見出し画像

旧日本軍の沈没船から聞こえてきた「おーい!」の呼び声〜トラック諸島

※画像と記事は無関係です

確か戦後50年に合わせた企画でしたが、同僚カメラマンがミクロネシア・トラック諸島に沈んだ旧日本軍の船の残骸に潜るという取材での出来事です。この船は旧日本軍に徴用され、かの地で沈んだ商船でした。

カメラマンが照明などを担当する助手と一緒に潜ったところ、水中で「おーい!」と呼ぶ声がする。陸に上がって「お前、いま、水中で俺のことを呼んだか?」「いいえ、呼びませんよ」。次に潜ったら、また「おーい!」。カメラマンが自分の耳を指さして「聞こえた」と示すと、助手も耳を指して「ぼくも、ぼくも」とのジェスチャー。陸に上がって「一体アレは何だ?」と話していると、現地人のガイドさんが「実は、日本人にだけ聞こえるらしい」と打ち明けた。

二人はすっかり気味が悪くなったが、仕事で来ているのだからやめる訳にもいかない。次の日もおっかなびっくり潜ったところ、今度は「助けてくれー」などとかなりはっきりと聞こえる。さらに船に近づくと、食堂のような大広間からなにやら大合唱が。部屋に入っていくと、はっきり歌詞まではわからないもののあきらかに軍歌のようなものが耳をつんざくばかりの大音響で響く。もちろん撮影は続行していたが、ビデオには音声は一切記録されていなかった。

この話には「オチ」まであります。出張から戻ったカメラマンが本社に機材を返してタクシーで自宅に帰った際のこと(出張からの帰宅は、荷物が多いためタクシーで帰宅できる)。疲れ切っていたので行き先を告げるなりぐっすり眠ってしまった。しばらくして目を覚ますと、どうにも見覚えがないところにいる。「運転手さん、これ、違うんじゃない?」と聞くと「すみません。道を間違えました」。窓の外を見たら、停まっていたのは靖国神社前の信号だった。くだんの二人、「これは、連れて来ちゃったなぁ」と後日靖国神社で慰霊の祈祷をしたそうです。

この話は信頼できる(真面目な性格の)同僚二人が言うのだから、まさか作り話とは思えない。たしかに「コワイ話」には違いないが、それよりも私には「かわいそうだなぁ」という気持ちの方が強い。日本に家族を残し、異国の地で敵に撃沈されて、さぞ無念だったのでしょう。たまにやってきた同胞に声をかけているのに、ただ「コワイ、コワイ」ではあまりにかわいそう。同僚はいい供養をしたと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?