ストリテラ「龍神の贄」リプレイ
「ストリテラ オモテとウラのRPG」のシナリオ「龍神の贄」を遊んだリプレイです。
(シナリオはこちらで配布しています)
●むかし、むかし
昔々があったとさ。
とある村を囲む山の上には、龍神さまがお住まいじゃった。
とても強く、おそろしい神さまで、
村人たちは十年に一度、生贄を捧げては、嵐や旱魃を起こさないでくださるように祈っておった。
今年はその、十年に一度の年じゃった。
村人たちは、生贄をきれいに着飾らせて山の上へ運び、
古い儀式と祈りをささげ、祭壇に置いて、
逃げるように山を下りていった。
これはその後の、誰も知らないふたりの話。
ひとりぼっちのふたりの話。
●キャラクター
▼五頭高龗(ごずたかおかみ)
(俳優:スーさん)
(俳優シートへのリンク)
【オモテ】龍神
【ウラ】C.気弱な神
本当は生贄を喰らってなどいない、優しい盲目の龍神。
これまでも、生贄はそっと山向こうの村やお寺に逃がしてやってきた。
だが、神としての威厳を保つため、信者たちに対しては「人を喰らい天候を操る威厳ある神」としてふるまっている。
角の生えた小柄な少女と、青い龍のふたつの姿を持つ。
▼葵助(きすけ)
(俳優:遥唯祈)
(俳優シートへのリンク)
【オモテ】生贄
【ウラ】A.神殺し
先代(10年前)の生贄の弟である15歳の少年。痩せていて長身。
龍神の生贄になる子供だということで、村の共同体からやや外されて育ったためか、人付き合いが不器用。
兄の仇を取るため、また今後の生贄が出ないようにするために、龍神を倒す決意をしている。
●オープニングチャプター「月下」
高龗:最初は、森に反響する声だけが聞こえるかんじで。「そなたが、今年の生贄か」
葵助:肩が跳ねます。目だけをそっと覗かせて、「……そうだ。あんたが、『龍神』か」
高龗:クックッと喉で笑います。「そうだ。……『龍神様』とは呼ばないのだな?」
葵助:しまった、という顔をして、布の下、背中の後ろに隠していた懐剣を一旦鞘に仕舞います。「どう、した。俺を喰いに来ないのか。それとも姿が大きすぎてここに来ることができないか」
高龗:「そう急くでない」試すような言い方で、「もうすぐでそなたの命は尽きるのだ。今の気持ちはどうだ?」
葵助:「覚悟は、出来ている。俺は生贄になるためにこれまで育てられてきた」
高龗:「ほう?」
葵助:布の下から周囲を探るように見渡して、もしかして空にいるのか、とはっとして上を見上げます。
高龗:上のほうには背の高い木々が生い茂っていて、その一部からがさがさと音がします。
葵助:では、ちょっと目を鋭く光らせて、そちらを見ます。
高龗:すると、角の生えた少女が樹の陰から出てきます。
葵助:俺より背が低い。
高龗:150センチくらい。
葵助:祭壇の上で膝立ちになっていて、自分より低い位置にある彼女の顔を見て一瞬目を見開いて、こう、「………………」て感じになって。ひとつ頷いて、「……そうか。お前が龍神の使いというわけか」
高龗:「………………」てなってから、「……うむ。そうだ」
葵助:そうだって言っちゃった!「そうか。龍神ともなれば、そう簡単に自ら姿を現さないか」すごく小さく舌打ちをして、祭壇から下りて。「連れて行け。どこかに奴がいるんだろう」
高龗:近づいて、目は見えないんだけど見つめられたことには気づいた風。
葵助:そうすると、近くなってそれに気づいて「お前、……目が」
高龗:「ああ、そうだ。私の目を見たら、きっと人は死んでしまうからな」
葵助:ごくりと唾を飲み込みます。(そうか…… 使いですらそんな力を)って思ってます。
