煮物

京都から長い旅路の末やっとおうちに転がり込み、キムチ鍋にモヤシをぶち込んでいると友達から電話がかかってきていた。
「巨人今見終わった」
私はモヤシを平らげすぐさま折り返し電話をかけた。

「見たわ」
「どやった」
「ジャン、最高」

彼女の性癖にはジャン・キルシュタインが刺さったらしく、「ジャンがミカサと結婚していないことを裏付ける5つの考察」を見てミカサジャンエンドを否定してきた。私はミカサは10年エレンを引きずった後ジャンと結婚したんだと胸を熱くしていたが、確かにアニメにはその描写が無かった。
私の推しアルミンの「弱いくせに生きてる奴」という汚名を返上することもできた。アルミンが如何に強いかを分かってくれたようだ。
進撃の巨人について熱く語り合い、明らかに家族といるときの自分と違うくて、なんだか申し訳なくさえ思えてきた。

昨日、小松菜、ちくわ、こんにゃくを買って友人の家を訪ねた。バイト近くのスーパーで300円と換金したものだ。バスを降りるとピンクの空の下、道路の向かいに彼女が立っており、「おーい」と声を寄越した。「小松菜買ったよ」というと「小松菜家にある!!」と怒られた。しかしバイト先でもらった大量の米を見せると「でかした」と紙袋ごと回収された。ようやく枯れ葉が舞いだした道を、二人でぶらぶらと歩いて、帰る。

友人の家には毎週行っているのだが、その日は私がごはんを作ることになっていた。冷蔵庫にあった大根と買ってきたちくわとこんにゃくを煮込む。

「今日の朝はゴミ収集車のブロロロ…って音で起きてさ」
「ほう」
「ハッて目が覚めてすぐ降りたんよ、寝起きから外出るまで最短記録を更新した」
「よかったやん」
「そんで下までゴミ持って降りたら、隣の家で水やりしてたおばちゃんが『まだ間に合うよ!!諦めないで!!』って声かけてくれて」
「小学校の運動会ぶりの感動を思い出したわ」
「間に合ったん?」
「ばっちし」

ハイボールが進みペラペラ喋り出す友達

煮物を作ってる間に玉ねぎを切って、ごま油と鶏がらスープの素を入れてチンする。

煮物が出来たら皿に移し、「こちらっ新作の…」とニンニクチューブに手を添えて美容系YouTuberごっこを一通り楽しむ。そして、洗ったフライパンで細かく刻んだニンジンと小松菜を炒める。

友人が昨晩存在を忘れて水浸しになっていたご飯が、時を越えて炊けた音がする。

ほかほかの白ごはんに、大根とちくわとこんにゃくの煮物に、玉ねぎのナムル(?)に、小松菜とにんじん炒め。
メインというかタンパク質の無さを量で補う。
隣には上機嫌のよく笑う友だち。
いただきまーす
「うまあ!」
貧乏飯だが、栄養を摂ってる!!って実感する。
我ながらめちゃくちゃうまい。
最近和食のうまさに気付いてきた。煮物最強。
「映えねえ~、オムライスとか作ってよ」
「めんどくさいしあんたのフライパンで卵焼けへんやろ」
「まあな、これがいいんよこれが」


明日はビザのために夜行バスに乗って東京だ。
風邪ひいたからしんどいし、金ねえ。
でもがんばろう。
正月は母と父はお互いの実家に行くんだって。
家族で過ごさない初めての正月がこんな形になるとはなあ。
家族がゴールじゃないってことかなあ。
みんな仲良くね、してほしいや。

友だちが本当に心の支えだ、ありがとう。
明日東京に行くしかなかったんだ。
お母さんの誕生日。
久しぶりに実家にいるのに、一緒に過ごせなくてごめんね。
薄情な娘だ。
ごめんね。

がんばるがんばる
私は自分が決めた道を進むよ。
がんばるがんばる。

おやすみ

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