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閉店した模型店の話

 早いもので地元の老舗模型店(創業が1980年)パンダ模型店の閉店から今日でちょうど半年だ(2023年12月24日閉店)。
 地元の、と前置きしながら恐縮だが実はそう付き合いが深いわけではなかった。

 初めて訪問したのはもう10年以上前のこと。
 外回り中に偶然店の前を通りがかり「模型店だ!」と入店。
 確かまだ店先に立たれていたのがご主人(前店主さん)だったと思うが、レジで消費税分の小銭を出そうとしたら「あ、良いですよ。うちは消費税貰ってませんから」とにこやかに言われたことは覚えている。
 それ以来店の近くを通るたびに訪問し、店番されていたのはご主人だったり奥様だったりした。

 そして数年経ち、結婚を機に今の家に引っ越すのだが、急激な環境の変化のせいか何か月も経ってしてからようやく、ここがパンダ模型から(その気になれば)徒歩でも行けるということをふっと思い出す。
 その時には既に奥様が店主になっていたと思う。

 会計時に「欲しい物ございましたか?」と上品に聞かれ、「ええ。ちょうど探してた物が見つかりました」と返すと、「それは良かったですね」と嬉しそうに言われた。

 エピソードなんてこれくらいかな…と思っていたが、突如記憶の扉がバァン!と派手な音を立てて開いた。
 記憶という迷路を探索していたら、思いもよらぬルートを発見したような気分だ。
 子ども時代にパンダ模型に行ったことがある。もちろん古い記憶なので断定はできないが、その可能性はかなり高い。
 前回の記事通り、私が小学生の頃に流行っていたのはミニ四駆だ。

 このミニ四駆の改造用パーツをいかに入手するか、当時の小学生たちはみんな躍起になっていた。

 そんな時、仲の良かった友人たちに「ミニ四駆のパーツたくさん売ってる店あるから今度行こうぜ!」と誘われたのだ。
 そうして…夏休みに入ってすぐだったか…数人連れ立った自転車で、初めて通る道におっかなびっくりしながら、結構な距離を走って行った模型店があったのだ。
 そこでお目当てのパーツを多く買えて、ジャパンカップ参加の準備を整えることが出来た。


 ストリートビューを立ち上げ、当時の家からパンダ模型までのルートを追えるだけ追ってみる。
 延々続いてうんざりした坂。
 友達みんな先に渡ってしまい、待ってる間に置いてかれるんじゃないかとドキドキした交差点の横断歩道。
 店があるのは別の学校の校区であったため「ここから、もし〇〇小の奴らに絡まれたら誰か囮にして逃げようぜ」なんて言われ(これ囮役は自分だよな…)と本気で心配していたことまで思い出す。
 今思うとそんな薄情な連中ではないはずだが。
 夏のまだまだ高い夕方の日差しを浴びながら、くたくたになりながら自転車での帰路。
 だいぶ変わっているとはいえ、記憶と合致する箇所がまだまだ残っていた。
 確認すると片道6kmちょっと。
 当時の自分としてはかなりの大冒険だ。

 とはいえ行き帰りの大変さの方がずっと記憶に残っており、実際の店内の様子なんかはだいぶぼんやりしている。せめて店に入った時に思い出せたら、店主さんにもこのお話もできたのだが。

 先日お店の前を通りかかったら、すでにシャッターが閉じ看板も撤去されており模型店であった痕跡はすっかり無くなっていた。
 Googleの店舗情報もすでに消滅している。
 ここに模型店があったんだよという事実はこの先時間の経過とともに摩耗し、そのうち忘れ去られていく。 
 顧みられることのない事象は、あっという間に賞味期限切れの情報として処理され、ネットに残る今のわずかな断片情報も少しずつ消えていくだろう。
 本当に単なる個人の思い出話だが、その小さい断片をひとつここに追加しておこうと思う。

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