高龗:(笑)本当は力が弱くなってるだけなんだけどね! ……手を差し出して「今なら逃げられるが?」と訊きましょう。
葵助:その小さな白い手をじっと見下ろして、少し間があってから、「いや。俺にはやらなければならないことがある」そっと自分の日焼けした手を重ねます。
高龗:手をぎゅって握りながら、「そうか……」(えっ、逃げないの!?)ってなってます。
葵助:そうだよね!(笑)
高龗:ばれないように気を取り直し、「ならば、行こうか。そなたは、そうだな、身体が細い。きっと龍神様はそのような体は好みではないと思うぞ。たくさん食べて、肉をつけなさい」
葵助:びっくりして目をしばたたいて、「そんな悠長なことでいいのか?」
高龗:「10年に一度しか食べられない、とても大事な食事だ。ならば、最高に美味な状態で食べたいというものだろう?」
葵助:「そうか……」自分の腕や脚を見下ろして。「そうすれば、龍神は俺を食べに出て来るんだな」
高龗:一瞬静かになった後に、「う、うん、そうだな!」
葵助:なんかすごい決意した顔で「わかった」
高龗:歩きながら「そなたは、怖くはないのか?」
葵助:間を置いて「怖くは、……ない」言いつつも白い手を少し強く握り返します。
高龗:触れておこうかな。「10年前も、そなたのような人の子が来た」
葵助:雰囲気がちょっと鋭くなります。「だろうな。その時もお前がこうやって、龍神のところに連れて行ったのか」
高龗:「ああ、そうだ」
葵助:「……そうか」手を離すかどうか少し迷ってから、離さずについていきます。
高龗:「残り少ない命だ。悔いのないようにな」内心(どうやって逃がそうかなー!?)ってなりつつ。手を引いて、一緒に歩いていきます。
●メインチャプター
▼チャプター1「神の領域」
【キーワード】霧、水、お気に入りの場所、村との違い、迷子、眷属、時間、危険、手を取る
高龗:「もうそろそろじゃ。そろそろ【霧】が深くなり、龍神様の領域に入る」
葵助:「さすがは【水】を司る龍神、ってことか」
高龗:「うむ」【手を握りながら】、「決して、わらわの手を離すなよ」
葵助:神域ですもんね。手を離したらどうなってしまうんだろうと思いつつ、「わかった」とついてゆきます。
高龗:道を進んでいきますと、一瞬霧が深くなってなにも見えなくなり、視界が晴れると大きな社のある場所へと一瞬にして移動します。
葵助:思わず立ち止まって目を瞠ります。「……ここが」
高龗:少しうれしそうな顔をして「そうだ。ここが龍神様の住まう場所。私のとても【お気に入りの場所】だ」
葵助:「すごい。村とは空気の匂いが全然違う」(【村との違い】)
高龗:「はは、そうだろう。ここと下界では【時間】の流れが違う。だから、決して逃げようとはするなよ。【危険】だからな」
葵助:「分かった」と閉じた目を見つめて。「それで、奴はあの中か」
高龗:「ああ。挨拶をするか?」
葵助:ゆっくりと深く頷きます。それからあっ見えないんだった、と思って「うん」って言います。
高龗:(笑)クックッ、とどこかで聞いたような笑い方をして、「よいよい。私は目は見えないが気配は感じる。頷いたのは分かるぞ」
葵助:「そうなのか」“龍神の使いの少女”のほうには少し力が抜けて来ていて。「お前も、ここに住んでいるのか?」
高龗:「ああ。龍神様のお世話係をしているからな」
葵助:「こんな人間みたいな【眷属】もいるんだな」
高龗:「ああ」一瞬間があってから、「龍神様は人を喰らうと言うが、私はここに迷い込んでしまった時に、龍神様に助けてもらったんだ。そう怖がるでない」
葵助:すごく驚いた顔をして、「そんなことも、する奴…… なのか」
