個人投資家無視の株主優待の廃止・改悪は株式投資離れを招きかねない


立場により、利害の不一致が起こるというのは、この世の常である(笑)。大手のファンドや機関投資家などから見れば、無用でしかない株主優待制度だが、庶民の個人投資家にとっては大事な「利益享受」機会なので、奪わないで欲しい。



この制度は海外投資家に不利だという批判が以前からある。株主優待を受けるには日本居住者である必要だからだ。国内の機関投資家やカストディアン(保管機関)は特典を拒否するか、巨大な年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のように寄付するか換金しなければならない。
  株主優待は取引初心者に株式市場への参加を促す良い方法として機能してきた。ただ、新NISA(少額投資非課税制度)が今年始まると、最初の3カ月だけで170万口座が開設された。新NISAは若い世代をより永続的なリターンに目覚めさせるのに役立っている。
  ということは、株主優待の時代は恐らく終わりを告げるはずだ。サイゼリヤの株価はここ数年、海外での収益化が進むにつれて倍以上になっている。重要なのは、同社が何を減らしたではなく、何を加えたかだ。株主優待はなくなるが、配当金が引き上げられ、投資家はサイゼリヤもしくは他社に再投資することができる。

Bloomberg  『株主優待から増配へ、新NISA時代の還元策-リーディー』



まあ、機関投資家等の言い分は分からないではない。株主優待を実施すると、

・その分の余計なコストがかかる
・かかるコスト分だけ株主配当を増額した方が効率的
・個人投資家は優待メリットを受けるが大口投資家等は受けられない
・特に海外投資家には不利に働く

というようなことはあるだろう。それは認めよう。


しかし、株式投資は海外投資家の為だけに存在するわけではない。市場参加者の数が減少し、特定の大口機関投資家だけになれば価格に影響する意思決定が単一化されてゆき、それこそメガ機関投資家~例えば巨大なインデックス投資を管理する特定株主~によって独占的に価格支配が進むようになるだろう。

まあ、株価決定は、ド素人ではなく専門家たる大口機関投資家だけでやればいい、という意見なのかもしれないが。


早い話が、大口の機関投資家勢、殊に巨大なインデックス投資市場の大部分を支配する、ごく少数が得られる利益が最も大事で、その他の株主は邪魔な存在ということだろうか。


海外機関投資家勢から見て、市場支配力を強化する為に邪魔な存在となっているのが、

・銀行や企業等で「持ち合い株」(近年「政策保有株」と別称を与えられた)を大量に保有していること

・株主優待制度を期待して保有している個人投資家勢

と彼らは考えているのであろう。
それ故、事ある毎に「政策保有株を売れ」「株主優待制度を廃止して配当しろ」と言い続けるのである。

これは、日本経済がおかしくなった90年代後半以降にも、散々同様の主張が突きつけられてきたのである。「株式持ち合いで、ぬるま湯体質だからダメなんだ、だから持ち合い解消しろ!」と度々攻撃されてきたわけである。

「物言う株主」=海外投資家に株式をもっと多く持たせれば、監視や要求が厳しいから企業はもっと成果を挙げることに必死になる、だから成長の為には鞭をくれる御者たる海外投資家(=優待目当ての個人投資家は緩いからダメ)が株式を保有する方が良いのだ、そうすれば馬車馬はもっと働けるようになる、ということだろう。


GPIF にしても、ある意味「他人の褌」で商売をやっているわけでしょう?半ば税金同然に国民からかき集めた保険料を大量に運用するわけだが、彼らが大株主となる為に何かを成し遂げたわけじゃない。特別有能な株主であることなど、実証されたことは一つもないのでは?

大株主の地位を云々できるのは「圧倒的大多数の大衆」の肩代わりをしているだけであって、ある意味「機械的に売買」しているだけの自動装置同然なのでは?
だって特定の意志を持つと、投資には不適格なわけでしょう?

大口のインデックス機関投資家も、基本は決まった数値管理で機械的に売買をしているわけで、投資判断云々の意志の介在は無用なのですよね?


運用効率を上げて低コストで管理できるのは素晴らしいと思うし、大口のインデックス投資ができるようになったのもメリットは大きいが、大株主としての地位を利用して個別企業に云々するというのは、個別株投資で勝負している人だけじゃないかな、と思う。


個別株の売買が無くなって全部がインデックス投資になると、価格形成は本当に合理的になるのでしょうか?
例えば企業業績によって株価変動は起こらなくなり、市場規模の配分とかインデックスを組成する特定モデルに基づく機械的な資金配分だけでしょう?


誰も企業の失敗(例えば倒産寸前とか、大赤字とか)を価格に反映することがなくなり、逆に収益向上とかにも無反応で「淡々とインデックスを買う」だけなんでしょう?


それこそ、価格決定のシステムが壊れてしまい、非効率化となるのでは?


個別株に投資する個人投資家にとっては、株主優待制度は数少ない楽しみと現実利益享受機会であり、これを全廃させれば、「無能なお前等は何も考えずにインデックス投資だけしてろ」と要求するに等しい。


つまり、バカな羊どもは何も考えず、黙って「投資資金を差し出せばいいんじゃ、ボケ」というようなことですか?


そうして大量に集めた数十兆円の資金を利用して、元金規模が大きければ大きい程、手数料収入が巨額となるのは明白だ。


個人投資家の保有比率を引き下げ、物言う海外株主の比率が更に高まることとなり、市場支配力は一層強化され、株式比率の支配力は企業支配力と同じであるから、日本企業の大多数がその傘下に収められることになろう。


配当を増やせ、というのは正論だとは思うが、優待制度が存続していたとしても増配は可能なのだから、わざわざ優待を廃止して個人投資家離れを加速してまでやるべきこととも思わない。


ネット圏での、ほぼ独占的支配力を有する IT 企業群の大成功と同じような市場環境を、株式市場でも実現しようとしているとしか思えない。
株主の多様化を阻止し、特定大規模機関投資家勢が殆どの株式を押さえ、企業はその言いなりにできるようにしたい、ということであろう。


当方としては、優待制度のある株式の場合だと、たとえ大きく負け(株価が元本割れw)ていても、長年持っていればいずれは追い付けるかも、と思い保有を続けることは多いので、庶民投資家の細々とした楽しみを奪うのは止めて欲しいです。



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