校正していただいたお話の原文

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「桜にさらわれるって、どういう印象?」
 脈絡ねえな。ぼんやり思い浮かべながらストローから口を離した。紙ストローまずい。
「えぇ……? 儚いとか現実感薄いとか、そういう人に使われるんじゃないの?」
 遊歩道の上を、桜色のフレアスカートが泳ぐ。数歩前を行っていた桜が振り返って、横に並んだ。白いジーンズとのボリューム差が目立つ。
 散歩しに行ってカロリーを買って帰るのは、よくあることだった。意味もなく歩いて、意味のあるふたりきり。
「じゃあ桜の木の下に死体があるっていうのは?」
「なに、桜ブーム?」
「うん。桜フラペチーノ飲む?」
「いやこのご時世に回し飲みしないだろ」
 向けられたストローに目もくれずそう返したから、「それもそう」とすぐにストローは向こうの口元に戻っていく。桜味ってあんまりピンとこないんだよなぁ。好きな人って桜の味わかってるのかな。
「で、何の話だっけ」
「死体の話」
「単なるホラー」
「や、違ったわ。えーっと、桜の木の下に死体が埋まってるってやつ」
「ベタだね」
 言葉を待たれているようだったので、もう少しだけ考えてみる。
 死体の血を吸い上げるから桜が美しく咲き誇る。つまり死体が埋まってない桜の花びらの色は白ってことになるけどそのあたりどうなってるんだろ。人を脅かしたいだけだから特にそのへん気にしてない可能性の方が高いけど。
「桜に神秘性見出してるんじゃないの」
 クダを巻く気はなくて、脳内をまとめた一言を発せば満足そうに頷かれた。それからぐいと両手を伸ばして、「結局言いたいのは桜も大変だよねーって話なんだけど」と言った。
「はあ」
「だって卒業式は散るのに入学式は咲くでしょ」
「そうだね」
「それに加えて儚いだのホラーだの神秘性だの、責任重大じゃん」
「しかも可食だし?」
 桜フラペチーノを指させば、「それもある」と神妙に頷かれた。桜にかかる責任なんて自分は考えたことないけど。季節とか天候とか、不可侵なものっていうのは世界中にある。
 だから話の方向性を変えようと、疑問に思っていたことを呟いた。
「桜餅も桜入ってるのかな」
「あー、最近の桜餅って入ってそう」
「最近の桜餅ってなに、古い桜餅があるの?」
「わかんない。新しい味の桜餅はありそうだけど」
「それ桜味じゃなくね?」
「桜餅はもともとあんこの味だろ」
「確かに」
 天才?

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