高龗:「ああ。龍神様は人が好きだぞ」
葵助:「えっ、……」て言ってから考え直して、(そうか食べるという意味でか)と解釈し直して、重々しく「そうか……」と答えます。この子もそのうち食べられちゃうんだろうかと思ってる。
高龗:その様子を感じながら「まあ、……そうだな。ゆっくりするがよい。龍神様はふくよかなものしか食べないからな」
葵助:「わかった。早くふくよかになる」
高龗:(笑)「ああ、それから。あっちの森にはゆくなよ? あそこにゆくと【迷子】になって、この領域から逃げられてしまうからな!」
葵助:森のほうをじっと見て、龍神の使いさまのほうをじっと見て、「わかった。良く、憶えておく」と言います。
高龗:「森へゆくと、向こうの村のほうに逃げられてしまうからな! ゆかずにここにいるのだぞ!」と念を押します。
葵助:(笑)「お前は、なぜ、逃げない?」
高龗:「私はここしか生きる場所が無いからな」と言います。
葵助:それをじっと見つめて、「そうか」とまた言って。今まで手を引いてもらっていたんだけれど、隣に並ぶように踏み出して、一緒に社に向かいます。
▼チャプター2「食事の時間」
【キーワード】人間の食べ物、好物、食器、火、山の実り、味、調理、分ける、喰う
(社の中。広大な板の間の部屋があり、その真ん中にぽつりと囲炉裏がある。鍋でくつくつと料理が煮込まれている)
葵助:囲炉裏の横でひとり座布団の上、ちょっと居心地悪そうに足をもぞもぞさせています。
高龗:龍神の入り口どこだろう!?
葵助:サイズ的にどうなるんですかね!?
高龗:すごく広い部屋なんでしょうね。青龍のような長い龍のイメージなので、それがにょろっと入ってきて、「そなたが今年の生贄か」
葵助:がたっと立ち上がりそうになって片膝を立てて、抑えて、「そうだ。……お前が龍神だな。さっきの娘の言っていた」
高龗:「ああ、そうだ」と答える声は、どこか彼女の声と似てるかもですね。
葵助:「……?」眷属だとそういうこともあるのかなと、ちょっと頭の隅で不思議に思いながらも、斬りかかる【隙を伺う】んですが…… 真正面から向き合った状態では隙なぞあるはずもなく、この場は一旦諦めて、憮然となってどっかと胡坐をかいて座り直します。「俺を太らせて食うんだろう。さっさと食べ物を寄越せ」
高龗:間近まで顔を近づけて匂いを嗅ぎながら「そうだな。お前を【喰らい】たいのは山々だが、そのカタチではまだまだ足りぬ。囲炉裏の鍋から食べるが良い。そこには【人の食べ物】が入っているのだろう?」
葵助:では漆塗りのお椀(【食器】)を手にとって、お鍋の料理をよそって。すごくいい匂いがするので、龍神様の顔を見て、お椀の中を見て、良い勢いで食べ始めてしまいます。(【好物】)
高龗:その様子をどこか愉しげな雰囲気で見つめて、「どうだ?」と訊ねます。久しぶりに作ったんだろうな。
葵助:「これは」もぐもぐしながら。「さっきの娘が【料理】したのか?」
高龗:「なかなか腕が良いだろう? 【味】もいいはずだ」
葵助:何度か頷きます。それからはたと周囲を見回して、「水の神の領域で、【火】を焚いても良いものなのか?」
高龗:いいですね。「ふむ。生肉を食べるつもりだったのか貴様?」
葵助:眉根に皺を寄せて、首を振って。「あんたの食事は、10年に一度、か」
高龗:「ああ。普段は果物や【山の実り】を口にしているが、お前のような人間を食べるのは」顔を近づけて。「10年ぶりだなあ」
葵助:髪の毛がブワッてなって、怖がってないと主張するように「そう、か」と答えて。……それから何杯かお鍋の中身をよそっては食べていたんですが、間が持たなくなって、もうひとつのお椀によそって、龍神様に「ん」と突きだします。(【分ける】)
