見出し画像

科博の特別展『海』へ行く前や後に知っておきたい、各分野の専門家が語ったこと

東京・上野の国立科学博物館(科博=カハク)では、夏休み企画的な特別展『海ー生命のみなもと』が開催されています。会期は7月15日~10月9日。来年2024年の春からは、名古屋市科学館への巡回も決まっています。

概要については、allaboutで記事化させてもらいましたので、よろしければ、あわせてご覧ください。

上記の記事でも書いたのですが「海」がテーマと言っても、海の展覧会と言っても、会場に海が広がっているわけでも水族館のような水槽が並べられているわけでもありません。さらに「海の展覧会だよ」と言いつつ、副題が「生命のみなもと」ですからね。まさに「海」のようにテーマが広い。

会場に行ったものの、混雑していることもあって、あわあわと戸惑ってしまった……という子どもたちも多いんじゃないかなと思います。

そこで、始まってから10日以上が経ちますが、内覧会へ行った時に、当展の監修をされた各分野の専門家の方々が語っていた「これだけは見てほしい! イチオシ」ポイントを、記していきたいと思います。「記していく」と言っても、内覧会でMCを務めていた、元日テレアナウンサーで同志社大学の桝太一さんの、専門家へのインタビューを、書き起こしていっただけなんです。


『海』展を監修した
国立科学博物館の研究者
『海』展を監修した
海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者

■はやぶさ2が持ち帰った、小惑星リュウグウの粒子

桝太一さん
本当は見どころの話をたくさんしようと思ったんですけども、さっき控え室で話していたら、もう2、3時間かけても終わんないような感じになってしまっていてですね。話が尽きませんので、今回は(監修者の方々が)それぞれ、ご自身にとっての展示の一押しポイントというのを伺っていきたいと思います。

で、今回の展示というのはテーマ別に流れがありますので、その展示の順番で、ご担当の研究者の方に伺っていきたいんですけど。まず、じゃあ谷さんからありますよね。

桝太一さん

谷 健一郎さん(国立科学博物館 地学研究部 鉱物科学研究グループ 研究主幹)
はい。えっと、僕は第1章の1番最初のところを担当したんですけども、僕も前回の深海展を担当して、今回、海っていうのをやるにあたって、 海がなんで地球にあるんだろう、なんでそもそも地球に水があるんだろうっていうところから掘り下げてみようと思います。

で、おそらく皆さん、海を期待して、本当……なんかこう……みずみずしいものを想像されて来られると思うんですけど、当展はまずですね、小惑星リュウグウから始まるんですね。

谷 健一郎さん(左から2人目)
小惑星リュウグウへ行って地表の粒子を採取してきた
小惑星探査機「はやぶさ2」の1/10スケールの模型

桝太一さん
本当、今回のポイントがすごいのは、海展って言っているのに最初に見られるのが魚じゃなくて小惑星なんですよね。で、やっぱりそこから考えるのが大事だってことですか?

谷 健一郎さん
はい。そこに含まれている水とか二酸化炭素が元となって、今の海が生まれているというところで、もう本当に見ていただくと、今回ですね、JAXAジャクサ(宇宙航空研究開発機構)さんから、 リュウグウの実物の……展示できる中で1番大きい粒子を、お借りしてきたんですけども。まぁ見ていただくと、黒い小さい粒子なんですが、そこから我々が始まったってところを、ぜひ感じ取ってもらえたらなと思います。

はやぶさ2が持ち帰ってきたサンプル

■真っ白いチムニー(熱水噴出孔)

川口慎介さん(JAMSTEC 地球環境部門海洋生物環境影響研究センター)
僕は、炭酸塩チムニーという真っ白のチムニーを用意しました。チムニーっていうのは、海底から温泉が湧き出てきたところに、物が積出して煙突状になっている構造です。1970年代に海底チムニーが見つかってから、 1,000個くらい熱水泉がみつかってるんですけど、全て熱くて酸性で黒いチムニーができているんです。それが2001年に、今の段階でもまだ唯一の真っ白なチムニーが見つかって……

川口慎介さん

桝太一さん
チムニーが白いっていうのはすごいことなんですね?

川口慎介さん
チムニーが白いってことはすごいことですw

桝太一さん
伝わってください、みなさんw シロクマが黒いくらいすごいことなんですね?

川口慎介さん
(うんうん)シロクマが黒いくらいのすごさ! (……ん? シロクマが黒いw?)

桝太一さん
それくらいすごいものが今回?

川口慎介さん
そうですね。それが20年前に見つかった時に、「あ、ここが40億年前に生命が生まれた場なんじゃないの?」って、様々な研究者のインスピレーションをパパパーンって刺激しました。

桝太一さん
そんなレジェンドチムニーが、今回の展示の中に入っていると?

川口慎介さん
入ってます。スイスに所蔵されているものをもってきました。

桝太一さん
なんかだんだん見たくなってきましたね。そこにじゃあ、注目してほしいということですね?

川口慎介さん
はい。細かい構造まで見てもらいたい。

桝太一さん
なるほど、わかりました。ありがとうございます。

初期生命誕生の場? 白い熱水噴出孔(ジオラマ)

ということで、ジオラマ展示に気を取られて、スイスから借りてきている本物の白いチムニーを見るのも撮るのも忘れました……ショックw それにしても、深海からこれだけ大きなものを持って帰ってこれるものなのかと、そっちの方にも驚きです。

■教科書にも載るかもしれない「ホエールポンプ」

田島木綿子(ゆうこ)さん(国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹)
私は主に2章、ここに今皆さんがいらっしゃる会場のところを担当させていただきましたけれども、やはり1番大きい展示なので目立つんですけれども、今回のこの展示のために作ったナガスクジラなんですけれども、これにはですね、実は新しい概念をちょっと皆さんにご提供したくて、あの、このナガスクジラの展示を作ったんですけれども、それがホエールポンプという概念でして、向こうの反対のところにパネルがあるので、ぜひ読んでいただきたいんですけれども、これが一押しポイントとなっています。

桝太一さん
ホエールポンプ?

