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わたしは、その日は居留守を決め込んだ。

冷静に対応しなければいけない。

警察を呼ぼうにも、相手が持っているのは、ハリセンである。ナイフやピストルを持っているわけではない。

しかし、もう精神的にやられている。どうすればいいのだろう。

こんな心細い時に、洋子は電話に出ない。よく考えてみたら、向こうは仕事をしている。

わたしは、仕方なく、スマホを耳につけて、相手が出るのを待った。

ダメ人間の元カレである。
ヨリを戻したいとか、そんなんじゃない。

でも、怖くて怖くて、押しつぶされそうなのである。

わたしのたどたどしい説明を元カレは、10分ほど、聞いたあと、こう言った。

「めっちゃ、おもろいやん。なんなん、その話(笑)。

いやいや、でもな、普通に考えてみぃや。そんな変なやつ、もっと変になっていくで?

ハリセンで叩きにきただけやねんからさ。

叩かせてあげたらええやん。今までも叩かせて、きたんやろ?」

「でも、もう怖いんよ!!美容院で、ちゃんと、ハリセンで叩かれる前の流れがあって、ハリセンで叩かれるのと、家までいきなり来られるんは、恐怖の種類が違うやんか!!」

「ハリセンで叩かれる前の流れってなんやねん。そんなんないし!それに、ハリセン持ってるだけやったら警察もなんもしてくれへんで?大丈夫やって!!あと、ちょっとさ、俺、今、お金なくてさ、ハリセンの奴になんかされへんようにボディーガードしたるから、お金ちょっと工面してくれへんかな?」

この男はいつもこうなのである。

わたしは、嫌気がさして、曖昧な答えを言い、電話を切った。


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