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渇望の砂場

いつも、どこからか音がした。
それは放課後であったり
夜明け前のベッドの中であったり。
公園の枯れた蛇口であったり
太陽が2つ昇った昼であったりした。

ときにはまだ眠たい猫であり
ときには飢えを知らない仔犬あった。

闇と闇との傷口から溢れ出るものは
真っ白な光で

時間も空間もなく
愛も質量もなく
記憶もなく
それ自体がなかった



純白のなでしこのように
清廉潔白で
滴ることのない
罪であった。

祖母の呼ぶ声を振り払い
母の呼ぶ声を振り払い
弟と妹の呼ぶ声を振り払った。

友達の声はしなかったが
こちらからは呼びかけた。

友達の笑顔を信じて
大丈夫かと呼びかけた。


大丈夫だよと声がする。
振り返るけど彼はいない。
大丈夫だよと声がする。
振り返るとクスクス笑う。
元気なの?
訊いてみたけど
大丈夫だよと声がする。
闇の裂け目から数百もの旧友が
こっちを覗いて笑ってる。
純白の光に混じって
数千もの炭の瞳が
僕を嘲笑している。

意識を失いかけた時
お父さんの声がした。
大丈夫か?僕を探して泣いている。
大丈夫だよお父さん。
真夏の柊の木の下で

ずいぶん大人になった僕を
白髪の父がおぶって歩く
ズシンズシンとまた一歩
父の一歩は寛大で 
ズシリと響く偉大な男
巨大な男の足の跡
間違えることのない熱い音
ズシンズシン
ズシンズシン
真実は寡黙
絆は寡黙

例えば僕がいなくても

父は僕を護ったよ


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