高龗:ちょっとびっくりして、「……わらわに、くれるというのか」うれしそうにしますね。
葵助:「果物が食えるなら、これも食えるだろう。これ、たぶん肉と、山芋と、栗と、山菜だ」
高龗:「うむ」器を受け取りながら「……お前、名前は」
葵助:「――葵助」
高龗:「そうか、葵助か。葵助。嫌いなものはないか。何か食べられないものはないか」
葵助:「何でも食う。村にはそうたくさん食いものはなかった」
高龗:「そうか。また植物が育たなくなっているか」
葵助:その通りなのか俯いてぼそぼそと続きを食べて。「……名前」と呟きます。「あの娘の名前は、何という」
高龗:一瞬固まってたあとに、「お、……おたか、だ」
葵助:「おたか。……おたかか。そうか」かみしめるように。「……ごちそうさま」
高龗:「ああ。これからもたくさん食べよ。葵助、貴様がここに来たのだ。明日には村にも良い雨が降るだろう」
▼チャプター3「過去の生贄」
【キーワード】これまでの生贄、儀式、喰らう、化け物、血、嘘、遅かれ早かれ、本当は、「(自分)が怖いか」
(暫くの日々を過ごしたのち。夜中に手洗いに立った葵助は、広い社の中で迷い、見知らぬ板戸を開けてしまう。部屋に積み上がる、たくさんの布。それは)
葵助:一枚の服を掴み上げて、固まっています。
高龗:固まっているところに後ろから「貴様、そこで何をしている」と、「たか」のほうの声がします。
葵助:びくっと肩を跳ねさせて振り向いて、……おたかさんの方に対してはずいぶん態度も柔らかくなってきていたんですが、この時ばかりは硬い声で、「これは、……【これまでの生贄】の着ていた服か」
高龗:「ああ」といった後に、その服を見ながら、「龍神様が【喰ろうた】あとのものだ」
葵助:黙りこんで、服を見て、「……そうか。太らせてから、等と言っても、【遅かれ早かれ】みんな、奴の口に……」
高龗:「ああ」「【龍神様が、怖いか】?」
葵助:「……。あいつには、言わないでくれよ」
高龗:「何じゃ」
葵助:「【本当は】、少し、怖い。なんだか、ここで過ごしていて、気を抜いてしまってた。あいつはこれまで、何十人も生贄を食べてきた、【化け物】なんだ」
高龗:「ああ、そうだな。生贄を喰ろうて、【血】をすすり、そして【儀式】を完遂させる。そういう生き物さ。……龍神様は」若干悲しいトーンで言います。きっとそういうふうに思ってるんでしょ、人間は! って。
葵助:たしかに! そうかー……「儀式。そうして雨を降らせ、村もまた生き延びる……」
高龗:「そして村人は龍神様を崇め、これからもきっと、生贄が来るのだろうな」少し悲しそうに。
葵助:「……。」
高龗:「葵助を見ていると、10年前に来た青年を思い出す」
葵助:ぱっと振り返って、「おたかはその時にももうここに…… ああ、そう言っていたな。初めて会った日に」
高龗:「気の良いやつだった」
葵助:唇をかみしめて、「おたか、お前、……ここから、逃げるつもりはないか」
高龗:「逃げる、か。【嘘】でもそのようなことは言えぬさ。ここから逃げて、どこへ行くというのだ?」
葵助:うつむいてしまってから、「だが、あいつの隙を突いて(【隙を伺う】)、逃げて…… 逃げてしまえば、どこへでも、」と言いかけて、「……。そうだな。行ける場所は、どこにもない。悪かった。お前も、休みに戻れ」
高龗:「気にするな。だが、私はどこにも行けぬが、葵助であれば、あの森を抜けることができるのではないか?」
葵助:「言ったはずだ。俺には、やるべきことがある」寝巻の上に羽織っていた山藍摺のはおりものをおたかの肩から掛けて、「体が冷えるぞ」と言い残して去ります。
