えらぶ/つづく (02/24)

・木曜日の日記を書きます! 金曜日に木曜日の日記を書いているの、すごくえらくない……?

・寝坊したあげく、特に喫緊のタスクがなかったので昼から悠長にシャニマスをやっていたら、そこそこ大切なミーティングをすっぽかしていた。申し訳ないという気持ちになりながら遅れて参加する。

・というわけで、咲耶さんのG.R.A.D.シナリオを読んだわけなのだけれど……。(ネタバレあり)

・なんだよこれ、すごく良かった。こんなのずるいよ。

・正直に言うと、私は咲耶のことが少し苦手だった。いわゆる「王子様キャラ」である彼女は(自身が意識しているかどうかは別にして)、こちらが恥ずかしくなるほどキザな言葉を放つ。そんな咲耶の姿には、私にはどうしても作為的なものを感じてしまっていたというか、心の奥底が計り知れないという印象を抱いて敬遠していた。

・咲耶と円香をホーム画面に設定すると、口説いているかのような台詞を投げかけられて拒絶と不審の念を抱く円香の声を聞くことができるが、私もまさにそうだったわけだ。

・W.I.N.G.編やpSSR【紺碧のボーダーライン】で仄めかされ、pSSR【幸福のリズム】でその背景が詳細に語られたように、父子家庭で育ち独りでいることの多かった咲耶には、極端に孤独を怖がり人との繋がりに飢えているという秘密があった。そんな彼女の気質が発端になって、アンティーカのファン感謝祭編では咲耶とユニットメンバーの間でのディスコミュニケーションが発生し、彼女がどれだけアンティーカの仲間を大切に思っているかが明らかにされたわけである。こういったコミュを読むうちに咲耶のことを少しずつ理解しかけてきたものの、それでもなお苦手意識は私の中に残り続けた。

・けれど、G.R.A.D.シナリオを読んでその印象が完全に拭い去られた。彼女がなぜアイドルの道を歩むと決めたのかがはっきりと語られ、その決断によって損なわれるものを理解しつつ、それでも自分の選択は正しいと信じているのだ、と断言する姿が描かれるこのコミュはとても重要で、かつ心に迫るものだったと思う。

・思い返せば、もともとモデルという職業についていた咲耶のことを、プロデューサーは半ば引き抜くようにしてスカウトしたのだった。モデルからアイドルへの転向は、彼女にとって人生の転換点となる大きな決断だったろうし、それに応じたのにもそれなりの理由があったはずだ。

・彼女がモデルであることを辞めてアイドルになったのはなぜなのか。物語の中盤で咲耶は次のように語っている。

・プロデューサーがモデル時代の咲耶が載った雑誌を見つけるシーン。そこには「王子様キャラ・咲耶様」として特集される白瀬咲耶の姿があった。

「そうだね、モデルだった頃の私は、こういったイメージを求められることが多かった」「……ほとんど、だったかな」
「——けれど……やはり…… 私は…………」

「私はもっと気安く接してほしい みんなと一緒に、普通に笑っている方が、楽しいんだ」

咲耶G.R.A.D.より「過去/ 現在⇒未来」

・咲耶は続けて言う。アイドルになれば、近寄りがたい「咲耶様」から親しみやすい「白瀬咲耶」に変わることができるのではないかと思ったこと、そして、その願いが現実になったこと。何より、今の彼女にはアンティーカという大切な仲間がいる居場所がある。

・ただ、物事には良い面があれば必ず悪い面があるものだ。事務所に届いた一通のファンレターによって、咲耶はそのことに直面することになる。

・送り主は、かつてのモデル時代に熱心に手紙を送ってきていた子だった。モデルを引退しアイドルを始めた咲耶が、今までと別人のようになってしまったことに戸惑いを覚えている、とそこには綴られていた。

咲耶G.R.A.D.より「ラブレター・フロム」

・その手紙は彼女の心に重くのしかかる。孤独なモデルの仕事、ひとつのイメージだけをただ求められる仕事を辞めて、他人との関わりに満ちて様々な自分を見せることのできるアイドルの道に進んだことは、彼女の本望だったし、前向きな選択だったはずだ。それなのに。

