、神仏がそう言っている。

 若者は、帰ってきた。奪いつくされた財産を持ち帰ってきて、村にはにわかに信じられないと、この若者を称賛した。彼は「桃太郎」と呼ばれ、村の英雄になった。
「英雄ではない。ただ闘っただけだ」
 そう言って、若者はのち静かに生きることとなった。
 桃から生まれた桃太郎が、竹から生まれたかぐや姫と恋仲に落ちるも、その恋は実らなかったということは、史実には残されてはいない。そして桃太郎は1922年、864歳でこの世を去ることになる。
 最後は東京の会社役員だったと伝えられている。

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