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ドッピオ


友達と遊ぶ。

子どもの頃は遊ぶ=友達とゲームする。野球する。遊戯王する。鬼ごっこするとかいろんな遊び方があったけど最近は本当にただ散歩しながら喋るか疲れたらコーヒーを飲みにカフェに入ったり立ち飲み屋で酒を飲むかという歩いては休んで歩いては休んでのループになってしまった。

その日はベース担当の櫻井くんからアコースティックギターを借りるため京都に集まった。ただ渡して解散もなんなのでカフェに入って朝ごはんを食べることにした。入ったカフェは僕らの元バイト先でもあったのでやれ制服がオシャレになっただやれ僕らがいた頃とメニューが違うだサンドイッチの具材で使うクリームチーズとサーモンのグラム数を当て合うだとひとしきり最悪のキモOBごっこをした。最悪のキモOBであることに違いはないため最早ごっこでもなくなってしまっていた。モーニングメニューを注文した際に櫻井くんが立て替えてくれたので飲み物のおかわりでもする時に僕が櫻井くんの分を払い差分のお釣りを返すことにした。カフェでおかわりをするな。しばらく話したら彼のアイスコーヒーのグラスが空になっていたので飲み物のおかわり何にする?頼んでくるよと尋ねるとエスプレッソの...ドッピオや。と返答が来た。最悪のキモOB顔を浮かべながら。

知らない方のために補足するとエスプレッソはめちゃくちゃ濃いコーヒーなので小さいカップに少量だけ入っており物足りない場合は2倍のサイズにすることができる。ドッピオはイタリア語で2倍という意味であることとエスプレッソはそもそもイタリア発祥のコーヒーということになぞらえてドッピオと注文した彼の奮闘虚しくメニューには"ダブル"とガチガチの英語、しかもカタカナで表記されていた。何事もなかったかのようにあ、じゃあダブルで!と情けない顔で従順に店のルールに則り注文したところシングルを頼めばその日限りでおかわりが150円で頼めますよと店員さんが案内をしてくれた。せっかくなのでそうしようとシングルを注文。商品を受け取り席に戻りまたしばらく話していたらカップが空になっていたのでおかわり頼む?と尋ねるとハリのある声で頼まんと返答が来た。なんでやねん。もうドッピオからずっとなんでやねん。ていうかドッピオってなんやねん。

またしばらく話した後向かいにイオンがあるからベースの弦を買いに行こうと櫻井くん。次の行き先を決めてくれたその一方でまだ僕はまぁまぁ量のあるアイスカフェラテを飲み切っていなかったのでもう少しで飲み切るから待ってと伝えるとそういうのは飲み干すものではないと独自のルールを大きく振りかざしてきたので再度もうちょい待ってなと言いそのルールを無視して飲み切ることにした。

イオンの楽器屋に入った。バンドをしているけど2人で楽器屋に入ることはあまりないので新鮮ではあったけど高価なものが売っている店に入ると互いに何かを買わせようと仕向ける癖がついてしまっているのでやれギターを買えベースを買えバイオリンを買えと楽器屋にいるのに機材に関して深みのある会話は特に起こらなかった。この前家電量販店に入ったら機種変をさせられそうになったこともある。ベースの弦を買いしばし涼もうかとも思ったけど京都駅前のイオンは早く出て行きたくなる謎の雰囲気があるので出て外を歩くことにした。京都の夏というのは特段暑いらしい。夏は暑さを入り口に話が始まったり言っても仕方ないけど暑いな〜と切り出すという経験は往々にしてあると思う。京都はまぁ盆地やからね!ホンマ盆地やから!と言い合い盆地がなぜ暑いのかという理屈についてはどちらの口からも発されることはなかった。多分2人とも調べたことがない。

イオンに始まり京都駅周りは特段魅力的な場所がないので容赦なく降り注ぐ日差しも何のその、散歩をすることにした。京都駅自体はとても好きだ。大階段やみやこみち、旅の始まる場所でもあるし帰ってくる場所でもある。僕の母親は京都駅に来る度にガメラって怪獣映画で京都駅は壊されたんやで〜と教えてくれたのでガメラもたまに連想する。大好きなんだけどいざごはんを食べるとなっても遊ぶとなっても毎度首を傾げてしまう。しかし京都駅から一駅分歩くと梅小路公園という水族館や鉄道博物館が併設されている散歩コースにはちょうど良い施設があるため自然と選択肢はそこに絞られる。歩いている中で20代も後半に差し掛かりそろそろ運動をしないとマズイのではないかと話し出して更に1日20分以上の有酸素運動をすると精神的にも向上が見られるらしいとネットで仕入れた情報を話した。櫻井くんはランニングを習慣として行っていると以前言っていたのでこれは体験者に聞くしかないと実際のところ効果は得られているかと尋ねると全くそんなことはない。ただ1日20分間走れるようになるだけとあまりに無慈悲な回答が返ってきた。ただ、毎日走り続けたら体力は自然とついてくるのでランニングを互いに続け体力をつけたら2人でボクシングに通い実力をつけた後にリングでボコボコに殴り合おうととんでもない話の飛躍をされたがそうしようと約束をした。このバンドは最終的に音ではなく拳で解り合う拳キチ2人の物語になることがその日決まった。

そんなこんなで梅小路公園に到着はしたもののやはり暑すぎたので結局近くのカフェに入ってアイスティーを頼みそれが傷んでいたのか2人とも体調が悪くなった。なんだこの店はとプンスカしていたら昼時になったのでラーメンでも食べようかと店を調べたら臨時休業。最悪が最悪を呼び結局京都駅に電車で戻った。

その日、僕は昼から予定があり決まった時間の電車に乗らないと行けなかったのでササっとごはんを食べる必要があり駅ナカにカレー屋があったので入った。櫻井くんはカレーがめちゃくちゃ好きである。何食べる?と聞くと二言目にはカレーと返答が来るし僕は毎回それを意図的に却下するようにしている。余談ではあるけど彼は清水翔太のファンでもあるのでカレー×清水翔太という彼にとってはたまらないこのツイートを清水翔太の声真似をしながら読んでいた。

今回ばかりは流石に急いでいたのでカレーを食べることにした。あんなもん煮込んだぁるしごはんにかけるだけやしな!と自分にデカい声で3回くらい言い聞かせて注文したらあっという間にカレーは出てきた。そして美味しかった。思わず清水翔太と同じことを言いそうになった。自由に食べていい卓上の福神漬けを店員がめちゃくちゃ勧めてきたためそんなに2人揃って福神漬けを食べていいのか迷っている顔をしていたのだろうかと不安になりながらも食べ進めた。

暑さで判断力が低下していたのか僕は櫻井くんに対して辛いものが好きなのかそれとも単にカレーが好きなのかときょうび新学期の学生ですらそんな話で打ち解けへんやろみたいな質問をするとどっちも好きと返事がありしかも家でカレーを作る時はジャワカレーやでと聞いてもないのに答えてくれた。10日分くらい作って毎日食べるらしい

最初から最後までどうしようもない会話をし続けて僕の電車の時間がきたため解散した。50年後くらいにジジイになった俺はどんな顔をしてこの投稿を見るのだろうか。あと僕はカレーを少し残した。

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