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No.003_歌手 鷹野景輔

2018年8月4日に公開された記事です。


「作品の価値を後世に伝えたい。愛の妙薬もそんなオペラのひとつです」

今回のインタビューは、はまぷろの初回公演からご出演いただいているテノールの鷹野さんです。
「愛の妙薬」で主役を務める鷹野さんに、聴きどころや音楽への想いを伺いました。(聞き手&編集:吉野良祐、編集:安田ひとみ)

鷹野景輔(歌手)

撮影:奥山茂亮

多彩な選択肢の中からオペラ歌手の道へ

吉野:今日は〈愛の妙薬〉ネモリーノ役を演じるテノールの鷹野さんにお話を伺います。鷹野さんは現在、東京藝術大学大学院で声楽を学ばれていますが、音楽に関わるようになったきっかけなど教えてください。

鷹野:演奏家の家族や、第二の母のようにお世話になっているピアノの先生の影響もあって、小さい頃から音楽が常に身近にありましたが、本格的に歌の勉強を始めたのは高校のころです。その頃の自分は家族にバカにされるレベルの音痴だったんですよ。

吉野:音痴な鷹野さんの姿がまったく想像できません(笑)。

鷹野:苦労しています(笑)。声楽ではなくて、ピアニストを夢見ていた時期や、ジュニアオケでトランペットを吹いていた時期、それから、藝大楽理科を目指していた時期もありました。でも最終的には、大学でオペラを勉強している先輩方の背中を見て歌やオペラの魅力を肌で感じ、自分もそれを追究したいと思うようになりましたね。

吉野:嫉妬しちゃうくらい多才で羨ましい!

鷹野:いやいや(笑)。どのような形であっても、音楽に携わりたいという気持ちがずっとありました。今の時代まで伝わる素晴らしい芸術を、後世にも伝えていきたいという想いが原動力です。百年以上愛され続けている作品の価値を、多くの人にきちんと伝えられる演奏家を目指したいと思っています。

物語を動かすネモリーノの魅力

吉野:次回公演で取り上げる〈愛の妙薬〉もまた、初演から170年以上経ってなお世界中で上演されている演目ですね。本作の魅力とはどのようなところにあるでしょうか。

鷹野:まず、誰が見ても笑顔になれるような、喜劇としての面白さですね。でもそれだけじゃなくて、愛することや騙すことといった、人間らしい感情や振舞いが様々に表現され、わかりやすい構成のなかに豊かな内容を備えていると感じます。

吉野:愛することも騙すことも、その中心にいるのはネモリーノですね。

鷹野:はい、アディーナに想いを寄せるネモリーノの健気な純朴さが、ベルコーレやドゥルカマーラを巻き込みながら物語を進めていきます。最初のカヴァティーナがハ長調なんですが、このシンプルな音楽と共にネモリーノが登場することがまず印象的です。

吉野:なるほど、それが最後には、変ロ短調で技巧的なアリアになって…

鷹野:そうです!この、カヴァティーナから始まって最後のアリア〈人知れぬ涙〉に至る、という流れをきちんと作りたいと思っています。
ネモリーノの純朴な愛は最初から最後まで一貫していて、その愛を周囲が徐々に理解していくわけですが、その過程でネモリーノ自身も様々な変化や成長を見せます。全曲の中でも数少ない短調の曲を2曲も担っていて、それらもまた、ネモリーノのある一面を表現してくれていると思います。

吉野:なるほど。まだ稽古も序盤。今回の演出におけるネモリーノのキャラクターについては、また回を改めてじっくりお話しましょう。

鷹野:ええ、ぜひ。

はまぷろの舞台と、目指す音楽家像

吉野:鷹野さんには、前回公演〈フィガロの結婚〉でもご一緒させて頂きました。はまぷろという企画ついては、どのように感じていますか。

鷹野:自分は音大で勉強していることもあって、日々様々な評価を受けながら仕事や試験として音楽に取り組むことが多いです。それも大事なことですがやっぱり大変で、そんなときに、音大生でないのにオペラに打ち込んでいるはまぷろの共演者たちに出会って、なんで歌っているんだろう、なんで弾いているんだろう、って不思議に思ったんです。

第1回公演歌劇《フィガロの結婚》のワンシーン。鷹野さんはドン・バジリオ/ドン・クルツィオを演じた。(撮影:奥山茂亮)

吉野:プロの演奏家から音大生、音大以外の学生まで、はまぷろ参加者の出自は様々ですね。

鷹野:はい、それで、本番の舞台に立ちながら、みんなオペラや音楽が純粋に好きなんだな、ってことにハッと気付いたんです。良い音楽を多くの人に届けたいという自分の核となる想いを再確認しながら、舞台に立たせて頂いています。プロとして一流の演奏を目指すのはもちろんですが、敷居が高いばかりでない、たくさんの人に愛されるような音楽を目指したいです。

吉野: どうもありがとうございました。

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