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楽をするための努力の話。

僕らはいつの間にか、便利に慣れすぎてしまったのかもしれません。

だからと言って、今の便利さを全部捨てて原始時代のような生活を主張をしたいわけでもありません。そんな極端な話ではなく。

便利さに慣れすぎた代わりに、その便利さを生み出してくれている人たちに対する感謝も薄れてしまっていると感じています。今回はそんなお話です。相変わらず長いです。もし気になればお付き合いください。

僕は今、東京は渋谷区で洋服を作る仕事で生計を立てています。繊維業界の方なら、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。
中間業者として、洋服を作ってお店に並べたいお客様に対して、工場を持っていて実際に物作りができる人たちにお願いをして商品を作っていく仕事をしています。

中間業者という性質上、誰かを感動させるような洋服のデザインができるわけではなく、かと言って、物理的に何かを直接生み出すという能力があるわけではない、そんな存在を世間で不要と唱える声も少なくありません。
しかしながら、誰しもがこの繊維業界に入っていただくとその中間業者の存在の大きさを痛感することになります。

以前からずっとそうですが、これ以降書くことは、誰かがこの状況を招いた戦犯だとして批判したいものではなく、現実を知った上で、自分たちで出来ることをしっかりとやっていきたいといった具合の備忘録に近いものであります。

中間業者の存在意義を問う

今、市場のスピードの早さは、服作りの現場が想像している以上にすごく早く、その流れに取り残されないようにと業界全体が必死に食らいついている印象です。こんな状況になってもう10年くらい経つでしょうか。(いやもっとか)

そんな中、SDGsという目標が世界的にできて、繊維業界はかなり強めに、今までの歪みを正されようとしています。持続可能な生産スピードや賃金を求め生産者は声を上げます。しかし市場は供給スピードや低価格に慣れてしまい、受注からお届けまでの期間と賃金に見合ったコストがしっかりと取れていない現状です。

様々な理由から、依頼者は時間と効率を求め、いつの間にか『丸投げ』という発注方式が成立しました。この『丸投げ』は、一定条件を提示して「できます!」と手をあげた人に発注が下るという流れです。普通に考えればビジネスとはそういうもんだと思うのです。だから今の製造業の状況が冷静に見て悪いとは全く思いません。が、日本の中小繊維製造現場はほとんどの営業窓口が実務作業も兼ねている場合が多く、手間のかかる『丸投げ』を請けて詳細をきちんと整理して商品を作っていくという体制がなかなか整わないというのも事実です。

そこへ僕らのような中間業者が現れて、『丸請け』した依頼を各担当分野(例えばザクッというと生地や縫製など)に分けて依頼していき、商品が出来上がるまでのサプライチェーンを繋ぐ役割を担っているケースがほとんどです。
中間業者もさらに『丸投げ』する中間業者を探している場合もあります。
彼らは自分の顧客様から預かった依頼を専門分野の中間業者に『丸投げ』することで、商売を成り立たせています。この階層だけ説明すると、請けて丸投げするだけの中間業者は不要のように見えます。

例えば仮にデニムが得意のブランドさんから普段取引のある中間業者にスウェットパンツの依頼があったとします。そこでその中間業者はスウェットが得意なカットソーOEM主体の中間業者に依頼を相手の依頼書に手を加えることなく右から左へ流すが如く依頼する、なんてことは珍しくありません。その伝票の受け渡しだけのように見える立ち位置でもしっかりと営業マージンを確保しようと製造原価の圧迫をしてくる人たちもいます。こう見るとかなり悪質な業者のようにも見えますね。

ところが、彼らの顧客様と間接的に丸投げをされている専門分野の中間業者とが直接商売ができるかというと、そこは『人間関係』や『お金の流れ』が絡むので、調整役という意味で彼らのような専門分野の中間業者に丸投げする中間業者もある程度必要になってきます。(いわゆる繊維専門商社もこの辺の立ち位置要素が強い面があります)

