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No.004_衣装 横山由佳・相川治奈

2018年8月13日に公開された記事です。


「キャラクターのことと演者自身のこと、両方をきちんと考えてデザインしたいです」

演奏家のみならず、様々な分野からスタッフが集まるはまぷろ。今回のインタビューでは、衣装のお二人にお話を伺いました。(聞き手・編集:吉野良祐)

横山由佳・相川治奈(衣装)

写真左:横山由佳、右手前:相川治奈

fab(ファブ)の活動

吉野:今日は、衣装チームから、横山さんと相川さんにお話を伺います。お二人はfab(ファブ)という東大の服飾サークルで活動しておられ、前回の〈フィガロの結婚〉から衣装担当としてはまぷろの制作に加わりました。fabではどんな活動をされてきましたか?

相川:fabでは、展示やファッションショーに取り組んできました。下北沢ケージという屋外のコミュニティスペースをショーの会場として使うなど、新しい試みにもチャレンジしてきました。

横山:下北沢ゲージの設置や運営にわたしの学科のOBが関わっているご縁で、使わせて頂くことができました。屋外ということで演出も新しく考えましたが、大変なことも多くて…。控え室が無くて、近くのカラオケボックスに頭を下げて部屋を貸してもらったりもしました(笑)

fab 12th fashion show “くゞる”(場所:下北沢ケージ)での相川さんの作品

相川:準備段階でも、デザインはもちろん、モデルやメイクさんの手配なども行います。これを5,6人で回してたかと思うと、自分でも信じられない(笑)。

横山:回ってたのかあやしい…(笑)。


フィガロの結婚での取り組み

吉野:〈フィガロの結婚〉でも、デザインや制作からはじめて、素晴らしい衣装を仕立ててくださいました。時代や地域の設定を抽象化したこともあって無理難題を投げてしまったのでは、と反省しているのですが…いかがでしたか?

相川:いえいえ、むしろ自由にできてやりやすかったです。ショーをやるときは、全体のコンセプトを決めて、デザインによってそれが再解釈されるようなプロセスを踏みます。オペラでは、ショーのコンセプトの代わりに台本やキャラクターがある、という感覚でやっていたので、今までと大きく違うことをやったというわけではなかったです。

吉野:再解釈というと、スザンナが舞台上で花嫁衣装に変わるという演出は横山さんからの提案がきっかけでした。

横山:長く続いている信頼関係や愛情を再確認する伯爵夫妻に対して、フィガロとスザンナの関係はまだ新しく壊れやすさを伴う…そんな解釈をミーティングで聞いたときに、衣装を変化させたらどうだろう、と提案しました。ベルトを外すとスカートが裏返る仕組みにして、2人の新しい関係の象徴である花嫁衣装が現れるようにしました。

第一回公演《フィガロの結婚》のスザンナとフィガロの衣装(撮影:K.yahagi)

吉野:提案を受けて、舞台上で替えをやってしまおう、となり3幕のフィナーレに結婚式の準備のシーンをつくったのでした。相川さんのケルビーノはどうでしたか?

相川:早着替えがなかなか上手くいかなくて…。吉野さんに衣装準備をめっちゃ急かされるし…(笑)。

吉野:急かすのが仕事なので(笑)。それにしても、ケルビーノ着替えは大変なナンバーでしたね…。直前まで、マントや髪留めの仕組みを調整してもらって、本番はなんとか成功しました。本番しか成功していないかも(笑)。いずれにせよ、衣装チームのみなさんはギリギリまでデザインやギミックを試行錯誤してくださる姿が印象的でした。

横山:いろいろギリギリすぎて、申し訳ないです(笑)。

相川:オペラの衣装が、ショーピースとリアルクローズの間に位置しているというのも難しくて、機能性と芸術性を両立させることに苦心しました。ショーは着ている時間も短いし動作もシンプルなので。

横山:単純に、演者が3時間動き回って崩れない服をつくるのって大変なんです。稽古を見て、あ、膝をつく演技がたくさんあるのね…ヤバ…、みたいな(笑)。


キャラクターか、演者か

吉野:衣装って、ショーにせよ舞台にせよ、デザインより先に着る人が決まっていることはあまりないと思います。はまぷろの場合は先に演者が決まるので、着る人を念頭にデザインができる。そのあたりは、どうですか?

横山:もちろん、台本やキャラクターが先行するんですが、やはり着る身体がある以上、演者本人に合うかどうかということも考えたいと思っています。

第一回公演《フィガロの結婚》ケルビーノ 歌手:依光ひなの(撮影:奥山茂亮)

相川:例えばケルビーノは少年ですが、演じるのは女性なので、私は女性の服を作るつもりでやっていましたね。それに対してショーでは、先にデザインがあって後からそれにあうモデルを探すので、デザイン段階で誰かに似合うということを考えません。その服の魅力を引き出してくれれば誰でも良いんです。

吉野:人間の身体じゃない、たとえば、ロボットでも?

相川:モデルさんには怒られそうだけど、いいですねそれ(笑)。

横山:だから逆にオペラでは、演じる身体や歌う身体を無視する訳にはいかなくて、キャラクターをつくろうと思っても演者自身のこともあわせて考えて制作しました。スザンナの色と役者の若狭さんに合う色の最適な解を、ギリギリまで悩み続けていましたね。諌山さんもフィガロ役の藤巻さんと調整を重ねて、ディテールにこだわったベストが完成しました。

吉野:それは衣装だけの問題じゃなくて、演出全般に生じる問題ですね。キャラクターと演者がどれほど切断されているのか…。演者の都合で表現を決めていくのは本末転倒ですが、それでも、演者自身が生まれ持っている身体性もある。オペラが音楽だけで良いなら、それこそ演技はロボットやアニメーションでいいんです。そうじゃなくて、演者の身体を最も活かせる形を探りたいですよね。そういう意味では、メイクさんの存在も大きくて、自分も色々と学ばせてもらってます。

横山:メイクの菅野さんは、キャラクターと演者、衣装のことを全て考慮して、その魅力を引き出すようなプランニングしてくださいましたね。今回もご一緒できるとのこと、とても楽しみです。


愛の妙薬にむけて

吉野:愛の妙薬はホテルという読み替え設定です。衣装準備も佳境かと思いますが、構想や意気込みをお願いします。

横山:今回、新しく取り組むことは大きく2つあって、1つはホテルのコスチュームと軍服という、制服のデザインです。制服という形式を守りつつ少し崩していきたいなと考えています。もう1つは染めを取り入れることです。戦時下のレトロな色彩を出すために、初めて染色を施してその布を衣装に使うことを試みています。

相川:今回は新たに、fabのショーでは異素材を印象的に使っていた宮本くんと、高校でミュージカルの衣装を手掛けていた神村さんという頼もしい後輩2人が加わってくれました。それぞれのキャラクターのことも考えつつ、役者に似合うものを作りたいです。前回のフィガロで学んだことやfabらしさを活かして、よりよいものにできたらいいなと思っています!

吉野:今回の衣装もとても楽しみです。どうもありがとうございました。

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