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【なぜ勉強するの?#4】 なぜ数学を勉強するのか?

「なぜ勉強するのか?」を考えるマガジンの第4弾です。
※全文を公開している「投げ銭」スタイルのnoteです。

今回は,私の専門学問である数学教育学から「なぜ数学を勉強するのか?」「数学科の目的」について,私の師匠の師匠である杉山吉茂氏の著作から考えていきたいと思います。

まずは,数学は日常生活に役に立つということについて

なぜ数学を教えるのかについては,いろいろな立場から答えることができる。「日常生活を送るのに困らないようにするため」と言うのも,その答えの1つである。しかし,それだけでは中学校や高校で数学が教えられなければならない理由にはならない。さらに別のねらいを考えることが必要である。
『数学科教育ー中学・高校(講座教科教育)』杉山吉茂ら編(1999) 2章 数学科の目標 p.13

と述べています。中学校の数学は日常生活で役立つということでは説明が付かないものも増えてきますね。そこで,別のねらいとして以下の4点を挙げています。

ア 他の教科(学問)を学習するための基礎

社会科などいくつかの教科で,統計的な数値が使われたり,グラフで表現されたりする。それらの数値やグラフを正しく使い,読みとることができるためには,それらの数値のもつ意味を正しく知る必要がある。計算の仕方だけでなく,その意味することや,気をつけなくてはならないことを知っている必要もある。統計的な処理が異なれば,結果を見て受ける印象が全く違うこともあるからである。
前掲書 p.13

計算やグラフの読み取りだけでなく,正負の数や関数,微分積分など数学で学習する内容は他の学問で基礎知識として使われます。グラフの読み取りについて,以下のnoteがとても面白いです。

これとかすごいですよね。

スクリーンショット 2021-03-21 時刻 22.09.09

まず,円の中心が真ん中でないので,25%ずつだとしても下の方が大きく見えます(実際40代と30代は同じなのに全然違って見えますね)。また,10代20代だけまとめてあるので,そりゃ多いでしょうよ。年代だけ見れば50代の方が多いですしね。

こんな感じでグラフの意味や数値などをしっかりと読みとらないと,騙されてしまうかもしれません。

イ より進んだ数学を学習するため

数学は,系統性が強いので,中学校で学習したことを基礎にして高校の数学が,高校の数学を基礎にして更に進んだ数学が学習できる。そして,数学を使っていろいろな問題が解決できるようになる。(中略)
数学を学ぶ必要がないだろうと思っていても,将来,進路を選択するときに,数学ができないために,その方向に進めないというようなことが起こらないとはかぎらない。必要なことが分かったから勉強しようと思っても,系統性の強い数学を短期間に修得することは難しい。ある程度の数学の素養がないと,新しい数学を自学することは不可能に近い。進路の選択,職業の選択の幅を狭くしてしまうことがないように,必要になったとき必要な数学が学べる位の数学の力はつけたいものである。
再掲書 pp.14-15

数学は一朝一夕では身に付くものではなく,積み重ねが大切になってきます。そして,統計などの内容は仕事をやっていく上で,どんな分野でも必須項目となっていくことでしょう。数学のやる内容を決めている学習指導要領の解説には以下のように書いてあります。

急速に発展しつつある情報化社会においては,多くの人が,様々なデータを手にすることができるようになってきており,データを用いて問題解決する場面も多くみられるようになってきている。そこで,データを用いて問題解決するために必要な基本的な方法を理解し,これを用いてデータの傾向を捉え説明することを通して,問題解決する力を養うことができるようにする必要がある。
学習指導要領解説 数学編 p.10

例えば,コロナ禍での人の混み具合をスマートフォンの位置情報をもとに分析するようなことがニュースでも散見されますね。これもデータを用いた問題解決の1つです。数学は,何も研究職に就く人だけが必要とされている時代は過ぎ去ったと感じています。

ウ 数学の学習を通して身につけることができる力

 教育学では,数学そのものを学んで力とすることを実質的陶冶と言い,数学を学ぶことを通して身につけることを形式的陶冶と言っている。例えば,「数学を学ぶ間に論理的に考える力を身につける」ことなどが後者に当たる。(中略)数学の力をつけるとともに,数学の学習を通して身につけることができる力も身につけさせることを考えるのである。
 数学を学ぶことを通して身につけることができる力には,いろいろあるが,例えば,自立心を育てることを挙げても良い。
 数学は,得られた結果や予想を自分で確かめることができる教科である。こんなことが成り立つのではないかという予想は,証明することによって自分で確かめる方法がいくつもある。したがって,生徒に自分で得た結果を自分で確かめることを求め,その態度を養えば,自立心,主体性をもった人間を育てることが期待できよう。
『数学科教育ー中学・高校(講座教科教育)』杉山吉茂ら編(1999) 2章 数学科の目標 p.16

ちょっと長いですが,自立心と数学について是非とも読んで欲しいです。アとイが実質的陶冶に対して,このウは形式的陶冶と呼ばれるものです。

他の学問では,「何を言っているか」よりも「誰が言っているか」ということを重視することもあります。しかし,数学ないし科学は,「何を言っているか」を重視し,それが論理的に正しいかどうかを確かめ,みんなが納得して確かに正しいとなれば(反証可能性と言います),初めて論として成り立ちます。

また,物理や化学などの理科は正しいか確かめるためには精密な機械が必要とされるものもありますが,数学は基本的に頭の中で論を組み立てて考えていきます。その点で,数学を学んでいくことで「自立心」が芽生えるという話は,納得だなあと私は思いました。

エ 知的楽しみを与える

 数学は,考えることの楽しさを与えることができる価値をもつ。それは,文学作品を読んだり,音楽を聞いたりするのと同じような知的な楽しみである。その知的楽しみは,数学を生涯学び続ける原動力ともなる。(中略)
 自らが自らの教育をし続ける力,自己学習力を身につけることは,将来どんな知識が必要なのか分からない時代にあっては大切なことである。その力が身についていれば,社会環境が変わっても,必要な知識,能力を身につけ,乗り切ることができるであろう。
再掲書 p.18

なかなか学校で与えられた数学から知的楽しみを得ることは難しいかもしれませんが,これが感じられるともっと数学を知りたい・学びたいという原動力になります。この力(自己学習力)が身につけば「未来を自ら切り開く」ことができると考えています。

例えば,以下のような図鑑から,自分が面白いと思った内容を深掘りするのも良いかもしれません。私も中学生の時に,ハノイの塔というものを知って,ハノイの塔を積み上げるパターンを自分で発見して喚起した思い出もあります。

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※濱塾にも置いてあります。塾生は,ぜひ見てください。

まとめ

以上が「なぜ数学を勉強するのか」について杉山氏の著書から考えてきました。教師に向けた本ですが,4つの観点を知っておくのは教育に携わる人にとっては有益かと思います。是非子どもたちにも紹介してみてください。

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