函館に飛ばされたヒッチレーサーの話
27日
北の大地が見えた。函館の街である。
北海道に向かうフェリーの上。しっかり頭を抱えた。どうやって帰ろうか、まずはフェリー券のお金を工面して…、と様々な思いが胸に去来する。
とはいえ初めての函館の街である、どうしたってテンションは上がる一方だ。広い!デカい!道路はだだっ広い!北海道最高!ドライバーのお二人にラッピ(ラッキーピエロ)に連れて行ってもらい、ハンバーガーとポテトフライと烏龍茶をご馳走になる。美味しくて嬉しくてラッピ名物幸運の鐘を鳴らしたところ……宇宙から舞い降りた幸せの波動によって道南いさりび鉄道木古内駅に飛ばされてしまった!
嘘です。五稜郭駅でドライバーから「木古内までの切符なら買ってあげるけど、どうする?」と言われ勿論買って頂いた。当たり前の話だが函館スタートよりもハードモード確定である。ドライバーに、「ヤバくなったら開けろ」と言われて“非常事態用“の紙袋と警備員の誘導灯を渡されドライバーと別れる。電車を待つがこれが暇!私は重度の活字中毒なのだが本も無いし、バッテリーのことも考えるとスマホも触れない。駅に置いてあるパンフレットを片っ端から読破して暇を潰した。
終電に乗って木古内駅に到着。早速電車に同乗していたJKに声を掛ける。「あの、今無一文なんですけど泊まるとこ探してて…」明らか不審者である。お父様が駅まで迎えに来ているということで、お父様とお話させて頂くことに。車の中のお父様の表情が固まる。そりゃそうだ。普段は誰も居ないような木古内駅の終電で娘が知らん男性と一緒に降りてきたんだから。
掻い摘んで自分が京大生であること、吉田寮祭の企画で無一文で北海道に飛ばされていることを説明すると、「泊まるとこも木古内駅周辺無いし家に来る?」というありがたいお言葉を頂く。家にあげてもらって、「何も食べてないでしょう」と、炊き込みご飯と餃子を頂いて、シャワーまで浴びさせて貰えることに。寝床も車に布団を敷いて用意して貰えた。
この時点で私のヒッチレース、だいぶイージーモードである。ちなみに27日0時に吉田寮を発って木古内駅に着いたのが23時くらいなので、スタートするまでにほぼ丸一日かかっている。他のヒッチレーサーたちに比べてスタートがかなり遅い。他のヒッチレーサーは大体27日の昼前までに解放されている。
泊めて頂いたご家族とお話するのが楽しかった。京大の生活の話、吉田寮祭の話、北海道での生活の話、地域おこしの話、農業漁業の話、方言の話、受験の話。お父様が役所に務める公務員ということで、北海道の地域おこしについて色々聞かせて貰えた。
28日
翌朝は7時過ぎに起きて、パンとブラックコーヒーの優雅な食事。
日曜日にも関わらず、たまたま法事で函館まで出る用事があるとのことで、函館港まで送って頂けることに。
お水とカップラーメン、パンにポテチ、コーラにカフェラテ、お饅頭にタオルと歯ブラシとマスク、傘を持たせてくれた上になんとフェリー代として3000円のカンパまで頂いた。
ここで頂いた傘が今回の旅を通して大活躍した。何せ旅の途中で梅雨入りするし、後半3日間はずっと雨だったからである。
さて、そんな訳で北海道を脱出。
過去、離島に飛ばされたヒッチレーサーの話を聞いてると「北大恵迪寮に転がりこんでギャンブルでお金を増やして資金問題を解決」だの「一週間住み込みでバイトしてフェリー代を貯める」だの何かしらの努力をしてるが私は何もしていない。木古内でJKに声掛けたときに、通報されるリスクがあったくらいのものである。
24時間ぶりに踏んだ本州の地は何も変わっていなかった。
さて、ここから本格的にヒッチレース開始!
フェリー乗り場で段ボールとマジックを貰って、ボードを作る。とりあえず目的地は仙台でいっか。国道4号線沿いに立って待つこと1時間。乗っけてくれるという女性が現れた。曰く「主人がゴルフに飲み会に…で、暇だし雨降ってて可哀想なので乗っけようと思った」とのこと。ちなみに「段ボールに何書いてるかは読めなかった」とのこと。ただこれ実はどうでもよくて、別にドライバーに“文字を読んで欲しくて“ボードを掲げてる訳ではない。ボードを掲げてたらヒッチハイクしてんだなってわかるでしょ。これからヒッチハイクする人いたら、ボードは別に拘らなくていいというアドバイスをしておく。
わざわざ買って頂いたサムライマックとポテト、マックシェイクをご馳走になりながら車内で談笑。彼女は青森市内の居酒屋で働いているという。次青森に来た時は必ず行くという約束を取り付けた。
そして、なんと高速(東北自動車道)に乗ってくれた!!これはアツい。結局津軽PA(弘前市の近く)で降ろして貰うことに。しかもその際、次に乗せて貰える人を一緒に探して貰った…感涙…。3回くらい断られた後に、東京まで高速で帰るというご夫妻の車に乗せて貰えることに。最後の最後、極めつけに、青森市内から乗せてくれた女性が「せっかく青森来たんだからお土産持ってかなきゃ!」とPAのコンビニでアップルパイと焼肉のタレを買って下さった。意味がわからない。なんでそんな見ず知らずの人間に優しくできるんですか?泣くよ?
彼女と別れて、次はご夫妻の車に同乗。
Web系デザイナーのご主人と、スタバ店員の奥さん。東京に住んでいるが、帰省のため青森まで車で来たとのこと。ちょっとよく分からない、車!?