高龗:ではその着物をぎゅっと握り締めながら、「……すまないな」と小さく言ってその背中を見送ります。
▼チャプター4「危機」
【キーワード】危ない、触れる、神と人、おそれ、脆い、自分なら、失う、感謝、今はまだ
更に時を過ごした、ある日。五頭高龗の力の衰えを映すように、神域に異変が現れる。霧が薄れ、空に罅が入る。
葵助:薪を割っていてふと上を見上げて空の罅に気づいて、何があったのか聞こうとふたりのどちらかを探しに行きます。
高龗:では、ここは入っちゃだめだよと言われていた広いところがあって、そこの扉がうっすら開いていて、そこにこう、ぐったりしている龍神がいます。
葵助:その姿にびっくりしてしまって、扉を開けて駆け寄ってしまいます。「どうした、何があった」
高龗:息も絶え絶えにしながら、「……【触れる】な」と言います。「何でもない」とは言いますが、すごくただならぬ雰囲気です。
葵助:一瞬びくっとして引いてしまってから(【おそれ】)、けれどちょっとむきになったような感じできっとそちらを見て、「病なのか。薬はあるのか」と、俺は何を訊いてるんだと思いながら訊いてみます。
高龗:「薬、だと? わらわは【神だぞ】。人が作った薬など、きくはずもない。【神と人】では身体の作りが違うのだ」
葵助:おたかさんを探しに行こうとしかけて、何をやっているんだ、俺はここに何をしに来たんだと思い直します。で、こう頭を振って、うなされている龍神様の背中の側に回って。「龍神なんて言っても、こうなってしまえば【脆い】もんだな」と、ずっと隠していた懐剣を引き抜いて、伝え聞いた龍の弱点であるという、頸の後ろの逆鱗を狙って刺そうとして飛びかかります。
高龗:「何をする!」と声をあげて、避けようとはします。
葵助:そうすると狙いが逸れて、首の横のあたりの青い鱗を懐剣がザシュッと滑って、浅く切り裂く感じで。切り裂いてしまってから、一歩下がって、混乱した顔になります。けれどもう襲い掛かってしまったからには殺すか殺されるかだろうと覚悟を決めて…… 龍神様はどんな感じですか?
高龗:びっくりはしてると思うので、たてがみを逆立てて威嚇はするんですが、弱っているのでそれ以上は動けない感じです。
葵助:「どうした。その姿はどうしたことだ。何をすればお前がそんなに弱ることがある」
高龗:「【今はまだ】もっているが、……人が、神を信じなくなった。信仰が無ければ、力は【失われ】る」
葵助:「俺たちが、……村の人間が、神への【感謝】を失った」
高龗:ふうふうと息を吐きながら、「ああ、そうだ。神と人は、そういうものだった、はずだったんだ。だが今のお前たちはどうだ」ゆっくりと悲しそうな顔になります。
葵助:心当たりがあるのか、村の様子を思い出してちょっと俯いて、「だが、それは…… そうだ、人を喰らうような、神なんか……」と言いますが、その先が続かなくて言葉が詰まってしまいます。もういちど懐剣を振り翳そうとして、その手が止まって。
高龗:「どうした」
葵助:「ひとつ、聞かせろ」
高龗:「なんだ」
葵助:「……おたかは、……お前の、娘か」
高龗:「……。いいや。違う」
葵助:頭を振って、「だが、声が似ている。空気が似ている。笑い方が似ている、髪の色が似ている、角が似ている。だから、……だから、俺は……」
高龗:「……」
葵助:「あんたを、……俺はあんたを、殺しにきたはずなのに」
高龗:顔だけゆっくりと葵助のほうを見て、「わらわを、殺しに来たか。そうか。ならば、やればよい」
