残念な天使

「イッテテテテテテ、あぁここどこだ?」

『おぅ、やっと気い付いたか!』

(誰だこいつ、変な格好しやがって…)

『変な格好とはなんや!』

「えっお前俺の心の中が読めるのか? っていうかお前だれだ?」

『うちか? うちは天使や、見習いやけどな』

「天使、こんな三等身のずんぐりむっくりなんが?」

『ずんぐりむっくりとはなんや! 見た目は関係あらへん、これでも一応天使検定6級もっとるんや! 立派な天使やないけ!』

「天使検定? なんだそれ、何級まであるんだよ…」

「6級からや」

「なんだ、天使なりたてじゃねえか、それでその天使崩れがなんで俺の前に居るんだ? 一体ここどこなんだよ!」

『あんたまだ気付いてへんのか? あんたは死んだんや! 海で溺れた子供を助けようとしてな…』

「あっそうだった、あの子はどうなった?」

『助かったわい、ライフセーバーによってな』

「そっか、よかった…」

『よかったや無いやろ! ろくに泳げもしないのに助けになんか行きおって』

「そんな事言ったって、子供が溺れてたら普通助けに行くだろ!」

『なにもあんたが行かんでも、すぐそばにライフセーバーがいたやろ! それにあの子の運命はこんなもんで終わる様な運命では無かったんや!』

「えっ、そうなんか、それじゃ俺無駄死にって事、なぁ俺本当に死んじまったんか?」

『あぁそうや、ここは俗に言うあの世や、下を覗いてみぃ、今頃あんたの葬式やっとるんとちゃうか? ほれ!』

 ステッキを振り、下界を見せる天使。

 雲の隙間から見えるその斎場では今まさに葬儀が営まれていた。

「なぁ、これ本当に俺の葬式か?」

『あぁそうや、お前人気者やったんやなぁ、ぎょうさん来とるやないけ』

「それにしても、随分と早くに葬式してくれたんだな、死んだ当日なんて」

『あんたアホちゃうか? 死んだその日に葬式なんか出来るハズあらへんがな! 葬儀屋の手配やらなんやらあるし、だいいち葬式の前に通夜があるやろ!』

「あっそうだった、でもそれならどうして? それにさっきから頭が痛いんだけど、溺れて死んだハズなのに何で頭が痛いだ? 何かにぶつけた様な痛みなんだ」

『あんた覚えてへんのか? あんた死ぬ間際に海に沈んでもうて、海底の岩に頭ぶつけたんや、その時気を失ってあれからもう四日や、まったく死んでるのに気を失ってるってどう言うこっちゃ!』

「じゃあ本当に死んじまったんだな…」

『あぁそうや、健一、あんたは死んだんや! 残念やけどな…』

「えっ! 俺健二だけど…」

『えっ! 田中健一とちゃうの?』

「俺の名前は田中健二! ちなみに兄弟は無し!」

『ちょっと待って!』

 死亡予定者ファイルを確認する天使。

『あぁ~~~~~~っ、間違えてもうた~~~っ』

「ちょっと、間違えたってどうゆう事だよ」

『すまん健二、あんたほんまは、九十歳まで長生きするハズやったんや、うちが同姓の田中健一と間違えてもうた』

「なに~~~っ、間違えたで済む問題か! 今すぐ生き返らせろ! 早く! 俺はまだ死にたくないんだぁ~~~~!」

『死にとうない言われても、もう死んでもうてるからのう、一度死んだ人間は最低でも下界で生きた年数分は天上界に居る決まりなんや、あんたの場合は十九歳やから、少なくともあと十九年や…』

【おぬし、とうとうやりおったの!】

 どこからとも無く声が聞こえてくると、すうっと神様が姿を現した。

『あっ神様! 申し訳ありまへん』

【申し訳ないで済むか! 大変なミスしおって、今度やったら資格取り上げるぞ!】

『すんまへん、ほんとにすんまへん』

「なぁ、あんた神様なんか? どう見てもその辺に居る普通のおっさんにしか見えねえけど、しゃべり方なんかその辺に居るじいさんとかわんねえじゃねえか!」

『これ! このお方に対して失礼やないか! このお方はな、神様検定十段、神様の中の神様と言われてるお方なんやぞ!』

「へぇ偉いんだぁ、でも俺のイメージしてた神様と全然違うなぁ」

【下界の者は神様というと、白いヒゲを生やしたじいさんを思い浮かべるからのう、でも実際は検定試験に受かりさえすれば誰でもなれるんじゃよ、神様検定については天使検定四段以上が必要じゃがの】

