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雨葡萄


起こる絶望を攻略しながら
秩序は無秩序へと向かう
花が散るように人は去り
雨が降るように薄情に濡れる
傘はなく靴も持たない

朝か昼か真夜中か
あの日か今か、まだ来ぬあの日か
何の区別も持たぬまま
ぼう然と池のほとりにたたずむと
両手いっぱいに果物を抱えた
少女たちがやってきた
桃やりんごや柑橘と
パセリやセロリも持っていた
1人の小さな子供がついてきて
あの葡萄が欲しいと言った

少女の小脇に抱えられた葡萄が答えた

「僕のことが欲しいのかい?」

甘くて酸っぱくておいしいの。
新鮮でみずみずしくて。

小さな子供が答えた
「うん。あのぶどうさんが寂しそうだから。私のお水を分けてあげたいの。
私のベッドを貸してあげるから
ぐっすり眠ればいいと思ったの」

小さな子供は
すり切れて原型をとどめていないスモックのポケットから
汚れた古いコインを掴むと
満面の笑みで差し出した。

ぶどうを抱えてかけていく
ぶどうを抱えてかけていく

子供は裸足になっていて
栄養不足で爪は割れ
髪もほとんど抜けていた
あばらが出るように痩せ
ぶどうを抱えて床に眠るが
どんな果物よりも滋養の詰まった瞳をして
どんな花よりもまぶしい笑顔をして
にっこり笑って目を閉じた

天使がやってきた

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