薔薇の花

風が強い日だった。
部屋には暖かい日が差し込んでいた。

彼女にはどうしても読まなければならない本があった。

本の内容よりも読み切るという事に意味があったのだ。

物語も終盤にさしかかる頃、ミルクティーが飲みたくなった。
茶葉を少量の水で火にかけて、煮出し、あとはミルクをいれて作る、ロイヤルミルクティーと呼ばれているやつだ。

今日、これで二杯目になる。
彼女は、ロイヤルミルクティーを作るのが好きだった。
牛乳を入れたあとに、茶葉浮かんでくる頃が火の止めどきだ。

解凍してあった、スコーンもあった。
一緒に食べよう。

ソースパンを火にかけている間も、読みかけの本を立ちながら読んだ。
ちょうど、窓からの日の光が、本のページに差し込んでいた。

いつもの席に座ると、いつものように、庭に咲く薔薇の花が見えた。

強風に揺られ、その細く長いくねくねとした体を大きく揺らし、頭を上下に、両手をジタバタと動かしていた。

どうして、こんなにも風が強いのだろう。

彼女は風が苦手だった。
強い風にふかれると、その場にいる事が間違っていると言われている様な気がして、逃げ出したくなる。
そして、強い風が建物を揺らす音は人々を不安にさせる。
                                                                     
いつもの事だが、ここに座ると、自然と薔薇を見つめてしまう。                                      

まるで、薔薇を見るために食事をするのだ、というように。                                      

そして、彼らから永遠に目が離せなくなるのではないかという感覚が浮かび上がり、彼女はいつも目をそらす。 

                                                                    

 その細く、頼りない身体からは想像もできないくらいの、なにかの強い意志のようなものを彼らは持っているように思えた。                                                            

そして、彼らは自ら選んでこの屈強な空間にいるようにも見える。                                                                    
たとえ、何もかもなくなっても、ここにいるんだというように。

そんな薔薇の花を眺めながら、スコーンを食べた。

手元に視線を移すと、緑色のまるい光が目にはいり、スコーンがよく見えなかった。
部屋に入ってくる日の光を見すぎたのかもしれない。

また、薔薇に視線をうつす。
その時、ふと自分はあるべき道を外れて歩き出してしまったかもしれないなと思った。

でも、彼女はそれ以上は何も考えられなかった。

部屋には暖かな日の光はいなくなってしまっていた。

風が、がたがたと何かを揺らす音と、何かを失った部屋が残った。

彼女は本を読みきらなければならない。

それからでも、遅くない。

彼女はそう思いたかった。

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