小さな喜び
小さな喜び,それは日々の生活にありふれた現象である.
水を透き通る光の粒,息吹く草花の香り,悠長に琴線を揺らすメロディ
鎖のように連ねて微小に,それでいて燦然と輝く小さい明りを編み込み自分の人生の玄関にかけるのである。それは針葉のリースのように,それは喜ぶかのように
熱病のように歪んだ顔は哀れにも忌まわしくこびりつく。そこには哀愁は存在しえず,現飽食と飽情の世界において,一時的刺激であるにすぎない。
性急,それは,わずかばかりの硬貨へ自らの抒情を誑かせ,切り刻まれた生命へと変貌を遂げる惨劇と同義である。偽りの解放と同時に浮かび上がる感覚として漫然とした資本に成り代わる。
ヘッセが示す処方箋は,ほどほどの習慣,小さな喜びの存在の是認である
傑作の前ではそこへ出かけ一週間ほどの巡礼を行う,道にささやく声,小花を見つけ微笑の親友が自らに宿っていることに気づかされるはずだ。
顔を見上げると木,空,水,固有な外観を見せる生命の息吹を感じ自らのうちに自然の萌芽がまた一つと生まれ自然と一体となっていることに気づく。それは尽きることなき生命の感興の心音である
そこには朗らかさと愛と詩情の訪れを感じる。そう我々は享受の才に恵まれていることに気づきそこには不足感や不快感を感じることもこと少なくなるはずである
_____小さな喜び,ヘルマンヘッセ エッセイ全集4
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