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はこびつづけるものたち (02/11)

・久しぶりの祝日! 今日は建国記念日で、仕事もなく授業もなく課題もない。というわけで昼過ぎまで寝ていようと布団の中にちぢこまっていたら親に起こされた。なんでも市内に新しくできたおしゃれスーパーに行きたいらしい。

・別に二人で行けばいいと思うのだけれど、あれよあれよという間に朝ごはんを詰め込まれ着替えさせられ(さすがに服は自分で着た)車に乗せられた。

・新しいスーパーは、うん、普通に豪華で新築の建物のにおいがした。ごめんなさい、小学生以下の感想しか書けません。

・買い物が終わった後は親と別れて、そのまま流れるように行きつけのゲーセンにたどり着いた。木曜日に追加された新曲をやるためだ。

・今回の追加曲はmaimaiのオリジナル曲なので、マップを進めないと曲を手に入れることができない。しかもmaimaiオリ曲のマップはありえないほど長いことが多いので、15曲ぐらいやってようやく最初の曲にたどり着くのが精一杯だった。

・行く前に譜面を確認しておいたとはいえ、「Trick tear」のMASTER譜面(Lv. 14)でS+をとれたのはとても嬉しかった。難易度14の曲でS+をとれたのはこれが初めて。同じ日に「蒼穹舞楽(Lv. 14)」でもランクSをとることができたので、これでLv. 14の曲でS以上のスコアを出した曲が5譜面になった。

・maimaiを本格的に遊ぶようになってから1年と数週間、着実に成長してきているのが感じられて嬉しい。


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・家に帰って、スーパーで買っておいたいちご大福を食べたら美味しかった。包み紙を開けて現れるほんのり赤身がかった餅の生地に吸い寄せられるようにすぐぱくついてしまったので写真を撮り忘れた。

・こうしてカメラロールに食べ物の写真が追加されることはなく、maimaiのリザルト画面ばかりが並ぶことになる。毎日記事のサムネイルに困るのはそういう理由だ。


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・午後は今月追加されたイルミネーションスターズのイベントコミュ『はこぶものたち』を読んだ。(ネタバレあり)

『はこぶものたち』

・まず言っておくと、尋常じゃないぐらい良かった。こちらをハッとさせるようなストーリーを定期的に届けてくれることで有名なシャニマスだが、これはその中でも別格だ。難しいテーマを扱う意欲的なシナリオと、それを支える演出やセリフ回しの細やかさ。とにかく素晴らしかった。

・イルミネのイベントシナリオでありながら、主題そのものは普遍的で、シャニマス全般、ひいてはコンテンツを届ける側とそれを消費する私たちすべての根底にあるものだと思う。ぜひたくさんの人に読んでほしい。ここにシャニマスの魅力の多くがつまっている。

・物語は、3人それぞれが個人の仕事に注力するようすを描くところから始まる。

『はこぶものたち』よりオープニング「漕ぐ人」

・フードデリバリー大手のCMに出演することになった真乃と、オーガニックな素材にこだわる衣料品メーカーのモデルの仕事をするめぐる。

『はこぶものたち』より第2話「みんなは頑張っている」

・対する灯織には大きな仕事も来ずにレッスンを繰り返す日々が続く。そんな彼女を見かねたプロデューサーは、灯織にサッカー番組のミニコーナーの仕事をとってくる。

『はこぶものたち』より第3話「車輪」

・経験も知識もない分野に初めは戸惑い、そつのないコメントができないと悩む灯織だったが、勉強に勉強を重ねて次第に感覚をつかんでいく。

・ただ、このコミュの本題はそこにはない。

・端緒となるのは、イルミネーションスターズの3人がサッカーのリーグ戦のハーフタイムショーに出演したときだ。ゲームの合間にミニライブを行うイルミネを目当てに、試合会場にはサポーターの他に多くのアイドルファンが集まった。

『はこぶものたち』より第5話「みんなが」

・その試合後にSNSに寄せられたコメントをみて、3人は言葉を失う。

『はこぶものたち』より第5話「みんなが」

・思えば、不穏の種は序盤からすでにまかれていた。

・真乃がCM出演を依頼された「フードデリバリー」という業態は、ユーザーの注文をもとに食べ物を運ぶ配達員ありきのものだ。彼らは時には雨の日も配達をし、それでも300円くらいしか報酬がもらえなかったりする。

『はこぶものたち』より第3話「車輪」

・そんな中、デリバリーの会社が広告戦略として「送料無料キャンペーン」を打ち出す。それは、配達員にとっては労働環境の悪化を意味していた。

『はこぶものたち』より第3話「車輪」

・真乃のCMの音声が流れる中で、自転車の急ブレーキの音が響き、続いて何かにぶつかる音がする演出はかなり直截的だ。キャッチコピーを読み上げる真乃の姿はいつもの”一生懸命な真乃”そのもので、悪意なんてどこにもない。それなのに、その陰でこういうことが起こっている。

『はこぶものたち』より第3話「車輪」

・めぐるの受けた服飾ブランドの仕事だってそうだ。宣伝のため、彼女は縫製スタッフへのインタビューの様子をライブ配信する。

『はこぶものたち』より第4話「3つの夜」

・めぐるがスタッフの説明に感情豊かに反応して相手のリアクションをそつなく引き出す姿を見せ、サッカー番組で台本通りにぎこちなく喋る灯織との違いが際立つ印象的なこのシーン。

『はこぶものたち』より第4話「3つの夜」

・好意的なコメントが並ぶ中で、環境に配慮した衣服というコンセプトに偽善を見出す人間がいる。


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・そう、『はこぶものたち』でイルミネが真正面から向き合うことになったのは、この現実社会のどうしようもない複雑さなのだ。

