すべての少女と少女だったわたしたちへ【水深ゼロメートルから】映画感想
映画「水深ゼロメートルから」を見ました。
びっくりするくらい泣きました。
泣くような話なのかは分かりませんが、めちゃくちゃ泣きました。
とても痛くて苦しくて、覚えのある辛さを精一杯生きている少女たち、君たちはすごいぞ。
力強くていい映画が見られて嬉しかったので久しぶりに駄文を綴ってみようと思います。
暇で暇で仕方ない活字に飢えている方はどうぞお付き合いください。
ココロ――「化粧」という武器をいち早く手に入れたあなたへ
大人になればあたりまえの身だしなみに変化する化粧でも、校則のなかでは非常識な振る舞いになる。
どうせ勝負しなければならないなら今のうちから研鑽を積んでもいいじゃないと、そう思う人は少なくないでしょう。
化粧を注意してくる大人はバッチリ化粧をしていてどの口が、と思う。
化粧も、染めた髪も、ピアスの穴も、大人はよくて子どもはだめなの?誰が決めたの?誰のためのルールなの?
とても身に覚えがある気持ちでした。
その鬱憤をなだめる答えは大人からは聞けないかもしれません。
なんの慰めにもならないけれど、同じような気持ちを大人も知っているのだと伝えたくなりました。
また、「わたしの身体はわたしが一番知っている」という言葉にも強い共感を覚えました。
わたしの身体はわたしのもので、勝手にわかったようなことを言わないでほしいし、勝手に触れないでほしい。一人の人間として当然の願いを高校生だって持っているのだと思い出させてくれるセリフでした。
そして最高の宣戦布告、「JKなめんな」
「かわいい」は自分のためにあって、「かわいい」のためにいくらでも頑張れて、それ以外にもいろいろと侮ってくれるなよ。
よし、いいぞ、頑張れ!とココロを応援したくなりました。
チヅル――絶対に勝てないとしても、勝負をするあなたへ
成長につれて体力や筋力や、とにかく「力」というもので男子には勝てなくなってしまう。
そういった無力感や遣る瀬なさを抱えて悩むチヅルは、無謀で無駄な挑戦をしているように思えます。
自分より早く泳げるアイツを忘れることが正解なのかもしれない。
とっくに違う競技で活躍しているのだから関わらずにいればいいのかもしれない。
そんな一般論をかなぐり捨ててクスノキに宣戦布告するチヅルはとてもかっこいい。
誰と戦うか、何と戦うか、その選択肢だって自分自身のものだ。
野球と水泳だろうが、男子と女子だろうが、勝つと決めたのならその努力も気持ちも全部あなたのものだ。
頑張れ、負けるな、何にでも勝ちに行こう。そう声をかけたくなりました。
ミク――気持ちの置き所に悩むあなたへ
成長につれて否応なしに「女」という型に注がれていく心身はとても恐ろしい。
「男も女も関係無い」というミクの言葉は、彼女の望みそのものであるように感じました。
ありのまま思うように踊りたくても、人の目や自分の心がそうさせてくれない。
踊りにプライドを持っていて、踊りが好きだから苦しんでいるのだな、と強く感じました。
気持ちの折り合いは自分でつけなければならず、それはとても難しいことです。
それでも、自分が信じる「男も女も関係無い」を証明せんと力強い踊りを見せるミクの覚悟は、「関係無い」と言い切れなくなった大人のわたしさえも鼓舞してくれました。
はじめの一振り、無言の宣戦布告はミク自身だけでなく、観客さえも奮い立たせる力をもっていると感じました。
山本先生――少女“だった”あなたへ
映画のストーリーは高校生を中心に進むため、教師の存在は杓子定規で理不尽な大人に映りますが、挟み込まれるシーンやセリフの端々で彼女もまた思いやりと憂鬱を抱えた人間であることがうかがえます。
杓子も定規も上手く使ってくれたらいいのに、もっと上手く立ち回ってくれればいいのに、そういうもどかしさをもった存在だと感じました。
優しさと、大人らしい上手なやり方が最後にわかるのもよかったです。
しがらみや不条理を生きてきた大人の遠回しな優しさに少女たちは何を思うのでしょうか。
ムカついた気持ちをきれいさっぱり忘れるなんてできないし、しなくていいけれど、大人の身のこなし方が何か少女たちの光明になればいいな、と願ってしまいます。
おしまいに
本当に素敵な作品で、ユイのこともリンカのことも語りたいのですが、語彙力が底をついたので終わります。
誰もが三人の気持ちを全部少しずつぐちゃぐちゃに持っていて、大人になるにつれて消化したり、できなかったり、忘れたり、忘れなかったりしているのだと思います。
それぞれの苦しみを完全に理解することは不可能ですが、同じような痛みを感じたことがあるよ、とこっそり見守りたくなりました。
青春で片付けるには苦く、成長痛にしては長引く痛みに溢れたとても愛しい映画でした。
土砂降りのプール、世界一浅い水底から始まる少女たちの戦いの武運を願って。
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