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ホラー声劇『雨景色の花嫁』

雨景色の花嫁

蜜柑(みかん)
白狐(しろぎつね)

白狐「さあ、今夜キミを迎えに行くよ…」

蜜柑(N)あれはいつだったのか…晴れ間に降る雨を『狐の嫁入り』だと教えてくれたおばあちゃん。
「晴れ間の雨には長く当たったらダメだよ、見染められるからね」と私によく聞かせてくれた。
あの頃はなんの事か分からなかった…

少し間を開けて

蜜柑「うわ、夕立でもないのに雨降ってきた…傘持ってないんだよなぁ……そんな強くもないから、そのまま帰ろうっと」

白狐「やっと見つけた…」

蜜柑「え?」

蜜柑(N)ふと聞こえた声に辺りを見回したが商店街を足早に歩く人だけで、声の主は見当たらなかった…

蜜柑「気のせい?」

少し間を開けて

白狐「我が花嫁よ…長き時を待ちわびたぞ……」

少し間を開けて

蜜柑「はぁ…今日も疲れた……明日は休みだし何しようかなぁ…(あくびしながら)ダメだ、眠いや……」

蜜柑(N)おばあちゃんの住んでた近くの草原…走り回る私…誰かと遊んでる……誰?雨に濡れながらも楽しげに遊んでる…

白狐「見染められたら……ニゲラレナイ」

蜜柑「はっ!な、なに…今の……夢…違う、私の小さい頃の思い出…」

白狐(N)そう、彼女は私のモノ……あの子の小さい頃に見染めた。
どこに行っても…私はニガサナイ……花嫁よ…

少し間を開けて

蜜柑「ん……朝かぁ…昨日変な夢見たなぁ…さて、今日は何しようかな。
あ、お気に入りの作家さんの小説、今日発売なんだっけ……よし、本買いに行って、カフェでお茶して帰ろ!」

蜜柑(N)その日の天気予報は降水確率0%の雲ひとつない晴れ間の夏日だった。
楽しみにしていた新刊を買い、カフェで軽い食事とコーヒーを飲んで私は帰り道を歩いていた。

蜜柑「うそ…また雨?もう、最近多いなぁ…なんだっけ、狐の嫁入り…だっけ」

白狐「そう、我と貴方の祝言の日だ…」

蜜柑(N)頭の中に響く声は私の記憶を甦らせる。

蜜柑「そうだ…私は子供の頃…雨に濡れながら、あの子と遊んでた……白い狐、白蝋と…」

白狐「お前は見染められた…この白蝋にな」

蜜柑(N)風景がガラリと変わる…笛の音、柳道、狐面を被り、傘を指した複数の人影…みんな口々に祝言を上げよ、と呟いている。
言い知れぬ雰囲気に私は怖くなる…

蜜柑「そんな…私はただあの子と遊んでいただけ!
嫌よ!返して!」

白蝋「祝言の時は来た…さあ我と行こう…花嫁よ」

蜜柑(N)私は無我夢中で走った…出口の無い柳道を…追いかけて来る狐面の人影…祝言を上げよ、その声は次第に大きくなる。

蜜柑「いや!来ないで!帰して!私を帰してよ!」

白狐「無駄だ…お前はニゲラレナイ、ニゲラレナイ、ニゲラレナイニゲラレナイニゲラレナイニゲラレナイ」

蜜柑(N)不意におばあちゃんの言葉が蘇る。
「見染められたものは、黄泉の国で祝言を上げることになる…決して逃げられない」

蜜柑「いや、死にたくない!黄泉の国なんて行きたくない!いやぁぁぁぁぁ!」

蜜柑(N)私の胸に鋭い痛みが走る…同時に目の前に白い毛を血に染めた獣の手と脈打つ心臓が見えた

白狐「さあ、準備は整った…ニガサナイ、私の花嫁」

蜜柑(N)薄れゆく意識で最後に見たのは醜く歪んだ笑顔の白い狐と握りつぶされた、私の心臓だった

白狐「ずっとニガサナイ…黄泉の雨に濡れた、あの時から……貴方は、我に与えられた…生贄なのだから」

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