世界一短い3時間【さらば、わが愛 覇王別姫】映画感想

3時間って一瞬なんだね……(矛盾)
あの、本当なんです。マジで。ガチ。

人生見てたら3時間終わっててビックリしました。
上映前めっちゃトイレの心配してたけど一瞬だったので大丈夫でした(個人の感想です)

てか張國榮さん美人すぎる。美人を眺めるためだけでも見る価値がある。
30年前の映画なのでネタバレとか気にしないでいきます。備忘録なんで。


あらすじ


京劇の俳優養成所で兄弟のように互いを支え合い、厳しい稽古に耐えてきた2人の少年――成長した彼らは、程蝶衣(チョン・ティエイー)と段小樓(トァン・シャオロウ)として人気の演目「覇王別姫」を演じるスターに。
女形の蝶衣は覇王を演じる小樓に秘かに思いを寄せていたが、小樓は娼婦の菊仙(チューシェン)と結婚してしまう。
やがて彼らは激動の時代にのまれ、苛酷な運命に翻弄されていく…。

さらば、わが愛 覇王別姫 4K HPより

幼少期~~!!


いや、石頭と小豆の関係よ。
身体を寄せ合って眠るシーン、愛。
かりそめを感じさせつつ、しかし確かな幸せが伝わってきました。
ブロマンスの最大公約数。
ここに至る過程、二人の年齢、少しでも違えば性愛の要素が強くなるのかな、と思います。
兄弟愛の始まりとしてこれ以上ないシーンでした。

あとは張翁。
読めていたけどほんと最悪でしたね……最悪。
後半の落ちぶれた姿はなかなか胸に来るものがありましたが。
蝶衣も出世の足がかりとして恩義はあったのでしょうし、京劇がなんたるかを知る人物として(あるいはその没落の象徴として)心寄せる部分もあったのでしょうか。

青年期~~~!!


蝶衣、めんどくさい彼女みたいでめんどくさかったな。
あくまで弟、あくまで同業者として牽制してくるの、厄介すぎる。
でも、なんか気持ちは分かる。
ポッと出の女に取られるし、自分の気持ちは分かってもらえないし、まあ菊仙好きにはなれないよね。

小樓を助けに行くときも、めっちゃ出かける準備したのに脱いじゃうの健気じゃん……
いや分かる。なんでお前に言われなきゃいけねーんだよ、って思った。
自分に有利な条件もらったのに、結局小樓は菊仙しか見えてないし。

あそこで蝶衣だけが処刑を見ていたのだと思いますが、意図は何だったんでしょうか。
考察クレクレ妖怪。
ただ、日本軍の残虐さを知っている蝶衣が「青木が生きていれば京劇を持ち帰っただろう」と言うことはかなり重要なのかもしれませんね。
京劇を一番に考える蝶衣らしさというか。

余談なんですけど、「止まれー!止まらんか!」って聞こえたとき、めっちゃクリアな空耳だと思ってビックリしました。日本語でよかった。

菊仙について語りたい


まず登場から衝撃的過ぎる。
強かでズルい印象がスタートでした。

ただ根底に「家族がほしい」「普通の幸せがほしい」という願いがあって、切実さがあります。

蝶衣がアヘンの離脱症状で苦しむシーンも胸に来ました。
無意識に母を求める蝶衣を優しく抱きしめる姿。
もしかしたら「母の愛」をくれる存在なのかな、と。
あるいは、虞姫役を降ろされた蝶衣に羽織りを着せるシーン。
真に蝶衣へ心を寄せる存在だと感じました。

ですが、蝶衣にとっては想い人を奪った人間で姉なんですね……

え、つら。

最期は蝶衣が過去をバラしたことではなく、小樓が愛を否定したことが苦しみだったのだろうな、と思います。

菊仙が求めたものもまた、小樓の愛だったんですね……

時代の残酷さ


京劇を巡る環境もそうですし、稽古のスタンスもそうですし、時代は変わるもんですからね。

また、政治権力の変化も蝶衣の運命に大きく関わっていました。
愛する人を救うための行為が、後に反逆とみなされる。
(関係ないけどこの辺で山口淑子がよぎった)

京劇の神髄が古びた価値観になっていくことは、蝶衣にとって理解しがたいものだったでしょう。

師に従い罰を受け入れる小四は蝶衣や小樓にとって好ましかったでしょうが、成長に従って考えが変化していきます。

現代を生きる我々からすれば、小四の考えも十分に理解できますが、蝶衣からすればとんでもない怠け者に見えたのではないでしょうか。
自身が救い、師の教えを継いでいると思っていた存在の反発は裏切りとも感じられたでしょう。

ただ、ラストでは小四も凋落を辿ります。
絢爛豪華な京劇がもはや社会と馴染まないものと知りながら、その魅力に取り憑かれた一人だったのでしょう。

石頭、小樓、覇王


やっぱりこの人ですよね……
時代に翻弄された人間であり、蝶衣に翻弄された人間であり、蝶衣を翻弄した人間でもあります。

また、蝶衣とは対照的に芝居に全てを捧げることはできない人でした。
ある意味“覇王”ではない人だと思います。

その人間らしさや泥臭さがいい味になっているというか。
見てる分には腹が立つけれど、作品に対する親しみやすさが生まれていると感じました。

いや、でも腹は立つよ。

ラストも美しいままの蝶衣と、老いを感じさせる小樓の対比があります。

二者の徹底的な比較がありつつも、師を共にするものとしての繋がり、兄弟としての繋がりがある強い関係でした。

ラストシーンが美しい


冒頭のさわり→ラストシーンの続きというわかりやすい構図ではありましたが、実に感動的でした。

覇王別姫を劇中劇に、いずれ虞姫(蝶衣)は死ぬのだろうという予感がありましたが、ここなんですね。

四面楚歌のとおり周囲が敵になったときかな?と思っていましたが、まさか本当にラストとは。

「蝶衣は虞姫ではない」からこそ、死すタイミングが異なるのか。
あるいは、社会が落ち着いた一方で師や袁先生が亡くなり、京劇の歴史が一度途絶えた後こそが蝶衣にとっての四面楚歌だったのか。
わ、わからん。

最期に小樓が「蝶衣」から「小豆子」と呼んだところも印象的でした。

劇に生き続けた“役者 程蝶衣”がやっと舞台を降りた瞬間だったのだと感じました。
また、彼が一人の人間に戻れるのは小樓の前だけなのだとも。

母を失い、師を失い、弟子を失った蝶衣が最期まで共に過ごした人が小樓だった……

(細かいことを覚えているのは蝶衣の方が得意、が冒頭に効いてくることに気づいた音)

細かい描写や舞台芸術の美しさ、芝居の素晴らしさはもちろんですが、物語としての魅力がとても強い作品でした。

最高!

最後の雑談


4K復刻の流れ、めちゃくちゃ助かります。
やっぱり映画館で見たいのでどんどんやってほしい!!

ことさら映画ファンというわけではないので、予告とかで受動的に知ることが多いんですよね。
マジで助かります。

ある程度の中国古典、現代史の知識があればもっと楽しめたかな〜〜と思いますが、覇王別姫(古典)は有名すぎてちょっと知ってたのでまだ耐えました。

あとは、久しぶりに最低な日本軍見れて良かった。

時代時代と時代だけのせいにするのもよろしくないですが、蝶衣が時代に翻弄される姿に胸が痛くなる作品でした。

一方でその愛は真っ直ぐで、故に強く、厄介で、美しい。

本当にあっという間の2時間50分でした。

出会えて良かった!!


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