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『定本栗鳥巣』壱~肆巻 アングラで生きる すべてがネタ

「ストリップ」という言葉を知りながら、実際に見たことのあるものはそう多くない。古くは加トちゃんの”ちょっとだけよ”を引きずり、単に裸を売りにしたエロ見世物、という認識も根強いものだろう。
現在全国で劇場数20館を下回ったストリップ業界は、ひどく狭くなった。
中でもメディア露出に積極的な「浅草ロック座」を持つロック座系列は、美しいダンスと肉体美の王道を志向し、女性客の支持も積極的に取り込んでいる。しかしもちろん、それだけがストリップなのではない。

たった一人の存在が、その業界の地図を変えることもある。

栗 鳥巣、という人がいる。

いちおう半角スペースで姓・名を区切ったが、実に声に出して読みたい日本語である。
変態界隈で裾野を広げ、ストリップ界ではもう17年、どの劇場(事務所)にも所属せず活動を続けるサブカル界の雄(雌)にして「変態見世物師」。特技は手ではない場所に筆を持ち客の似顔絵を描く「まん画」だが、そのほかも芸風は幅広く、興味の赴くものは恐ろしいスピードで作品を仕立て、上演する。殊に近年「BLストリップ」は大評判を呼び、池袋に同好の腐女子が詰めかけ大盛況、のち劇場の座席・照明が新調されるまでの大活躍を見せた(らしい)。
最新作は「鬼雌の刃」

https://twitter.com/bbbbbird?lang=ja

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さて、その栗鳥巣氏が各劇場・イベント出演ごとに配っているフリーペーパー(A5判1枚)をまとめた自費出版同人誌が
『定本栗鳥巣』(壱、弐、参、肆)だ。※18禁


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各巻100号分+αを収録し、一巻目(2005~2009年分)から随時出版された結果、この2020年9月には第四巻を数えるまでになった。
その時々の近況、予定、楽屋でのストリッパーの様子など、様々なネタが拾われたエッセイマンガ、いわば15年分の同時代録である。

そうしたものを読むとき重要なのは、
「描いているときには先のことはわかっていない」
ということだろう。

第一巻の途中で結婚が報告され(※なおストリッパーは性産業ながらアイドル的側面も大きいため、結婚しても公表しないのが通例)、
第二巻では妊活中と幾度も書かれたのち、vol.124:2010年9月19日号でついに妊娠、引退が発表されるのだが・・・・・・

ただいえるのは、栗鳥巣氏は2020年現在も現役で活躍中だということである。
私が初めて見た2012年の西川口テアトルでは、舞台上から母乳を飛ばしており、常連らしい観客が笑顔で逃げ回っていた。

SNS上でもたびたび話題に上る愛娘「ことり」ちゃんのこと、夫のこと、ペットのヘビ、劇場付近で拾った子猫は育て上げ、その過程を写真集として出版し、変態客の話は尽きず、ストリッパーの薬物事情もやや暴露しながら(本人はやってない)、自画像の変遷も面白く、マンガ・アニメはこよなく愛し、共演者と同人誌を作成する(三巻に収録)、自宅が落雷で燃えた際には募金を募り、コロナ禍ではアマビエに扮装し「私の姿を写して世に広めよ」と、観客にデッサンさせる演目を・・・栗鳥巣にかかればすべての物事はネタとなる。
舞台上でかけているネタのみならず、発信しているすべて、有力なネタなのである。

(この本も中野の「大怪獣サロン」から通販で買ったが、おまけとして「ペットのヘビの脱皮殻」が付いてきた)


・・・・・・と、これだけ書いておいて、思いだすと実際栗鳥巣さんのステージを見た回数のあまりの少なさに驚いた。たいして見てないのに、こんなこと書いてるのである。
ダメですね。
SNSの頻繁な情報発信に甘えては業界は先細るだけなので、書を捨てなくともいいから、街へ出よう、ということ。

本文で何度も目にするだろう、
「栗鳥巣を観にきました」
と言い「ポラを買う」こと。

それが何よりの助けとなる。
ポラ(写真)を買うことは劇場への収入となり、踊り子の人気のバロメーターとなって、次の仕事につながるというシステムだからだ。
街へ出よう。

なお、本書の紹介で疑問を持たれた方は、オーバーな表現があったことをお詫びいたします。

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おりしも最近、知り合い伝いに「ストリップの話を聞かせてほしい」といわれ、人の家にお邪魔したら、その居間には「まん画」が飾られてあった。
ストリップの話を聞きたい、といったのも、観光で入った熱海の劇場で栗鳥巣さんにあてられ、興味をもったのだそうだった。

ストリップの裾野は広がっている。



(なお本書は背表紙が白いので、どんな本棚に入れても平気です)

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