見出し画像

ミニ四駆のちょっとした思い出(プロトエンペラー)

 最近不意に昔の、特に小学生時代の記憶が蘇ることが増えて来ました。
 ここ数年作るプラモのジャンルが広がり、特に幼少期に一時的に触れていたスケールモデルの思い出を頭の中から引っ張り出そうと、連日あれやこれや考えているからでしょうか
 理由はわからないもののせっかくなので、思い出したら忘れないうちにいくつか書き留めていこうと思います。

 まず今回は表題通り、ミニ四駆のこと。
 さっそくですがプロトエンペラーの画像を見に来られた方には申し訳ない。
 実物も複数持っているのですが、絶対ここにあると思っていた保管場所に見当たらない。
 二度の引っ越しを乗り越えたマシン達なので、あーあの段ボールの中かなぁ…と目星は付けているが、ちょっと取り出すのが面倒な場所。
 なのでこのエントリーは自分でも嫌になるほどに文字ばっかりです。

 プロトエンペラー(原始皇帝)というミニ四駆マシンは、私が小学生の頃に月刊コロコロコミックで連載されていた『ダッシュ四駆郎(作:徳田ザウルス)』というタイアップ漫画に登場する、主人公四駆郎の駆る、ダッシュ1号エンペラー(皇帝)の兄弟マシンに当たるオリジナルマシンです。


 紫色の、もう一台のエンペラーというインパクト。
 そして、恐らく実車のコンセプトマシンやプロトタイプの意匠を取り込んだと思われる、より洗練されたフォルム。所有者であるライバル鬼堂院陣の超人的な身体能力・テクニックと合わせ、それはもう今でいう「脳を焼かれる」級に読者へ強烈な印象を残したわけです。


 プロトエンペラーはそんな、みんなが欲しがるマシンでした。が、しかしみんなの手に渡るマシンでは無かったのです。
 詳しくは上記リンクの通り、ボディの発売は開催地区の少ないイベントのオータムカップ。
 その後もイベントの度に少数再販された話は聞きますが、本当に数が少なかったようで周囲でも誰も持っていない幻のマシンでした。

 それから、正確な時期は忘れましたが、恐らく89年頃でしょうか。
 当時各地の百貨店などでタミヤが公式イベントを開催していました。地元熊本でも行われ、私も親にねだって連れて行って貰いました。
 会場にはミニ四駆コーナーとフリー走行可能なコースも設置されており、小学生の入場者はもうほぼ全員じゃないかと思う程そこに群がっています。
 普段は設置されている模型店に遠出しないと触ることもできない大型サーキットコースです。
 よく聞く自分ちにでっかいコースを組んでいる漫画のような超お金持ちの家の子もおらず、きちんとしたコースで走らせること自体が物凄いレア体験なのでした。

 ちなみに私のマシンはというとエンペラーのフロントに、RCに触発されてエポパテで自作したぼってりしたサスペンション(なんの機能も無し)を貼りつけ、初期グレードアップパーツのアクセサリパーツで横に広げ大型延長したリアウイング(なんの機能も無し)が乗っかる、ボディだけでもシャーシ(電池抜き)じみた重たさの超重量級エンペラーでした。

 このように速く走ることを完全放棄した私のマシンは、当然周囲のちゃんとした改造を施されたマシンに抜かれ、周回遅れを起こし体を張って進路妨害をする迷惑運転エンペラーと化していました。
 もちろんそんなマシンを放っておくにはいかず、係員のおじさんから渋い顔で撤去され割と本気でショックを受けるのでした。

 そんな中、ひと際注目を浴びるマシンがありました。
 プラ板を使っているのか、かっちりしたフォルムの改造エンペラーです。
 唯一、フロントノーズだけはサンダードラゴンjrの物と思しきパーツが被せてあり、ねじ止め固定されていました。


 ボディを改造したエンペラー、という意味では私の物と同じですが、遠目で見てもわかるほどに完成度が段違いです。


「スーパーエンペラーだ」
 近くの誰かがぽつりと言いました。
「スーパーエンペラー!」
「スーパーエンペラーがある!」
「作ったんだ!すげえ!」

 スーパーエンペラー(超皇帝)とは、上記のダッシュ四駆郎の新マシンです。
 みんなのリアクションからわかると思いますが、漫画にも登場したばかりで、まだ商品化されていない時期でした。

 所有者は小6くらいの、私よりちょっとだけお兄さんに見えました。
 周りの反応に、困っている…というよりも戸惑っている感じでした。
 走り終わるとみんな「見せて見せて!」とその子に殺到します。私もすげーすげーと遠巻きで見ながら、あることに気付きました。
「あれ、スーパーエンペラーじゃなくてプロトエンペラーじゃない?」
 というのも、そのマシンは白に赤いラインではなく、銀をベースに紫の部分塗装がされていたからです。
 リアウイングの形もよく見るとプロトエンペラーのように、戦闘機の尾翼みたいな形状です。
 今となっては細部の記憶もあやふやですが、もしかしたら本当に戦闘機のプラモからパーツを流用していたかもしれません。

 エンペラーとプロトエンペラー。
 真っ先に目を引く大きな形状の違いはフロントノーズでしょう。
 いま改めて見てみると、スーパーエンペラーはこのプロトエンペラーの「受けた」要素を非常に巧みに取り入れています。
 ダッシュ四駆郎の作者で同時にマシンのデザイナーでもあった、徳田ザウルス先生の鋭い観察眼と分析、そしてセンスが発揮された渾身のデザインと言えるでしょう。
 なのでみんなが今一番心待ちにしているスーパーエンペラーと思ってしまったのは仕方ないでしょう。
 これは別にみんなの見る目がないとか、逆に私の観察眼が優れていた、という話ではありません。
 私も本当にただ、偶然気付いただけに過ぎません。

 見せて!の波が引いた後(もしかしたら係員さんが解散させたのかもしれませんが、この辺は覚えてません)、私はこそっと近づいてじっと見ました。
(やっぱりプロトエンペラーじゃない?)と思い、ほとんど無意識に「これプロトだよね」とぽつり口に出しました。
 マンガやドラマなら、相手がぱっと笑顔になって「よくわかってくれたね!」となるところでしょうが
「うん、そう」
 彼はそう素っ気なく言ってマシンをボックスに収納してしまいました。

 言ってしまえば、まあそれだけの話です。
 よくある、その後彼とミニ四駆を通じ友達になりました、とか彼は現在こんな世界で活躍していて…といった華やかなオチもありません。

 彼のリアクションに特に傷づいたり怒ったりした記憶もないので、私としてもとりあえず言えて良かったな、となったのでしょう。
 知らない年下の子からプロトエンペラーと気付かれて、果たして彼は嬉しかったのか…というと恐らく微妙だったんじゃないでしょうか。
 たぶん、ちょっと恥ずかしかったんだろうな、と思います。
 そして、同時にちょっとだけ安心した、と思ってくれてたら良いな。
 我ながら勝手な話だなぁと、なりつつも今さらながらそう思うのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?