わたしが映画館に行く理由【セールス・ガールの考現学】感想

【セールス・ガールの考現学】あらすじ
原子力工学を学ぶ大学生のサロールは、怪我をしたクラスメイトから、彼女が働けない間の代理としてアダルトグッズ・ショップのアルバイトの話を持ち掛けられる。とくべつ仲の良い友だちではなかったが、高給なうえに簡単な仕事だと説かれ、一ヶ月だけ働くことに。
ショップのオーナーはカティアという、高級フラットに独りで暮らす謎多き女性。彼女のもとに、一日の終わりに売上金を届けに通ううち、二人の間に不思議な友情が芽生えていく。
ショップのお客やカティアと交流する中で、しだいに自分らしく生きていく道を考えるようになるサロールだが、あるお客とのトラブルでカティアに不信感を抱き…。

セールス・ガールの考現学 公式サイト

感想


サロール可愛い


主人公のサロールは、大して仲良くもない学友から頼まれてバイトをはじめます。
最初は受け身で退屈そうで芋っぽい感じのサロール。 
バイトで色々な人と出会い、なによりオーナーのカティアと関わる中でどんどんオシャレで可愛くなっていきます。
「自分」になっていく過程を見ているようでとてもワクワクしました。

こっつまんない話になりますが、オシャレは「自己実現」の一つの方法であると思います。
高度な欲求であり、本能的な欲求から離れた人間らしさの発露である。
だからこそ、可愛くなっていくサロールを見て「自分になる」(≒人間として成長していく)という感想を抱いたのかな、と自己分析しています。

生きること死ぬこと


わたしは石田衣良の娼年・逝年(※三部作)が好きなんですが、結構その方向というか、性を通して人生や人間を見ている作品だと感じました。

サロールの両親の関係が改善するところなんかも、ある種滑稽でありながら人間をよく表しているような感じがしました。

また、カティアの描き方がとても魅力的で素敵だと感じました。
作品の中で一番奔放で豪快で、生き生きとしているカティア。実は彼女も死や別れに囚われている。
サロールとは全然違う人間に見えて、死の仄暗さを共有できる人。
共感や感情移入がしにくい人物に見えて、実際はとても人間らしく、気が付けば大好きになっていました。
この映画では大きく視点が変わる、といったことはありませんでしたが、交流を通してその人の見え方が変わるというような、かなり「人間関係」に近い描き方のように感じました。

映画“館”の面白さ

サロールとトブドルジが裸でいるとき、サロールの両親に見つかるシーンがありました。
実はそこで、わたしが鑑賞していたスクリーンではいくつかの笑い声が聞こえました。
その瞬間、わたしは観客に強い憤りを覚えました。

個人的には、ふと漏れる笑いや嗚咽はあって然るべきだと思っています。
ですからわたしは上映中笑い声が起こったことに対して特に感情はありません。
上映中電話にさえ出なければ許せる(衝撃の実体験)

ただ、「このシーンでなんで笑うの」と、強く思いました。

シーンとしてはコメディの描かれ方だったと思います。
ここで怒っているわたしこそが想定外の客でしょう。

きっとここにはわたしの属性というものが関係しているのだと思います。

わたしが見たスクリーンの客層は、主にサロールの両親より上くらい。
でも、わたしはサロールと同じくらいの世代です。
どうしてもサロールに感情移入してしまいます。

笑い事じゃないんだが。

そう思いました。

どう考えても危機的状況ですよね。
素っ裸でボーイフレンドと一緒に居るところを両親に見られるなんて。

加えてノックぐらいしろよ、娘の部屋を勝手に開けるなよ、と。

きっとサロールにとっても衝撃の大きいことだったんじゃないかと思います。
本当の気持ちを両親に伝えるキッカケになるくらいには。

だからね、笑わないで!と思ったんです。

大人から見たら滑稽かもしれない。
他愛もないことで苦しんでいるのかもしれない。
家でイチャイチャするなんてバカみたい?

それでも一所懸命生きてるんだよ、と。

一人の人間(あるいは大人)として見ていたら、部屋のドアを勝手に開けるでしょうか。
そういう人もいるでしょうが、両親にとってサロールが子どもである意識の表れでもあると思います。

でも、オシャレでカッコよく、可愛くなったサロールは自分のやりたいことを伝えられるし、実現できるんです。

モラトリアムから大人へと変化していく、そんな大事なシーンだと思っています。

さて、ここの見出しは「映画“館”の面白さ」です。
このシーンで最初めちゃくちゃ腹が立っていたのですが、今は「っぱ映画館で見ると最高〜〜↑↑」となっています。

だってこれをお家で見ていたら自分の感情100%ですから。

デリカシーのない両親にイライラするだけで終わってしまったかもしれません。
サロールの気持ちだけ考えて、客観的に見たときのサロールまで想像しなかったでしょう。

でも、観客の反応に触れることで、自分とは違う感じ方をリアルタイムで知ることができました。

映画って面白いけど、映画館も面白い。

だからわたしは映画館で映画を見るのが好きだな、と思います。

おわりに


セールス・ガールの考現学、めっちゃ面白かったです。
鑑賞後はなんだかホッコリしました。
モンゴル映画は初めて見たのですが、分かりづらさとかもあまりないように思いました。

とても素敵な作品に出会えてよかった!!
おしまい!!

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