東京→青森の車移動平気でやるの寮生だけだと思ってた。「私はあまり活動的じゃないから、君みたいな旅してるの凄いなぁと思うよ」とご主人。いやいや、東京→青森車移動してる時点でかなり凄いと思います。
カーナビの表示が最初は「目的地まで600km」だったのが流石は高速、速いのなんの。あっという間に盛岡をすっ飛ばし気仙沼の文字が見え気づいたら福島県を通過していた。
最後、ご夫妻は東京で高速を降りてしまうということで、羽生PA(埼玉県)で降ろしてもらうことに。
29日
28日の18時に津軽PAを出て以降ほぼノンストップのご主人の運転により、29日の0時30分過ぎには埼玉県の羽生PAに到着。
最後、実家のお母様手作りというホタテの炊き込みご飯と、いかせんべいとカンパ3000円を頂いてお別れ。
小雨が降る中、とりあえずそのへんのベンチに横になって寝た。寒さで目が覚めたのが4時過ぎ。3時間も寝れたら十分。
PAに入ってくる車にひたすら声をかけ続ける。ところがどうも打率がよろしくない。平日の朝ということで仕事に向かうサラリーマンの車ばかり。「これから仕事で…」と断られること2時間。なんというか日本の息苦しさってこんなとこにある気がする。何においても仕事優先。最近はトラックの運ちゃんも会社の規約を遵守してヒッチハイカーを乗せてくれない人が多い。サラリーマンなんてもっとだ。申し訳なさそうな顔をするのだけが得意な彼らにとっては“仕事優先“の免罪符があれば鬼に金棒。日本社会(のピラミッドの真ん中より下)って余裕が無いんだよな。だから弱者に優しくできない個人が増えてるんだと思う。やっとOKを出してくれた車の主曰く、「羽生PAよりも次の蓮田PAの方が大きいからそっちの方が捕まりやすいと思うよ」とのこと。別荘帰りという30代くらいの男女3人の車に乗せてもらう。都内で高速を降りるということで、蓮田PAまで。
この蓮田PAが私のヒッチレースが免費カンパ本州縦断旅に変わったポイントである。
蓮田PAで例の如く西に行く(要は東京を越える)車を探していたところ、インド人ぽい見た目の外国人が声を掛けてきた。
「どうしたの?」と言われ、かくかくしかじか…と説明すると、何がどう伝わったか、「帰るのにお金が無いんでしょ?電車に乗ればいいじゃない。これあげるよ。」と、2万円を握らされ、彼は颯爽と去って行ってしまった。ビビったのは私である。無一文で京都を出てきたはずが、カンパで合計2万6000円稼いでしまったのである。フェリー券に2860円溶かしたものの、未だ手元に2万3140円も残っている。高速さえ降りてしまえば東京から余裕で帰れてしまうではないか……。なんならグリーン車にさえ乗れてしまう。
お金に余裕があると心にも余裕が生まれる。
高速降りて東京にでも向かうか〜、くらいの軽い気持ちで声を掛け続けるがなかなか捕まらない。とはいえ誰かに乗せてもらわないことには高速を離脱出来ないので、声を掛け続ける。
すると、「犬がいっぱい乗っているから」と、一度断った人が見かねて拾ってくれた。
「どこに行きたいの?」と問われ、「東京か西の方!」とかいうアホ回答をした。横須賀まで行くということで、三浦半島の付け根まで送ってもらうことに。道中で東北自動車道が終わるので、青森から東京まで東北自動車道を縦断したことになる。その後は首都高に乗って東京を脱出し、八景島シーパラダイスで降ろしてもらった。
さて、八景島でホタテ飯を食べながら考える。
帰ろうと思えばいつでも帰れる。東京に出たら新幹線でも飛行機でも何でもござれだ。
でも泡銭が手元にある。なんとかしたい。
なんか泡銭を“資本“に変えるのはヒッチレースの主旨に反するような気がする。と、言いながらも活字に触れたすぎて「虐殺器官」(伊藤計劃)と「カインの傲慢」(中山七里)を買っちゃった。
ここでドライバーに“非常事態用“として渡された紙袋を開けたところ子ども銀行のお金が出てきた。要らねぇ。
で、考えた挙句、熱海で湯治をすることに決めた。
(ここでGoogle先生を解禁したのは内緒、ごめんなさい宿調べだけ頼りました)
一泊二食付きで1万2000円、海を眼下に望む良宿である。4回温泉に入った。気持ちいい……。美味い飯を食べてサクッと寝た。
30日
最終日は別に何も書くことがない。
昨日買った本を読みながら京都まで電車に揺られていただけだ。ただの楽しい鉄道旅。中山七里という作家はいいぞ、皆読もう。
総括
ヒッチレースと言いながらぬるぬる世渡りをしていたらカンパ本州縦断旅行になってしまった。出会った全ての人にありがとう。
4日間同じパンツを履き続けたのだが、「裏返せば倍履ける」という知見を帰京してから得た。そうか、1週間くらいは1枚のパンツでなんとかなるのか。これはライフハックなので皆様に共有しておく。
「せっちゃんのビジュとコミュ力があるからヒッチレースがカンパ旅になっているだけで、他の人間ならそうはなってないだろ」というご意見も頂いた。確かに。ヒッチレースをカンパ旅に変えることが出来るのは私だけだという自負はある。
今回、群馬県を人生で初めて踏んだので、未踏の都道府県が高知県だけになった。カツオのたたきでも食べに行きたいね。
あと道中で福島〜栃木を陸路移動したおかげで今年の陸路移動鹿児島〜青森が完成した。嬉しいね。
ヒッチレース、当分、1年くらいはもうやりたくない。
楽しい旅をありがとう。
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