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神宮球場が静まった瞬間

 10月3日神宮球場のヤクルト対DeNA戦は今季レギュラーシーズン最終戦だった。

 DeNAファンつながりの元部下がお子さまと観戦を予定していたところ当日保育園で発熱する騒ぎになってしまい、チケットが回ってきた。そこで急きょカミさんと待ち合わせて観戦することになったのである。

 消化試合ながら球場は超満員。ほとんどがヤクルトファンだ。当然、お目当ては村上宗隆選手の日本選手シーズン最多56号ホームランである。DeNAファンの私も、気持ちは同じだ。

 三冠王にも手が届きそうな村上だが、55号以降は目を覆うばかりのスランプに陥って打率が急降下。ついに2日の阪神戦は欠場して打率を温存していた。

 しかし、中日の大島が最終戦を終えて打率が下回ることが確定したので、この日の村上は3-0でも三冠王、しかし4-0にしてはダメ、という計算になった。「よし、最低でも3打席は出てくるぞ」ということだ。

 仕事が長引き、会社を出るのが遅くなった。

 「せっかくチケットが回ってきたのに56号を見逃しては洒落にならんな」とやきもきしながら電車内でもスマホをチェックしていたら、第1打席はセカンドゴロ凡退。

 3回の第2打席にも間に合わなかった。しかし村上はヒット。これで4-0がなくなった=試合終了まで出場することが確定したのである。

 5回の第3打席の際にはスタンドに到着していたものの凡退。いよいよあとがない。

 7回の村上は先頭打者だった。試合はヤクルトが大量リードしていたので9回ウラの攻撃は見込めず、これが最終打席になることがほぼ確実。観客の全員が同じように思っていたはずだ。

 コロナ対策として声を出しての応援が禁止されている球場。このため、たとえ村上の打席でも大声で盛り上がることはなく、いつも普通にざわざわしている。

 ところがこの第4打席は違った。

 村上がバッターボックスで構えた瞬間、球場全体がまさに水を打ったようにシーンと静まったのである。「ああ、これぞ“固唾を飲んで”っていうやつなんだな」と考えた瞬間、初球をかっ飛ばしたのである。

 打った瞬間に「出た!」とわかるような一打だった。あとから喉が痛かったので何か大声を叫んだようだが、あまり覚えていない。シーズン最終打席に飛び出した56号。こんな劇的なものをたまたま転がりこんだチケットでナマで目撃できたという信じられない幸運だった。

 最終戦とあって、試合後には今季で引退する内川・嶋らのセレモニーも開催された。隣に座っていたヤクルトファンらしきおばちゃんは涙、また涙である。

 この日の席は1塁側最前列だったので、56号を3塁側から捉えた瞬間映像には夫婦揃って映りこんでいた。スローでは2人ともちゃんと打球に合わせて視線をライト方向に巡らせている。目撃の証拠映像が残ったこともいい記念だ。

 カミさんが以前購入していた村上応援タオルも掲げていた。チケットを回してくれたDeNAファンの元部下は座席の位置がわかっていたのでテレビ中継画面で私たちを発見したらしい。「何で村上タオル持ってるんですか?」とオカンムリだった(笑)。
(22/10/22)

 

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