葵助:悔しそうな顔をして、「ここに来たときの【俺なら】、迷わずできたはずなんだ。ずっと、あんたの【隙を伺って】た。なのにあんたは俺に、飯を食えだの、布団で寝ろだの、薪を割れだの、……それに、おたかも、……」言うだけ言い募って、言葉に詰まって、その場から逃げてしまいます。
●ファイナルチャプター「誰も知らない、物語」
(※フラグポイントは3対3で同値。ふたりともの目的が果たされるファイナルチャプターを作ることとなった)
龍神は飛び出していった葵助を追った。だが力尽き、少女の姿で川の傍らに倒れてしまう。
葵助:社を駆け回って「おたか!」と名を呼びながら探すんですが見つからず、外を探しに出て見つけて、びっくりして駆け寄って抱き起こします。「おたか、どうした。おたか!」
高龗:息の荒いまま、「……大丈夫だ。葵助こそ、……そんなに、あわてて、どうした」言いながらも、葵助が龍神を傷つけたのと同じところから確かに血が流れています。
葵助:では首の横から血が流れているのに気付いて、「お前その傷、……まさか」
高龗:「う」傷を手で隠すようにしてばつの悪そうな顔をしながら俯きます。
葵助:下を向いてしばらくじっとしていてから、「そうか。……そう、だったのか」
高龗:「がっかりしたか。恐ろしい神だと思っていた存在が、こんな小娘で」
葵助:「逆だ。小娘だと、……いや、美しい、娘だと。俺が今まで見たことも無いくらい、綺麗な人だと思ったものが、まさか、兄さんの仇だったなんて」
高龗:顔が赤くなったり青くなったりいろいろしつつ! そういえば、葵助さんのお兄さんの名前って決まってました?
葵助:なんとか助、なのかもしれないですね。色の名前を付けて…… 緑助(ろくすけ)とかで行きましょうか。
高龗:いいですね。では、「そなたは、緑助の、弟か?」
葵助:「そうだ。……お前に食われた、緑助にいさんの。兄さんはもうどこにもいない」
高龗:一瞬固まった後に、でも威厳は保とうとするから、「そうか」と言いつつ若干悲しそうな顔をします。
葵助:「その顔だ」と唐突に責めるように言います。「お前が時々する、その顔だ。そうして悲しそうな顔をするから、人間みたいな顔をするから、龍の時にもその顔をするから、俺はもう、あんたを―― 殺せないじゃないか!」
高龗:「兄の、仇だぞ?」
葵助:「そうだ。お前は兄さんの仇だ。お前がいる限り村からは生贄が出続ける。俺のような子供が出続ける。だから俺は、……でも、……」
高龗:「……」
葵助:「どうして、……あんたはどうしてそんな姿であの日、俺の前に現れた」
高龗:「この姿の方が、おぬしが怯えないと思った。この姿の方が、おぬしはここから逃げてゆくと思った。私はな」素で言う時は一人称が「私」なんだと思う、「もう、疲れたのだ」
葵助:「つかれ、た?」
高龗:「ああ。ひとを食べる化け物として生きることも、ここで神として崇められようと気を張り続けることも、疲れてしまったのだ」
葵助:「それでも」と言いかけて、考えこんで、「……龍に、逆鱗があるというのは本当か」
高龗:「あるぞ。これを傷つけられてしまえば、龍の力がなくなってしまう。神ではあれなくなってしまうな」
葵助:そうしたら、おたかさんの首の裏にも逆鱗が一枚ある感じでしょうか。
高龗:あるかもしれない! あります。
葵助:「それなら、こうだ」と言って、「――兄さんの仇」とおたかさんの首に手を伸ばす。
高龗:抵抗しない。やっと終われる、と身を任せてしまいます。
葵助:そうすると、こう、一度おたかさんを河原に下ろして圧し掛かって首を絞めるような体勢になって。
高龗:いいですね。
葵助:水の流れる音だけが傍らでしていて。首を絞める手は動かなくて、その代わりに、首の後ろに手を伸ばして逆鱗を剥ぎ取ります。
