「複業」の目的とは？
私は、「複業」(ここでは「副業」と同義とする)が制度として容認される日を心待ちにしている。
ただし、私が複業としようとしている職業からは、収入は得られない。
2007年に新卒で入社した地方銀行員である私が「複業」として取り組みたいのは、
『アマチュア野球審判員』
と
『小学校のPTA活動』
いわゆるボランティアと位置付けされるものだ。
前述、取り組みたい、と表現したが、いま現在も取り組んでいるし、この先も取り組みたい、と表現した方が正確だ。
…
自分の生まれ育った石川県のために、地域のために働きたい、と強く思い、東京の大学を卒業後、地方銀行に就職。
だが実際には、地域のために働いている実感は、幸福感は、当時の銀行業務からは得られなかった。むしろ違和感が積み重なり、心労となり、一時出社出来なくなった時期もあった。
そんな時に、職場の同僚から勧められたのが、アマチュア野球審判員の道だった。妻と幼い子を抱える身でありながら、土日が活動の中心となるこの世界に飛び込むことに、ためらいはあった。
ただ、それ以上のワクワク感…高校まで自分を育ててくれた野球への恩返しができる、地域の野球少年、球児のためにグラウンドに立てる、さらには高校時代に果たせなかった甲子園の舞台を、審判員として目指すことができる。妻も私の想いを察し、背中を押してくれた。
2012年、野球審判員の世界に飛び込み、銀行員と野球審判員の２足のわらじ人生がスタートした。
高校野球を中心とした活動の中で、審判員という生半可な気持ちではこなせない真剣勝負の世界にのめりこんでいった。10代から80代まで、いろいろなバックグラウンドを持つ審判仲間ができ、刺激を受けた。何より、高校野球にダイレクトに貢献できる喜びが明らかな「幸福度」の向上をもたらした。
2018年には、小学校のPTA役員に。３足目のわらじ。
6年間のうちに１年やらなければならないというルールも手伝い、子どもたちのためになる活動なら…とPTA役員に立候補した。実は立候補自体が珍しいことを後になって知る。PTA＝苦役、そんなイメージがはびこっている。子どもたちのための組織なのに…
「これは変えなければ」
前例踏襲の世界のイノベーション。私の使命感に火がついた。2019年には会長となり、いま２年目を迎えている。コロナ禍もあり、図らずも前例踏襲は一時的に崩れた。これをチャンスと捉え、「本当に必要な活動」をゼロベースで考え、実行してきた。
土曜授業の通学見守り 金沢・長坂台小ＰＴＡ、応援団結成https://news.yahoo.co.jp/articles/a7961ff540a205f26fba98c145850e7e62a36fbc
さらには専門委員等PTA組織体制の再構築にもチャレンジしている。このノウハウは、銀行の関連会社(2020年4月より出向)での業務改革専担者としての経験が活きている。
PTAでもまた、老若男女たくさんの方々とのつながりができた。それは学校の枠を越え、地域にも広がっていく。地域の声をダイレクトで聴くことができる。地域に溶け込むこの感覚が、地方銀行員には足りないのではないか。そんな気付きを得た。
３足のわらじをはきこなしていくこと(＝複業)で、私が就職当時に強く想っていた「地域のために役に立つ」を実現し、心理的な幸福度を高めているのが、客観的にみた、私のいまの生き方であろう。
また、３種の活動での経験値が自分の中でコラボレーションを起こし、それをそれぞれの活動へフィードバックすることによる効果も大きい。複業は、個人と組織の両者の幸福度を高める可能性を持つ。
本稿の問いである「複業の壁」。
それは「複業の目的」をどう持つか、だと考える。
「副収入源」を複業の第一の目的とすることも否定はしない。が、それだけでは個人も組織も疲弊する。むしろ、私のように複業による収入がなかったとしても、複業は社会の幸福度を高める可能性を持つ。
「壁」は私の経験したような経済的効果ではない部分での複業の効果・意義を、個人・組織がそれぞれ認識することだろう。いち個人の経験談は「それはよかったね」の他人事にされがちだ。
まずは、目的はどうあれ、複業を経験していくことで、それぞれが自分事として自分の人生を考えるきっかけとなれば、それでよいのかもしれない。選択した複業が結果として違うと思えば、辞めればよい。制度的な課題もその中で認識し対応していけばよいと考える。失敗に寛容な社会であるか、も一つの「壁」だろう。
銀行員として学んだこと。
〜お金は人生の目的ではない、人生の目的を叶えるための手段だ〜
「複業の目的」は、実は「人生の目的」であり、そこにはみなが必ずどこかでぶち当たる『壁』が待ち受けている、のかもしれない。
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