・推しているアイドルのパフォーマンスを見るために、普段は足を踏み入れないサッカーの試合に向かう人がいる。サッカーに情熱を注ぎ、応援するチームの試合を見るために、通い慣れたスタジアムに足を運ぶ人がいる。どちらも、悪意から出た行動ではない。それなのに、そこには軋轢が生まれてしまう。有名アイドルを宣伝要因として起用することを快く思わないのは自然な感情だし、アイドルファンが会場に詰めかけることに憤慨するのも理解できる。また、他の界隈に属する人をSNSで中傷する発言を見て、同じ界隈にいながら「アイドルファンのみんながみんなこうじゃないからね……」ともどかしさを抱く人もいる。サッカーチームにだって、これまで必死に練習をしてきた各選手の思いがある。

・デリバリー業界の話だってそうだ。そこには、数々の経営努力の末に打ち立てた会社を支える人々があり、CMを依頼されて滑舌を整える練習をする一生懸命な真乃の姿があり、一方で、現場には配達員の生活があり、SNSのコミュニティがあり、送料無料キャンペーンによって収入が減ったり無理な労働をせざるを得ない状況に追い込まれる人がいる。

・配達員の界隈だって一枚岩ではない。

『はこぶものたち』より第2話「みんなは頑張っている」

・真乃へのオファーをきっかけに、配達員のSNSアカウントを定期的にチェックするようになった灯織が、投稿に心を痛めるシーン。灯織が気になっている「兄やん」は、配達に意欲的に取り組むようすを定期的に発信する配達員のアカウントだ。まっすぐ前向きに配達に勤しむ人がいて、それにいいねを飛ばす配達仲間がいて、一方ではマナーの悪い配達員もいて、そういった配達員への批判をSNSに投稿する人がいる。

『はこぶものたち』よりエンディング「運ぶ人」

・イベントのキービジュアルにもなっている一面に広がった無数の観客席は、社会に存在するありとあらゆる人間たちの象徴だ。私たちの生活するこの世界には数えきれないほど多くの人がいて、それぞれに違う意思をもっている。だからこそ、そうした人々が関わりあうとき、お互いの思惑がぶつかりあって軋轢を生むことがきっと起こる。たとえそれが善意から出た行動だったとしてもだ。

・それはイルミネーションスターズの3人にとって、いつかは直視せざるを得ない現実である。なぜなら、彼女たちは〈はこぶものたち〉だからだ。

・アイドルという職業は、ファンに夢と勇気を届ける仕事である。そのためには、否が応でも自分たちの姿を不特定多数の人々に広く発信しなければならない。そして、その受け取り手は、異なる価値観を持ち異なるコミュニティに属し異なる生活をしているばらばらの人間たちだ。イルミネの3人がよかれと思ってした行動が、誰かを不幸にするものになる可能性は十分にあるし、”みんなに輝きを届けたい”というアイドルの姿そのものだって、欺瞞だと糾弾する考え方もある。

・だから、〈はこぶ仕事〉(=〈届ける仕事〉)を選んだ彼女たちは、この社会と自分の関わりに対してもはやナイーブではいられない。サッカースタジアムのステージに立つとき、目の前にいる人(=自分が届けたいと想定している相手)だけではなくて、〈きみの座らないたくさんの席〉にまで思いをはせなくてはならない。だって、見えていないだけで、この世界にはさまざまな人がいるから。

「————ありのままでいいんだ、って思ってたの 自分のこと……」「わたしたちのこと、すっごく好きでいてくれてる人たちがいて……いつも、そういうステージに立たせてもらえてるでしょ?」

「でも、この前はもっともっとたくさんの人がいたの、あそこに」

『はこぶものたち』より第6話「きみの座らないたくさんの席」

・めぐるが真乃と灯織に対して放った言葉が、強烈に印象に残っている。

「ショーに出て歌ったら応援になるんだって だからすごくいいことをするんだって思ったんだ」

『はこぶものたち』より第6話「きみの座らないたくさんの席」

・そう、〈善いこと〉というのは見た目より何倍も複雑なことなのだ。いくらこちら側が正しいと思うことをしても、相手が喜ぶであろう行動をとっても、必ずそれをよく思わなかったり傷ついたりする人がいる。そこには絶対的な正解というものが存在しない。

・では、イルミネの3人はそのこととどう折り合いをつけていくのか。

・真乃は、きちんと届けることは、さまざまな人のことを「知る」ことが大切だと口にする。

「……応援するのって、こうやって————」

『はこぶものたち』よりエンディング「運ぶ人」

・灯織は次のように話す。

「走ってほしい ……もし、自分のために走ってるんだとしても」「頑張って漕げば漕ぐだけ、誰かの笑顔に近づいて……だからまた、自分のために走ろうっていうふうに思えたら……」

『はこぶものたち』よりエンディング「運ぶ人」

・解釈が難しいが、これは「アイドルとして活動することの欺瞞性や生じる軋轢を認識しつつも、それでも私たちは〈届けること〉をやめない」という決意なのだと私は思う。

・この仕事を続けていく以上、自分たちの行動が全員に100%受け入れられることはないし、よかれと思ったことが予想外の受け取られ方をすることは必至だ。だからといって、アイドルでいることをやめるのは違う。それが彼女の意図のように思えてならない。アイドルという産業の抱える功罪に自覚的でありつつ、自分たちのパフォーマンスを喜んでくれる誰かのために、なお〈届ける〉という営みを続けていきたい。そういった願いを口にした彼女たちは、今までのイルミネとは違い、観客席に座る姿の見えない無数の人々の姿が視界に入っているのだ。

・矛盾をはらみつつも力強く下したその決断を、真乃とめぐるがしっかりと肯定したのが素晴らしかった。

『はこぶものたち』よりエンディング「運ぶ人」


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