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ダブルハーベスト〜勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン〜を読んで

シリウステクノロジーズ時代からの友人であり、メンターの一人でもある堀田さんがAIに関する本を書いたということで献本をいただき、読ませていただきました。

堀田さんの「ダブルハーベスト理論」については書籍化前から尾原さんの勉強会などで聞いたことがあり実際に事業戦略の中でも参考にしたりしていたのですが、書籍化にあたりより洗練され、多くの人に伝わりやすくなったと感じます。技術的に難易度の高い用語はあまり出てきませんので、経営層やDX推進を行う担当の方に特にお勧めします。

ビジネス戦略としてのAI活用

DXを推進している立場として時々感じる課題は、自治体や企業とAI活用の話になるとすぐに手段が目的化しがちで、精度の話や効率化の話に終始してしまうことです。本書では、明確にUVP(Unique Value Proposition)の強化のためにAIを活用するフレームワークを提供しているところが特徴的です。「はじめに」で以下のような問いが示されているように、AI技術がコモディティ化している今、それをどのように戦略的に使うかが求められるフェーズに来ています。

・AIを取り入れることで、御社の技術的な競争優位性を高められるか?
・AI実装によって何重にも利益を生み出すループを描けているか?
・御社のAI活用は勝ち続ける仕組みをデザインできているか?

シングルラインからループ構造へ

本書では、AIを使って業務効率化をしたとしてもそれは「シングルライン」の改善であり、すぐに陳腐化してレッドオーシャンに突入してしまうと書いています。それを超えるために、AIを成長させるためのループをつくり、データを育てて収穫(ハーベスト)するいくつかのパターンを示してくれています。特に、AIの成長のループの中で人間を位置づける、ヒューマン・イン・ザ・ループという考え方は重要です。

そして、データを育て収穫するサイクルこそが、本書が提唱するハーベストループにほかならない。データを握った者が勝つのではなく、リアルタイムでデータが入ってくるループ構造をつくった者が勝ち続ける。「データ・イズ・キング」ならぬ、「ループ・イズ・キング」の時代の到来だ。

ループ構造を多重化させ、ダブルハーベストにする

ここまでであれば、実はAIをビジネスに使ったことのある人であれば経験値として持っている人も多いかもしれません。そこからの展開がいよいよ本書の本領発揮です。UVP強化ためのループを2つ以上作ることで、AIが継続的に学習を繰り返し、モデルを強化していくことができるようになります。「ハーベストループ実装に向けた9ステップ」というフレームワークが出てきますが、非常に興味深いので、ぜひ目を通してみていただければと思います。具体的な事例を元に解説しているのもわかりやすいです。

不確実性をマネジメントするということ

個人的に最もうなずいたのが、以下のくだりでした。

マーケットの不確実性の話であれば、ウォーターホール型とアジャイル型の違いだとわかる人は多いのだが、それがAIの話になると、なぜか頭がウォーターフォールに戻ってしまう人が少なくない。それは、もしかしたら、社内にアジャイル開発に慣れた人があまりいないからかもしれない。

私が経営する会社の一つ Georepublic社 ではGISのシステム開発をしています。経路最適化システムなどの提供をしていることからも、最適化エンジンを使ったシステム提供をすることがあります。そのときにクライアントから高すぎる精度を最初から求められてしまったり、ビジネスモデルとしてもその精度ありきで組まれていることがあります。例えば、オンデマンドバスの配車システムなどは良い例で、それまでオペレーターが職人技で配車していたものをいきなり自動の配車システムに置き換えようとしたりします。しかし、実際には様々な制約があり失敗してしまうのです。特に既存のワークフローを変えていく場合、不確実性を段階的にマネジメントしながら徐々に変化していく必要があります。

本書を読むと、目指したいUVPの明確化と、学習精度の斬新的な改善、それを可能にするUX設計、それらすべてを考えながら、アジャイルに精度を高めていく、そのようなプロセスが大事だということが分かります。アジャイルプロセス自体に慣れていない企業、さらに言えば不確実性のマネジメント能力が弱い企業は、AI活用においてもそれが足かせになるのだ、という指摘は大変重要だと思いました。

最後の章ではSDGsについても触れていますが、私としては、そのような大きなスケールでのAI活用についてもぜひ引き続き考えていきたいと思いました。

堀田さん、尾原さん、素敵な本を世の中に出していただきありがとうございます。大変勉強になりました。

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