咲耶G.R.A.D.より「過去/ 現在⇒未来」

「切ったのは私なんだ」「彼女と、私を繋いでいた モデルとしての『白瀬咲耶』——」
「それを切り捨てたのは、ほかならぬ私自身さ」

咲耶G.R.A.D.より「過去は、今にならない?」

・咲耶がアイドルを続けることによって傷つく人間はどうしたって存在する。彼女がこのままでいる限り、モデル時代のファンだったあの子が完全に納得することは難しいだろう。一方で、咲耶がアイドルを辞めてモデルだった過去に後戻りすることはできない。それは自分を殺すことにほかならないいから。

・だから咲耶は、アイドルを続けることを選択する。

「私はもう、あの頃の私には戻れない」「私はアイドルを、アンティーカを、アナタを、知ってしまったから」

咲耶G.R.A.D.より「かつての私が望んだ先を歩く」

・素晴らしいと思ったのは、この問題に100パーセントの正解がないことも、アイドルの道を続けることが必ずしも全員にとって幸福なことではないことも、咲耶は自覚しているということだ。

「…………これは綺麗事だよ」

「だからこれは、誰のためでもなくて——……」
「私の、自己満足にすぎないんだ」

咲耶G.R.A.D.より「かつての私が望んだ先を歩く」

・もう後戻りはしないんだという自身の決断を、綺麗事で自己満足であるとまで彼女は言い切る。いくら他者との関わりを追い求めてアイドルになったからといって、それは〈みんなのため〉にはならない。だから、それはもう〈自分のため〉の選択でしかないのだ、と。

・けれど、その決断には責任がある。咲耶はこの先、自分の行く先を決めたのは自分なのだという矜恃を抱き、自分がアイドルを選んだことの意味を自覚しながら生きていくのだ。そこには、今までにはなかった覚悟と誇りがある。

「……道はひとつではないんだ 色んな道を進むのも、また楽しいよ」
「どんな道を選んでも…… きっと最後は望む場所に、たどりつける」

咲耶G.R.A.D.より「ラブレター・ディア」

・咲耶が〈最良の選択〉と言ったのは、たぶんそういう意味だ。


* * * * *


・咲耶G.R.A.D.についての雑多な感想をもう少し。

・モデル時代の咲耶にファンレターを送っていた子から再び手紙が届くことなくコミュが終わるのは、シャニマスだなあ……、という気持ちになった。ご都合主義で終わるのではなく、ちゃんと苦い部分を残すところが、好きだ。

・G.R.A.D.決勝後コミュでプロデューサーが咲耶にかける言葉が、モデル時代と同じ「かっこよかった」なのも、エンディングでバラエティとモデルの仕事のどちらを受けるかを問われて「どちらも」と答えるのも、「すべてに応える私でいたい」咲耶を体現しているし、過去・現在・未来を断絶させないという彼女の信念にそっていて、憎い脚本だなと思った。こんなのうるうるきちゃうじゃない。

・人前で「キャラ」を演じていた人が「素」を出したことでもとからのファンが戸惑う構図、愛依も人ごとではないな……と読んでいて感じた。事情があって無口のミステリアスキャラを演じていた彼女が、そうでない自分を出してもいいかもしれない、という段になって悩むやりとりはストレイライトのイベントコミュ第3作『The Straylight』のメインだけれど、そこで冬優子が言う「だって、どっちもあんたなんだから」というセリフは、過去をなかったことにしたくないと決意した咲耶の意志に通じるものがあるよね。

・シーズン3のコミュ「過去/ 現在⇒未来」の後半で流れるBGMが凛世G.R.A.D.で流れるものと同じなのも良かった。悲痛なんだけれど美しいメロディーがとても好き。

・霧子、恋鐘、摩美々、それから今回の咲耶ときて、アンティーカのG.R.A.D.シナリオに共通するテーマは〈わたしは何者なのか/何者になりたいのか〉なのだろうな、と感じている。自分はどうしてアイドルをやっているのか、これからどうなりたいのか。提起される問いは同じでも、それに対する解答はまったく違う切り口になるのが本当に素晴らしいと思う。いやこれはアンティーカに限らずG.R.A.D.シナリオ全般に言えることだけれど。

・とりあえず言えることは:アイドルが自らのアイデンティティを自覚するコミュが重要じゃないわけないだろ! みんなG.R.A.D.を読もう……!

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