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Bugs in everyday life

我々は生まれながらに操られている。こういうとよく疑われるのだが、別に私は陰謀論者では無い。
操られている、というのは親に進路を決められとか、誰かに流されとかいう比喩でも何でもなく、ゲームの主人公のように操作されているのである。これはそんな操られて生きている普通の家庭に生まれた少年の人生の一幕。


僕は20XX年にここ、○○町にて産声をあげた。体重3450g、平均より大きいが無事に母子健康に産まれた。名前は秀人(ひでと)。周りより秀でた人であってほしいという、在り来りな理由で付けられた名前だが、僕は気に入っている。ここ○○町は都会過ぎず田舎過ぎず、実に穏やかで過ごしやすい町である。そんな町でおしどり夫婦としてちょっと有名な両親に愛情を注がれて僕は今日まで育ってきた。今日は僕が5歳になる誕生日だ。


一サーッ一

一瞬。
なんだ、この雑音は。嫌に頭に残る音だった。気にはなるが今はそんなことを考えてる場合ではない。目の前には5つの灯り。光に照らされて期待するようにこちらを優しく見つめる男女の顔。向けられたビデオカメラ。誕生日の醍醐味、ケーキに立てられたロウソクの火を消す瞬間を今か今かと待っている。一息。消えた光は2つ。二息。全ての光が消える。父母からの祝福を一身に受け、僕ははにかんだ。父からは補助輪付き自転車、母からは新しい絵本のプレゼント。僕の心は満たされていた。満たされていたはずだった。
その晩。トイレに起き、部屋に戻る時、父と母の寝室から怒鳴り声が聞こえた。
「ーーーー!!」「ーーー!!?」
「ーーいつも!ーーーーー!!!」
「そっちだーー、ーーーーー!!!」
内容は分からない。ただ、いつも優しい顔をしている、町でも有名なおしどり夫婦の父と母が喧嘩しているということだけは分かる。僕は逃げた。その場から一刻も早く立ち去るべきだと本能が告げていた。その夜、僕は眠れなかった。
翌朝。いつもと変わらず母は笑顔を浮かべながら朝食を作り、父は新聞を読んでいた。顔を合わせても普段と変わらない笑顔。僕は気持ち悪くなった。人間とはどうしてこうも歪なものなのだろうか、小さいながらに頭で理解してしまった。この人たちは壊れていると。歪んでしまったものは、元には戻らない。

一ザザッ一

またこの音だ。前回よりはっきりと聞こえた。人を不快にするこのノイズ。耳を塞いでも直接脳に届くように聞こえてくる。なんなんだ、一体。今日は8歳になる誕生日。この3年で変わったことが幾つかある。1つは父と母が離婚をした。原因は母の不倫。家に知らない男の人を連れてきたことを僕が何気なく父に話をしたことがきっかけで判明した。きっと二人の間で何かが壊れたのだろう。そこから離婚までは早かった。僕は母に引き取られた。もちろん母は不倫相手にも捨てられた。2つ、ド田舎に引っ越した。噂はすぐ広まるもので、町に居られなくなった母はひっそりとした田舎へ逃げるように引越しをした。今までの便利な暮らしとはうってかわり、店は少なく遠く営業時間は短く、娯楽もなく、ただただ閑散とした田畑が見えるばかりの子供にとってはつまらないところに来てしまった。「パンッ」乾いた音。遅れてじんわりと頬が熱を持つ。次第にヒリヒリとした痛みが広がっていく。そう、3つ目は母が僕に暴力を振るうようになった。何でも、「お前のせいで全てが狂った。お前なんて産まなければよかった。」だそう。随分と勝手なもので。しかし、耐えるしか無かった。僕はまだ8歳。小学2年生にあたる歳である。働けないのである。お金というのは生きていく上でとても大事なもので、僕には稼ぐ手段がない。逃げるところも助けてくれる人もおらず、こんな母でも頼らざるを得ないのだ。全く、救いようのない話だ。母の暴力に怯えて過ごす日常の中にも、一応平穏な時間がある。睡眠、トイレ、夕方から夜までの時間である。母は、似合わぬメイクをして夕方に出かけ、夜遅く、ないし明け方に帰ってくる。何の仕事をしているのかは知らない。ただ、帰ってくると毎日泣いている。そして起きている僕を見つけると暴力を振るう。お前のせいだ、と。
僕は慣れてしまった。壊れてしまった。この程度の痛みじゃ死ねないことはわかっているし、涙も出なくなった。ただ、1人になると考えてしまう。学校にも通わせて貰えず、友達もいない。したいこと、できることもない。なんのために、どうして生きているのだろうと。早く消えてしまいたい、と。あぁそうか、僕は気づいてしまった。あのノイズはきっと、バグが起きたから聞こえたんだと。1度目は父と母。2度目は僕自身。こんな壊れた人生、もういいや。捨ててしまえ。
1突き。じんわりと血が滲む。あぁ、どうか来世は普通に生まれて普通に育つ家庭に生まれさせてください。何も特別はいらない、ただ普通が欲しい。

-game over-

「んだよ、またバグで終わりかよ。なんだよこのクソゲー二度とやるかっての」
「ご飯よー!降りてきなさーい!」
「今行くってば!」

VRMMO-Life is a game-



あとがき

如何でしたでしょうか。僕としては初めて書いた作品だったが故至らぬ点など多々ありますことお許しください。
この作品は僕が子供の頃に何気なく、誰かに操作されてるんじゃないかなぁと思ったことを深く覚えており、これを物語として昇華させたいとおもったのがきっかけの作品です。
虐待、離婚なんてのは世の中に蔓延っており、実際これらより酷い家庭環境なんてのはザラです。
きっとそれらは無くなりはしないのだろうけれど、もし自分が家庭を持つのなら、子供ができるのなら。秀人のような思いはさせたくないものですね。

人生バグだらけ、生きているだけで偉いのですから、生きていることに自信を持ち、卑屈にならず生きて行きましょう。読んだ方の人生に幸多からんことを。

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