見出し画像

『バクラウ 地図から消された村』 ブラジルから来た風刺作品

いつものように予備知識をほとんど入れないまま鑑賞。ただし期待はそれなりに高かったし、早い段階で「これは間違いない」と感じることに。そして「何を観ているんだ笑」という心持ちでもあったけど。
宣材にUFOが描かれたりしていて、さらに冒頭の人工衛星からのシークエンスを観て「SF要素があるのか?」という予測もしてしまったが、もちろん違う。ただし、今作がいくつかのジャンルを含んだ異色作であることは間違いない。

観ている時は気づかなかったが、作中ではジョン・カーペンターのオマージュがいくつもあり、あの学校の名前もそうだったというから本当に変わった作品だ。ドローンをUFOのデザインにしたのは『遊星からの物体X』のことがあるのだろうか。しかし文脈のない設定なので良くも悪くもミスリードになって面白い。また物体Xの音楽がエンニオ・モリコーネということで、今作の西部劇要素との繋がりもあるなと。
あのカポエイラのシーンで流れる違和感のある曲もジョン・カーペンターの曲だったということだが、観ているときは『ドライヴ』のクリフ・マルティネスを思い出していた。だからこの後のバイオレンスを予感させるものになっていると思ったし、実際にそうなった。

終盤のバイオレンスが強烈でオチもついた。そこで普通に「面白かったな」となるのだけど、気になることも多くある。ネットで情報を軽くひとさらいして「なるほどな」と思うところもあるが、やはりよくわからないところも残る。それでいいのだろうけど。
早い段階で秘密のある村だなと感じていたし、それは非合法の匂いだ。見張りの存在がそう思わせるし、トニーが来た時に事前に村から運び出されたモノは何だったか。「強い薬」とは何だろうか。

あの村は「キロンボ」というかつての逃亡黒人奴隷が形成した集落をベースにしているという。だからあの博物館には抵抗の歴史が刻まれている。アフリカから強制的に連行された奴隷は過酷な環境に耐えきれず逃亡して、見つかることを避けて相当な奥地でコミュニティを形成した。奴隷制が廃止されてからは次第に開けた土地に移るようになったという。バクラウはまさにそうした立地に見える。
また逃亡を成功させることが出来た者に男が多かったのは自明の理で、そのために一妻多夫となり、女性上位の集落になっていったそうだ。そこも今作では描かれていた。
またトニーがバクラウの女性を娼婦として連れていく描写も奴隷の歴史を織り込んだものだろう。その歴史には大麻の栽培も含まれる。

あのマンハント集団についても、彼らが象徴しているものを考えれば風刺になっている。気になったのは「アメリカ人」という設定だが、60年代に起きたクーデターの背後に合衆国があったということで、近現代ブラジルの歴史について考えさせるものになったか。まあ直近の合衆国で拡大している問題を思えば、まさにその代表と言えるような造形だった。

ブラジルの現在の大統領は「ブラジルのトランプ」と評されるボルソナーロで、極右の政治家だ。先住民についても酷い発言をしてきている。そうした背景もあってこうした作品がつくられたのだし、現代では世界中の色んな状況に置き換えて観ることもできる。地下へと葬られるマイケルが「終わりじゃない」と捨て台詞を残すが、まさにそうだろう。

こんなに変わった映画なのに、メッセージ性のある強度をもった作品と言える。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?