「そんなに偉い神様ならどうにか出来るだろ、何とかしてくれよ!」

【そうじゃのう、今すぐ健二としてあの体に魂を戻すのは無理じゃが、あと一年待ってくれ! そうすれば何とかする、本当はいけない事なんじゃが今回は我々のミスじゃ、出血大サービスじゃぞ!】

「そんなに待てねえよ、今すぐ何とかしてくれよ!」

【そんな事言われてもなぁ、一度死んだ人間を生き返らせる訳にいかんからのう、一年だけここで待っててくれ、ここは良いぞ! 下界の様に犯罪や事故が起きる事も無いし、踊りたければクラブがある、歌いたければカラオケボックスだってあるんじゃ、遊び放題じゃろ!それに、その気があれば天使や神様にだってなれるんじゃぞ! その場合は生まれ変わる事は出来ないがの】

「分かったよ、じゃあ一年だけな!」

【分かってくれたか、なら良かった、天使、後は頼むぞ!ここを案内してやれ】

『はい、神様!』

 そして神様は、またすうっと姿を消してしまった。

「なぁ天使、あんたなんで関西弁なんだ?」

『うちは関西出身なんや、神様に言われて東京弁に直す様にはしてるんやけどな』

「東京弁て標準語の事か? ほとんど関西弁に聞こえるぞ!」

『そうか?』

 次の瞬間健二の顔つきが変わり、突然天使に襲い掛かった。

「ところで落ちこぼれ天使、お前のミスのせいで俺は死んだんだよな、お前が俺をここに連れてきたんだろ! だったら元に戻す事も出来るだろ! 正直に言ってみろ! 出来るよな!」

『出来まへん』

「出来るよな!」

 胸元をつかまれた天使は、あまりの怖さに白状してしまう。

『で、できます…』

「じゃあ元の体に戻せ!」

『それは無理です、堪忍かんにんして下さい…』

「良いから戻せ!」

『一度死んだはずの人間が生き返ったら、みんな驚いてしまいます…』

「良いから戻すんだよ、早くしねえと俺の体が燃やされちまうじゃねえか!」

『分かりました、やります、やりますよ、だから離してもらえます?』

 健二が天使を離すと、天使は持っていたステッキを健二に向かって振り下ろした、すると健二の体がすうっと消えていく。

 その時下界では、最後のお別れにと、棺に花を手向けている時であった。

 突然健二の目が開き、体を起こしたのであった。

 その光景を見た人々はみな驚き、慌てて逃げていく。

〔出たぁ~お化け~〕

 その時天上界では、下界の様子に気付いた神様が再び天使の前に現れていた。

【まぁたとんでもない事しおって! こうなる事は予想できたであろう!】

『申し訳ありません!健二があまりにも怖い顔で詰め寄ってきたものでつい…』

【え~い言い訳などいらぬわ! お前の資格は取り上げじゃ、もう一度一から出直せ!】

 その後下界に戻った健二は、一時周りの人々から死んだはずの人間が生き返ったなどと噂され恐れられたが、次第に噂する人々も減り、その後はごく普通に暮らしていった。

 そして七十五年後、九十四歳でこの世を去った健二は二度目のあの世への旅立ちを迎えた。

『よう、久しぶりやのう』

「えっとどなたさんですか?」

『なんや完全に忘れてもうたんか? 下界にいる時は記憶を消してあってもこっちに来たらまた思い出すはずなんやけどなぁ?』

「あっ落ちこぼれ天使!」

『落ちこぼれは失礼やないけ、大変やったんやでぇ、あんたを下界に戻してもうたおかげで神様に怒られてなぁ、天使検定6級の資格取り上げられてしもうて、それから十年間も検定を受けさせてもらえんかったんや、でもあれから頑張って出世したんやで、今は天使検定初段や!』

「なんだ、まだ神様になれんのか?」

『ほっとけ!』

「まあこれからよろしくたのんます!」

『おうこっちこそ頼むな、生き返らせろって言うのはなしやで…』

「もうこれだけ生きれば十分じゃ!」


これにて完結となります、
このような駄作を読んでいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?