僅か半畳の床の上にて

私は何をとち狂ったのであろうか。パソコンの前に座り込んでウンウン唸りながらこうして文章を捻りだしている。森見登美彦の「四畳半神話大系」を読んで唐突にnoteなるプラットフォームに爪痕を残してみたくなったのだ。聡明なる読者の皆様はもうお気づきであろうが、文体も森見に多大な影響を受けている。だが所詮は無才の猿真似。化けの皮が剝がれるまでしばしお付き合い頂こう。
この文章の読者諸賢について私は知るべくも無いし、さして知ろうとも思わぬ。しかし諸君はどうであろう。森見に憧れて唐突に筆を執り始める直情径行なる愚人について多少の情報を知りたいと思うのではあるまいか?勝手にそんな妄想を膨らませて勝手に己についてあれやこれやを垂れ流すとしよう。
まず第一に私は京都にある旧帝国大学の文学部に属する一回生である。浪人までして今の大学の門戸を叩き、末は博士か大臣かと思われた我が人生。その他大勢の世の中の大学生と同様に入学前は学問に対する気概は富士の山より高く関東平野よりも広大であった。しかしその高尚な志は四月も中盤になればどこへやら、部屋中探しても見つかるのは酒の空き缶ばかりである。学問分野への思いは消え去り、残るのは如何に大学に行かずに単位を獲得するかという浅ましい考えのみ。では大学にも行かずに何をしていたか。森見の描く「模範的京大生」であれば四畳半に閉じこもり叶いもしない黒髪の乙女との邂逅に思いを馳せていたであろうが私は違う。近所のコンビニや河原町、貴船に清水寺、果ては嵐山まで京都全域を股にかけてバイトに明け暮れていた。月に10万稼いで11万飛ばす生活。働けども働けども生活は苦しくなるばかり。親の仕送りなど雀の涙、四月に手渡された餞別金は底をつき、月4300円の寮費すら滞納するという有様である。果たして何に自分が金を使っていたのか皆目分からぬ。人の奢りで飯を貪り食い大酒を飲み、それでも金が減るというのは百万遍に漂う有象無象の妖気のせいに違いない。
亀やらイタチやらをとっ捕まえて食い、夜な夜な大学構内の建造物に登り、京都中の心霊スポットを巡って女幽霊をナンパしているうちに早くも夏が来た。期末試験七科目中、戦略的撤退により四科目から目を背け、拾った単位は僅かに12。いよいよ留年を見据えた人生計画が始動したところである。巷で囁かれる「京都大学は単位が降ってくる」というあの噂。雪のように軽やかに降ってくるものだとばかり思っていたが、雪のように私を避けて舞っていたようである。
では夏は何をしていたか。夏といえば恋の季節である。あわよくば黒髪の乙女と浴衣で京の街を闊歩し、花火大会で恋の炎を燃やす…といきたかったところだが、瀬戸内沖に浮かぶ島で三週間、日本の西の果て長崎で二週間、幽閉生活を送っていた。まあ京の街を浴衣黒髪美女と闊歩するという妄想は現実となったところで良しとしよう。森見に言わせれば「成就した恋ほど語るに値しないものはない」のでこの話は割愛するものである。
さて、多少なりとも私を理解する手助けとなる手記であっただろうか。否。読者諸賢の明晰なる頭脳をもってしても何も分からぬままであろう。私も何を伝えたかったかわからぬままだ。それは偏にこの似非森見登美彦文体のせいである。何よりもこの文体、自分の言いたいことが上手く表現できず、とてもむず痒いものである。森見氏はよくこんな文体で蕁麻疹のひとつもできぬものだ。素直に尊敬するばかりである。次に筆を執るときは簡潔な文体で万人の興味を惹く題材について扱ってみるとしよう。

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