マガジンのカバー画像

狐日和に九尾なぐ

11
運営しているクリエイター

2020年5月の記事一覧

狐日和に九尾なぐ 第五話

狐日和に九尾なぐ 第五話

■しっぽをいじられるのは、わらわだけ。 根元は小麦色、先端に向かっていくにつれて色素が薄くなっていくその九尾をじっと眺め、また生え際へ目線を戻す。

「生えてる……」
 一回りも年齢がかけ離れていると思しき少女の臀部。それをまじまじと観察する独身女性の姿があった。自分の行為が異常なのは承知しているが、目の前に広がるこの光景こそさらなる異常なのだから、見てしまうほかないではないか。

 きゅっと締ま

もっとみる
狐日和に九尾なぐ 第四話

狐日和に九尾なぐ 第四話

■脱がされるのは、わらわだけ。 コスプレというには質感があまりにリアルで、なんなら彼女の身体よりもしっぽのほうが熱量を持っているほどだ。狐のような恒温動物は身体の熱を耳や尾から逃がすという話を聞いたことがある。あるいはこの女の子も本物の狐の一種なのだろうか?

「いや、さすがにそれはないわ……」
 いくら精巧にできているとはいえ、それは考えすぎだと首を振った。ただ、そうした間にもそのしっぽはまるで

もっとみる
狐日和に九尾なぐ 第三話

狐日和に九尾なぐ 第三話

■信じないのは、わらわだけ。「ぷゅこ……」
 頭からはキツネの耳がぴょこんと生えており、彼女の苦しそうな寝息に合わせて動いている。さらにお尻からは九本のしっぽも力なく揺らめいているではないか。

 こんなに精巧なコスプレは秋葉原はおろか、ビッグサイトの同人誌即売会でも見たことがない。
 もしかすると北海道のコスプレ技術は、私が知らないだけでとんでもない独自の技術革新を遂げてしまっていたのだろうか。

もっとみる
狐日和に九尾なぐ 第二話

狐日和に九尾なぐ 第二話

■化けたのは、わらわだけ。 五月雨の昼下がりだった。釧路からさらに東に位置するこの厚岸の雨は東京と比べてしんと冷たく、春すらも迎えてないのではないかと勘違いしてしまうほどだ。
 とはいえ、この天気もむしろ望んでいたことだ。せわしい往来と蒸し暑さが息苦しい都会と比べると、初夏らしからぬ肌寒さと雨音だけを感じていられる田舎というのは、幾分か気が楽になるような気がした。

「田舎に幻滅しても知らないから

もっとみる
狐日和に九尾なぐ 第一話

狐日和に九尾なぐ 第一話

■狙われるのは、わらわだけ。 逃げて、逃げて、それでもあの人間たちは追ってきた。
 どんなに雨粒が傷口を流そうとしても、灼熱の鼓動と共に身体から命の欠片が溢れ出ていく。

「やめろ、人間ども! 命を弄ぶでない!」
 負傷した後ろ脚を引きずりながらも、決死の思いで入り組んだ路地へ走り込むがしかし、その無邪気の巨悪が素早く後をつけてくる。

「おい、こっちに逃げた」
「まだ死なねえのかよ、しぶてぇな」

もっとみる