高龗:それをされた瞬間に、「なっ……!」という声と同時に、一瞬苦しそうな動きをするんですが、こう、角がすうーっと淡く溶けるように消えて行くんでしょうね。「な、……にを」
葵助:「言っただろう。兄さんの仇だ。この山に、龍神はいちゃいけないんだ。だけど、俺は、……最初に迎えに来てくれた時から、最初に手を取ってくれた時から、――あんたのことが、好きだった」
高龗:「な……!」声を上げます。「だ、だが、私は、人を喰らう龍神だぞ!」
葵助:「分かってる! 村のみんなの怖れるものだ、因習の源だ、そして兄さんの仇だ、でも! でも、どうしてもそう思えないんだ。……あんたは、優しくて、ちょっと抜けてて、料理が上手くて、なんだかいつも気を張ってて、時々悲しい顔をして、……俺は、そのあんたのこと、今まで会ったどんな人間よりも、綺麗だと思っちまったんだ!」
高龗:「……おろかもの……」言って、葵助さんの服をつかんでポコポコと殴るんですが、多分そんなに痛くないんですね。「おろかもの。龍神が居なければ、力が無ければ、あの村も……」
葵助:「いいんだ。自分たちの中から生贄を出して、そんなことしてまであんたばかりに頼って生きていく、そんな時はもう村にとっても終わっていい。昔とは違う。何年か前に町から農学者も来た。治水の設備も作った。人間は人間で生きていく。だからもう、……龍神は、俺が殺す。俺が、殺した」
高龗:「わらわは、私はもう、……龍神として、嘘をつき続けなくても…… よいのか……?」
葵助:「いい。それにもう、つくこともできないんだろう? あんなに苦しそうだった。遅かれ早かれ、あんたはきっと、俺たちの身勝手さに付きあわされて、あそこで独り死んじまってただろう。そのくらいなら」ぽこぽこ叩いてくる小さなふたつの拳を両手でぎゅっとして。「森を抜けよう」
高龗:「……!」
葵助:「山を越えて、向こうに行けば、もっと遠くに遠くにふたりで行けば、誰もあんたを知らないところまで行ける。ずいぶん飯も食わせてもらった。薪割りもした。俺は元気いっぱいだ。あんたを背負ってでも、海までだって歩ける」
高龗:「私は、龍の力が無ければただのお荷物だぞ。目の見えない、ただの小娘だ。それでも連れて行くというのか」と、声も手も震わせながら言います。
葵助:「あんた言ってたじゃないか。目は見えなくても気配は分かるって。それなら、新しい土地へ行っても、皆と話はできる。出来ないことは俺がやる。ふたり分でも三人分でもやってやる。あんたが手を引いてくれたように、今度は俺があんたの手を、どこまでだって引いてやる」
高龗:胸元におでこをつけながら、「おろかもの……」って言いつつも、葵助さんの胸に沿いますね。
葵助:竜の血に汚れた自分の手を見て暫く迷っているけれど、その角のなくなった小さな丸い頭をそっと包むように抱きしめます。
高龗:抱き締められながら、胸元で小さく、「今までずっと、嘘をついていたのだ。……すまなかった」
葵助:「全部話せ。どんな嘘でも、もう、俺はあんたの手を離さない」
高龗:こくりと頷いて、すっと顔を上げながら、「きっと、もうすぐ霧が晴れる。晴れたら、向こうの森へ行こう。森を抜けたら、……寺があるのだ」
葵助:「寺か」ちょっと不思議そうに。
高龗:「そこですべて、全て話すよ。言えなかったことも、隠していることも、嘘をついたことも、すべてな」と、今まで見せたことのないような穏やかな表情で笑います。
森を抜けたら、寺がある。
龍神の隠し続けてきたものがそこにある。
そのうちのひとつ、10年の時を越えて、そこに待っているのは――