そもそもそんなの、お互いに直接できるんだったらとっくにやっている、という話です。

これからの時代、人口が減って産業従事者も減ると(ある程度想像できる範囲で)仮定すると、ただ丸請けして丸投げするだけの人たちが不要であるならば、工業現場系で中間業者を批判している人たちが、しっかりと金銭的にも人脈的にも批判の的(丸投げしてくる中間業者)にしている人たちの役割をこなすことができれば、彼らに圧迫されていた分の賃金問題はクリアになります。端的にいうとそうだというのは、本人たちもわかっているはずです。

これはキツい言い方かもしれませんが、その部分をうやむやにして「技術を守る」を免罪符に避けてきたようにも見えてしまうのです。今、産地工業系の方々がそれぞれに頑張って発信されているのは、逆に言えば、間に入って調整してくれていた人たちを飛び越す覚悟と見受けるので、招かれざる客を呼び込んでしまった時に相手を批判ばかりするのは少し違うのではないかと思わずにはいられません。(簡単に言うと、そこまで言うならやってみろと言う角度の人たちも必ず一定数現れると言う話です)

誰一人取り残さないと言うのは、図らずもそういった人たちさえも、存在を認めていく必要があるのではないかと、僕は思います。自分たちの不遇を嘆くあまり、反対側の人たちを貶めていないか、と、それは今までされてきた嫌な思いを相手にさせていることと何が違うのか、僕には理解ができないのです。

多くの場合、このような取り組みを熱心に始めた方々は、最後には手間に対しての身入りが悪く、結局は工業に原点回帰している印象です。その地方やジャンルでは新しい手札のような気がしてチャレンジするのですが、実際には産地の良さというものの熱量を売りにして商品を一般売り場まで引き連れていくには、それを採用してくれるブランドや、売り場にまで持っていく力のある代理店及び、それを受け入れて売っていこうとする小売など様々な業態の壁があります。なのでこの辺の事情をクリアしてやり切れる人というのは最終的にかなり絞られていきます。やって無駄と言いたいわけではありません。やるならそのゴールまでの商流含めてしっかり認識してそれぞれのポジションで商いをしてる人たちの利害関係も必ず影響してくるので、彼らとの折衝をやり切って、最後に手に取ってくださる一般のお客様から向けられる意見にもしっかりと向き合っていく覚悟が必要になると言いたいのです。そこまでイメージできていない人が多いから途中でなくなってしまうケースが多いように感じます。

これらの理由から、中間業者が担っている役割というのは目に見えている以上の意味があるというのが理解してもらえると、従事者としては報われます。

ファッションと工業の歩み寄りができないのはなぜか

上記の通り、洋服をデザインして販売していく側の人たちと、それを請けて製造していく工業側の人たちとでは、かなり役割が違うのでそれぞれが直接やりとりしてものづくりをしていく環境が出来にくいというのは想像できるかと思います。(故に僕らのような中間業者が生きる道があるというものですが)

ファッションが好きでこの業界に入ってくる人が多い川中/川下に比べ、川上の工業や作業といった仕事が中心の製造現場の人たちでは、興味関心がずれていることも多く言語が噛み合わないこともあります。
ブランドさんと工場さんが直接できない理由として、言語が合っていないケースが多い印象です。主語が違うと言いますか。
例えばブランドさんが生産依頼時にやり取りするときの言葉の主語は『アイテム』または『シーズンコンセプトによるアイテムの雰囲気』が前提にあるので、具体的な詳細技術に踏み込んだ話(ももちろんできる方もいらっしゃいますが)より、全体的に雰囲気に寄る傾向があります。
対して、工場の人たちは技術よりの方々が多いので、雰囲気の汲み取りが難しい場合も少なくないです。話の主語も相手の要望に対して『自分たちの技術』が主語になりやすいです。このあたりが言語の噛み合いがしっくりこない原因になっていると僕は考えていて、ブログやtwitterを中心に得意とする丸編み製造現場の言語や心理的解説と、ファッション側からの感覚的な部分を考えていこうという工業へ向けた意見も織り交ぜて発信してきました。

併せてその点の齟齬を少しでも和らげることができればいいなと思い、具体的に業界でアクションを起こしたい方々に向けて、産地の学校様の協力を得て講義活動などもさせていただいております。

その講義の場面で繊維業界でやっていきたいと思ってる方々を前に色々と現実をお話しさせていただいてもう一つ違和感を感じるのは、想像以上に産地産業の疲弊に対して『かわいそう』という感覚を持っていらっしゃることです。

