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トライアングル (02/01)

・長かったレポート強化週間も終わり、もうやり残したことはなくなった。授業のレポートはすべて提出したから、何かの間違いで単位を落とすことがなければこれで卒業である。

・これで大学4年分の単位をすべてとりきったことになるのだけれど、不思議なことにまったく実感がわいてこない。学部3年のころに某感染症が流行し出したりだとか、途中で学部の配属が変わったことによる環境の変化があったりとかで、学部1年のころの生活と現在の生活との間に驚くほど連続性がないのだ。

・大学に入学してから4年も経つと、当時の記憶もだいぶ薄れてくる。必修の授業にクラス全員で参加していたあの雰囲気は、今となっては遠い過去の出来事である。結局、今やらなければならないことをなし崩し的にこなしていいたらなんとなく卒業できてしまうらしい。

・自分へのご褒美でゲーセンに行ったらLv.13+の曲で初めてSSS+をとれて嬉しかった。


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・今月ちょうどイルミネの新作「はこぶものたち」が実装されたこともあり、午後はイルミネーションスターズのイベントコミュ「くもりガラスの銀曜日」を読んだ。

・イルミネのイベントコミュって、なにか劇的な事件が起こったりするわけでもないのに、どうしてこんなに心を掴まれるんだろう。最後の章を再生したあとにほっと一息をつきたくなるような絶妙な読後感。好き。(ネタバレあり)

「くもりガラスの銀曜日」

・「くもりガラスの銀曜日」は、イルミネーションスターズの3人の関係性に対してあるひとつの方向を定めるような話だ。真乃・灯織・めぐるの3人からなるこのユニットは、性格も見た目もばらばらなのに、それぞれがお互いを親友のように想いやっている。プロデューサーの言葉を借りれば、「心が通じ合っていて」、「お互いで知らないことなんて、もう無い」ように見える。

「くもりガラスの銀曜日」より第6話「くもりガラスの銀曜日」

・でも、心が通じ合っているというのは、お互いのことを何でも知っているということじゃない。イルミネの3人は、もっと別のところに価値を見出している。8話分をぜいたくに使って、このコミュは私たちにそのことを伝えてくる。

・印象的なのは、過去の回想を多用されていることだ。結成してまもない3人が、ぎこちないながらも徐々に仲良くなろうとしていく過程のやりとりが、何回も挿入される。まだ、灯織がふたりのことを「櫻木さん」「八宮さん」と読んでいたころの話だったり、勇気を出して名前呼びに変えた直後で慣れない様子のころの話だったり。

「くもりガラスの銀曜日」より第1話「食パンとベーコン」

・上のやりとりはそんな時代の一幕だ。早朝にランニングの練習をするために集まった灯織と真乃が、不器用ながら他愛もない会話をするシーン。

・第1作「Light up the illumination」のセリフを引用して、真乃が好きなものを好きって言える人だと知ったことがとても意外だった、と話す灯織。

「だから、これから色々教えてほしい」

「くもりガラスの銀曜日」より第1話「食パンとベーコン」

・3人のことを全然知らないから、これからもっと知っていきたい。灯織はそう口にする。

・それでは、結成から長い時間が経った今のイルミネはどうなのだろうか。

「くもりガラスの銀曜日」より第1話「食パンとベーコン」

・確かに今のイルミネは、以前とは比べ物にならないほど互いのことを知っている。真乃がどんなものを好み、めぐるがどんな性格で、灯織がどんなときに真価を発揮するのか。めぐるの家で和食が出てきたときはお父さんが料理担当だということまで、知っている。

「くもりガラスの銀曜日」より第1話「食パンとベーコン」

・プロデューサーが3人のことを描写するときにも、「知らないことなんて無い」という表現を使う。

・けれど、本当にそうだろうか。

・コミュのタイトルになっている「くもりガラス」は、3人が偶然見つけた甘味処「ドーダン」の窓にはめられているガラスだ。年配の店主がひとりで切り盛りしているそのお店は静かで、少し入りづらい雰囲気があって、けれど落ち着いていて、そこで食べるあんみつは美味しくて、窓の向こうにはとても綺麗な花が咲いているらしい。ただ、窓がくもりガラスで、外の様子はよく分からない。

「くもりガラスの銀曜日」より第3話「ひんやりと星の匙」
「くもりガラスの銀曜日」より第6話「くもりガラスの銀曜日」
「くもりガラスの銀曜日」より第5話「思考を煮詰めたような味」

・綺麗な色であふれているのに、その奥を透かし見ることのできない「くもりガラス」は、3人の内面と外の世界を隔てる膜の象徴だ。向こうにはとても美しい景色が広がっていることが分かっているのに、そこにはなかなか届くことができない。人の心の奥底をのぞき見ることは、いくら年月が経過して気心が知れていても難しいことだからだ。それでも。

「この気持ち、全部、伝えられたらいいのにな」

「くもりガラスの銀曜日」より第6話「くもりガラスの銀曜日」

・「ドーダン」の店主に窓の外の景色を見せましょうかと話しかけられた灯織の反応が象徴的だ。

「ありがとうございます そのお気持ちだけで」
「くもりガラスの向こうを見たいって」——

「くもりガラスの銀曜日」より第6話「くもりガラスの銀曜日」

・イルミネの3人の仲がいいのは、決してお互いのことを何でも知っているからではない。くもりガラスの向こうに何があるかを知ることができないように、人の内面を深く理解することはとても困難だ。それでも、いや、だからこそ、相手のことを知りたいと思うその営み自体に価値がある。

「くもりガラスの銀曜日」より第6話「くもりガラスの銀曜日」

・そして、本来は分かり合えないからこそ、気持ちが偶然そろった瞬間——「銀曜日」は、たまらなく尊い。


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・これを読んだあとに、コミュの内容がイルミネの曲「トライアングル」のサビの歌詞とリンクしてるのに気がついた。ちくしょう、やるじゃないか。

キミの好きなこと したいこと
まるごと知りたいよ 教えてね

「くもりガラスの銀曜日」よりエンディング「星空を、ひとつまみ」


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・おまけ:本筋と逸れるから書けなかった「くもりガラスの銀曜日」の好きなシーン。初めて「ドーダン」に足を踏み入れたときの真乃・灯織・めぐるの反応が三者三様のリアルさで、思わず膝を打ってしまった。あ、お店選びに失敗しちゃったかな……と萎縮する灯織とか、そんなことないよと励ます真乃とか、テンションが上がっているめぐるの声が響くのをあわてて諫める灯織とか……。天才だよね。


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