見出し画像

地獄があると知ってなお

 昨年の始めに買って冒頭だけ読みあまりに暗い気持ちになったので放っておいた本について、知人から「もし読んだら教えて」といわれたのが昨年の終わりで、年が明けて思い立ちなんとか読み切った。
鈴木大介著「最貧困女子」。

 ちょうど昨日今日、SNS 上で出会い系サイトがきっかけで男性に連れ去られる被害に遭った中学1年生の女子に対して「中1で男が欲しかったのか、お金が欲しかったのか分からないけど」などと発言して炎上していた件があったけど(註:この発言者はその後色々考え、考えを変えた部分もあるとブログに書いてた)、ぜひこの本も読んでいただきたいなと思う内容。

 これは家族、地域、社会保障制度の全てから切り離されたところで生きざるを得なくなった少女たちがいかに凄惨なセックスワーク(ほぼ売春)に取り込まれて行くかという実情を追ったルポだ。最近流行の「自己責任」などとは全く関係しないままそこに追い込まれて行く若年層の女性(10代も多い)の実情なんて私は知りもしなかったし、読んでてもこれは昭和のヤ○ザ小説か?という印象すら受けた。もう中世の基本的人権とか存在しない国の話だと思いたいレベル。
 彼女たちの貧困、苦しみや痛みは可視化されてこなかったこと、なぜ可視化されてこなかったのかについても説明されているが、もう読めば読む程「可視化されてこなかった地獄」の一端を除いている気分にしかならなかった。そして、地獄から抜け出す方法ってそんな簡単に提示出来るものじゃないのだ。少なくとも私にはどうすればいいのか検討もつかず、途方にくれる話ばかりだった。

 去年やっていたドラマ「コウノトリ」の中で、貧困の中出産した若い女性に対し若い小児科医師が「お金がない」という意味で貧困という言葉を使い、先輩の医師が、貧困はお金だけがないわけじゃなく、知識や人や本来受けられるべき支援やそういうもの含めて持っていないことだというようなことを説いた場面を覚えているのだが、正にそれを突き詰めたところにたどり着いてしまった少女たちの話だったのだ。しかもフィクションじゃなく。

 今も帰る場所などなく今日寝る場所もなくて路上に座ってる「最貧困女子」はいるんだろうと思う。でもきっと私は彼女らを見つけることは出来ない気がするし、そもそもどこにいけばいいのかもわからない。私が「本能的に」立ち入りたくないと思う場所である可能性は高い。そして、仮に見つけたとして助ける方法がわからない。自分の財布に入ってるお金全部渡したところで問題解決には向かわないということが読んでいるとわかる。
 著者は本の最後で「もう限界だ」とルポライターとしての心情を吐露している。読む方だってそうだ。この国って基本的人権が保証されてないんだっけ?と呟いたよ実際。

 今まで見えてなかった地獄があると知って、でもこんなのはあまりに酷いと思っても、じゃあ今何をすれば少しでも解決に向かうのか正直よくわからない。そのわからなさがつらい。そんなつらさは地獄の前には笑い飛ばす手間すら惜しいようなものだけどやっぱりつらい。
 少子化がこれだけ問題になっている時に、まだ子供といってもいいような少女の性(と命)がずたぼろに消費されてるのはダメじゃないの?そこから救っていかなきゃ意味ないんじゃないの?などと強引すぎるこじつけの怒りすらわいてくる。なんだかなあ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?