産地工業はかわいそうなのか

歴史的に見て、確かに日本の繊維産業は色々な面で犠牲になってきました。不遇だと嘆く気持ちもすごく分かります。「報われない」そういう思いでずっと辛酸をなめている方もいらっしゃることと思います。
安価な海外労働力へ大規模な生産背景の遷移があれば、日本製の絶滅を危惧しモノづくりレベルの高さを訴求するも、なかなか市場を作れないジレンマなど、一見すると一方的に外的要因で首を絞められていると感じやすい状況ではあります。

僕自身、実家が縫製工場を運営していた過去もあり、ブランド様一軒で100%の稼働をしていたので、海外に生産を振られていること、また業界全体の縮小の煽りを受けて、最後には工場の地主様のご意向で更地にするということで廃業の道を辿りました。この間に、自発的に工場をどうにかしていこうという意思や具体的な行動はありませんでした。
また、専門学校に通いながら入社した会社は生地工場で、当時まだ青二才だった僕の取ってきた数反というオーダーは「少量すぎて仕事にならない」と現場にさえ通してもらえず、結局外注さんにお願いして作ってもらった経験もあります。

この一連以外にも、それなりに長くなったキャリアの中で出会った「日本製だからと言って、ただ素晴らしいとは思えなくなったエピソード」はいくらでもあります。

そうやってシュリンクしたって、それは自業自得というものではないでしょうか。「そんなもん仕事じゃない」って断って、暇になれば「やっぱそれ頂戴」って、虫が良すぎるでしょ。

僕だって最初は熱意を持って救いたいと思ったよ。本当に。でも、その先を見据えてこれがあるってことを理解してもらうにはとてつもない時間と労力がかかりました。
外側からこの業界(製造の方)をなんとかしたいと盛り上がっている熱量のところには、どちらかというと、やはり今のファッションの物量では救えない分母があって、でもしっかりそう言ったファッションに向き合おうと思って頑張ってらっしゃる方々もいる中で、どうしても相容れない部分(商習慣だったり製造リスクの共有だったり)があって、双方ともに結局中間業者に頼る現実をたくさん見てきました。

中間業者はお客さんをしっかりと広めに取っていけることで、工業に対して割と安定的な依頼ができます。逆に、季節性の高いファッションの先端はブランド単独で工場をしっかり稼働させるという『キャパ埋め』の面で不安定さがあります。ここの理解がまず必要です。

この中でも書いた通り、製造ラインが常に稼働している方がありがたい工業に対して、刹那的な流行一発で収益を安定させることは不可能です。突発案件を、満遍なく拾って工業キャパを埋めていくというのは並大抵の運動量ではありません。

しかし、この運動量を担保できない場合、頭の話に戻りますが、どうしても時代の流れについていくことができずに、仕事が枯渇するという現象が起こります。このループがずっと続きます。なので結局は中間業者に頼るというのは決してかわいそうな構造ではないのです。役割分担だと僕は考えています。

もちろん、中には不要な存在と言われても仕方のない運動量の人たちもいます。間に入ることでむしろややこしくする人たちだっていますし、直接やり取りさせてもらった方が圧倒的に早くスムーズにご提供できるサービスがあるという自信のある方々もいらっしゃることと思います。であれば、中間業者の飛越を積極的に仕掛けていくことで解決するはずです。僕は、それをしない、またはできない具体的な理由はなんなのか、批判的な人たちから聞いてみたいです。

これからのアクション

さて、ここまで長々と書いてきましたがこれからが本題です。(長い

アルクロワークス株式会社は中間業者として、設立から5年経ち、これから先の5年(10周年)、またさらにその先の未来をめがけて今年の秋頃をめどに僕の出身地である佐渡島に縫製工場を設立することにしました。
非常に小規模ではありますが、サンプルから月100~500枚程度の小量産を見据えたキャパシティの工場です。縫製工場を持つことはゴールではなく、あくまでその先に見据えた未来の入り口です。

