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沼がまた呼ぶ 2

説明しよう!
リカちゃんキャッスルとは、リトルファクトリー株式会社が運営する日本唯一のリカちゃん人形一貫生産オープンファクトリーである。工場とは言ってもキャッスルの名の通り、外観はお城そのものであり、リカちゃん人形は熟練の職人の手によってひとつひとつ丁寧に製作されている。確かな技術と細やかな愛情に育まれた少女たちは、人々に夢と笑顔を届けるためお城から各地へと旅立って行くのだ。

とか言いつつ行ったことはないし、そういう場所があるのもこの時初めて知ったのだったが、そのリカちゃんキャッスルが百貨店主催で行うインストアイベントが、丁度その時開催されていたのだ。

実を言うと、私は昔にも一度ドールにハマったことがある。
その時は川原由美子先生の『観用少女(プランツ・ドール)』がきっかけだった。ミルクと砂糖菓子と愛情で美しくなる少女たちの描写が夢のように素晴らしく、プランツ・ドール可愛い!欲しい! と切に願ったものだ。でも多分私は『選ばれる』ほうじゃないのだろうなと思っていたときに目に入ったのが、タカラ(現タカラトミー)から発売していた、スーパーアクションボディのジェニーだった。
幼少期に遊んでいたリカちゃんとは大分違う、大人っぽい表情やプロポーション、何より関節可動の自由さにぐっときた。お洋服も当時よりお洒落になっていて、しかもお値段もそれなりだったので、大人の趣味としての商品展開もあったのだと思う。
ひとつだけ買ってみようかな、お洋服も3着くらいあればいいかな、などと、取り敢えずで手を出してみたらさあ大変。たちまちのうちにドールが増え服が増え、鳩サブレーの一番大きい缶にも収納しきれない状態になるのにさほど時間はかからなかった。
働いているので金はある、忙しい時期ではないので暇もある、家族も私の趣味にある程度の理解は示してくれる。
大変なことになってきたなあと思いはしたが、好きで沈みゆく沼の楽しさったらなかった。
結局その沼から這い上がったのは、数年後に生まれた姪が、さらに成長してお人形遊びをする歳になった頃だった。その頃には、子どもに一度に与えていい量じゃないくらいのドールやらドレスやらがあったので、兄や義姉にお伺いを立てながら、小出しにプレゼントしていった。姪はとても喜んでくれて、私も沼から這い上がれてよかったと安堵した。
そういう訳で、当時のものは私の手元には残っていない。

一度沈んだ沼から這い上がり、その後近付かなくなったという経験は、そのことに対する冷静さを獲得するのと同時に、油断をも生じさせる。
沼は消えてなくなった訳ではない。どこか背後の見えないところにいつもあって、再び呼び寄せるチャンスを狙っていたのだ。

サスペンスフルな感じでまた次回。沼がいつも私を見ている(妄想)。


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