壮大なプランになりますが、要素だけ簡潔に言うと、原料栽培から衣料品完成までを一箇所に集約内製してモノづくりをする施設をつくっていきます。

入り口として今弊社基幹事業であるOEMの生産を内製する縫製工場を設立するのは先に書きました。続いて綿花栽培です。
輸入に依存している原料(ワタ)を栽培、つまり綿花栽培をします。佐渡は農業に適している環境です。綿花の実績を問われることも多いですが、大昔は栽培していた記録もあります。簡単ではないですが、不可能ではありません。
次に紡績工場をつくります。大規模生産可能なものではなく、あくまでコンパクトに稼働できるサイズのものを考えています。
そして丸編み機を置きます。何十台も置いて生産体制を整えるというよりは、自社で賄いたい分を作れる数台です。
最後に染色設備です。これも100kgサイズのような中量産規模ではなく、10kg-20kg程度の小規模生産の設備で十分です。

これで一気通貫の設備は整います。

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お金が目的のように見えてしまうような画像を作った自分を恥じますが、お金ももちろん目的です。
これやると今までお願いしてた協力工場さんたちから批判が来るのでは?と心配してくださる優しい方々、ありがとうございます。その辺は今受けているお客様の総量から考えると、確実にこの設備ではとても間に合いません。

じゃなんでやるのか?
みなさん、服ってスイッチ一つでできると思ってる人も少なくないって話、最近見かけませんでしたかね?
特に縫製現場は目に見えてわかりやすいというのもあり、工程を見ればそれが不可能だということで物議を醸し出しやすいネタでもあります。ただ、服って縫う前に、布作らないといけないんですよ、知ってると思いますが。

布も、布作ってた人間なので言わせてもらうと、スイッチ一つではできませんし、布作るには糸もいるし、糸作るには遡ればこの文書を読んでくださっている皆さんならもうお分かりと思いますが、農業から始まります。

この一連の様子を一か所でみてもらって知ってもらいたい。服育と言うには大げさかもしれませんが、全てはつながっていることを実感してもらう施設を作るのが最大の目的です。

そんな設備で何をやるのか?
お客様から様々な要望を頂戴してきめ細やかなモノづくりをコンパクトにやる設備としてもご活用いただける場合もあると思いますし、自分たちの考えるこの設備らしい洋服のブランドを作って内外に向けて発信していくのも良いと思います。
なんせそういった色々な可能性の基地になります。

こんな構想です。

モノづくりのノウハウないお前そんなこと出来んの?って心配してくださる方もいらっしゃると思います。ありがとうございます。そんな僕を助けてくれるつもりで一緒にやりませんか?

先駆けてまず今年、縫製工場をつくります。今鋭意工務店さんと打ち合わせ中です。

佐渡に移住してこの長期的な計画のお手伝いをしてくださる方を募集しております。
今年夏-秋ごろから佐渡に行って縫製作業を中心に仲間になってくださる方、ぜひ一度お話させてもらえませんでしょうか。

居住条件などもありますので、具体的な話は詳細詰まってからしていきたいですが、寮のようなものもあってもいいかななんて考えてますので、ある程度共同生活もできる方が地域性にも合っていると思います。

あえて不便をして物を生み出す環境を作るという、頭脳プレイの生産性時代を逆行するような計画です。
だからこそ、目的をしっかり共有させてもらって臨まないと、ただ縫製だけを請け負うとか、農業だけやりたいとかの部分最適では難しい仕事になります。かといってデジタルスキルがゼロでも困る時代なので、適宜そういったオンラインインフラにも免疫がある必要があります。逆に言えば全体的に俯瞰できるようになるかもしれません。僕はこの点がこれからの時代にとても重要な要素があるような気がしています。(何者

最終的に全てのノウハウを会得してもらったら、そのまま他府県、または海外拠点でフランチャイズ化しても面白いかもしれません。繊維産業のサプライチェーンの一端が自分たちの作り上げた仕組みで回り出すとかワクワクしませんか!そのためには経営視点も必要になりますね。そういったことも苦楽を共にして伝えていけたらと思っています。

ご興味いただけたら幸いです。応募したいって希有な方、愛してます。こちらのフォームからご応募ください。→2021/9/3本年度の募集は終了しました。たくさんのご応募ありがとうございました。



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