田島木綿子さん
はい、一応ホエールって書いてあるので、クジラだけに関係しているのかっていう……まぁ外国人の方がつけたんですけれども、実は、あの、海の中にいる大型生物が縦方向に移動する、これがですね、いろんな海洋の物質循環に貢献しているっていう新しい概念が提唱されたので、それをこの大きいクジラとともに皆さんにご紹介したくて……新しい考え方、概念、あと生物の繋がりなんかを分かっていただければなと思って、この展示とともにいろんな情報を提供したいというのがイチオシポイントだと思っています。

桝太一さん
ホエールポンプって多分、メディアにはあんまりですね取り扱われなかった言葉だと思いますけれども。10年後、20年後にはもしかすると教科書に載ってるかもしれないような……

田島木綿子さん
確かにそうなっていただけるといいなっていうのも、あの、希望としてありますね。

桝太一さん
ホエールポンプに注目ということで、ありがとうございます。

↑ ホエールポンプについて田島先生が語られているサイトを見つけたので、詳しくは「海」展またはこのサイトをご覧ください。

↑ 「月刊!スピリッツ」(小学館)で連載中の『へんなものみっけ!』(著:早良朋)と特別展「海」がコラボした漫画『クジラの鼻水採取プロジェクト』が読めます。

■世界最古……2万3000年前、旧石器時代の釣り針

桝太一さん
そして、藤田 祐樹さん、お願いします。

藤田祐樹さん
えっと、私は、あの、この先のですね、先史時代の人と海の関わりについて展示を作ったんですけれども、 えー、注目ポイントとしては、えっと、沖縄県で見つかった世界最古の釣り針……貝製釣り針を挙げたいと思います。

写真中央にあるのが、2万3000年前の貝で作られた釣り針

桝太一さん
最古の釣り針はパワーワードですね。

藤田 祐樹さん
世界で1番古いってすごいと思うんですけど。釣り針を作ってるってことは、その旧石器人が、2万3000年前のものなんですけど、釣りをしていたっていうことなんです。

桝太一さん
そっか、そういうことですね。

藤田 祐樹さん
はい。皆さんが想像する旧石器人って何してるかっていうと、多分だいたい槍持ってナウマンゾウを追っている感じじゃないですか。それが実は沖縄では釣り針を作って魚を釣ってたというのはね、だいぶ旧石器人のイメージが変わるし、人と海の付き合い方が、そのくらいまで深くなるんだっていうことがイメージできると思うので、ぜひ見てほしいなと思います。

桝太一さん
さっきちょっと内覧してきて、藤田さんが担当している場所って、なんかもうほぼ歴史博物館みたいな感じですよね。

展示風景
耳飾りをつけた土偶など
上と同じ耳飾りをつけた土偶
土製の耳飾り

藤田 祐樹さん
はい。考古学の異物がたくさん展示してあって、細かいものがいっぱいなんですけれども、その一つ一つの後ろに、その当時作ってた人々だったり、その人たちと海の関わりが見えてくると思うので、ぜひ1個1個じっくりと穴の開くほど見てほしいなと思います。

港川人の頭骨(レプリカ)・2万年前・沖縄県の港川遺跡・国立科学博物館蔵
イノシシの歯で作られた垂飾(アクセサリー)

■最大深度4,500mの無人探査機「ハイパードルフィン」の実機

野牧秀隆さん(JAMSTEC 超先鋭研究開発部門超先鋭研究開発プログラム)
私はですね、現代の海と人との繋がりについての展示を担当しました。そこに、ハイパードルフィンっていう人類が深海にまで行くようになった、最新の調査機器を置いてます。

無人探査機「ハイパードルフィン」

桝太一さん
本物?

野牧秀隆さん
本物です。これが初展示となります。

桝太一さん
実際潜ったものが……?

野牧秀隆さん
そうですね。もうここ20年(潜っています)……最新って言いましたけど、ここ20年ずっと潜ってる最新機器です。

桝太一さん
はあ〜……ハイパードルフィンってどういうところ見たらすごいって感じられますか?

野牧秀隆さん
えっとですね、やっぱりマニキュレーターとか、すごい正確な操作ができるので……

桝太一さん
クレーンゲームの先っぽみたいなやつ?

無人探査機「ハイパードルフィン」 マニキュレーター部

野牧秀隆さん
そういうとこも見てほしいんですけど、20年使ってるんで、いろんなとこに傷とかちょっとしたサビとか出てて、そういったその、歴戦の、 なんていうんでしょう、勇者というか。これまで戦ってきた深海の調査を行ってきた実機として、そのリアル感を楽しんでもらいたいなと思っています

桝太一さん
けっこうロボット好きにもぐっとくる感じの形なのかなと。

野牧秀隆さん
はい、あの、腕の形とか、あの……ライトが目みたいに見えるところとか。

無人探査機「ハイパードルフィン」
無人探査機「ハイパードルフィン」

桝太一さん
わかります。ガンダム好きとっては、デンドロビウムみたいな感じだなと……。そういう雰囲気があるんで……。あの……わかる人だけ分かってくださいw。はい、ごめんなさい。なんでね……あれも含めて、ま、いろんな機械も置かれていますからね。ぜひ注目してもらいたいと思います。

ベイトカメラ
エサ(ベイト)に集まる生き物を撮影する深海カメラ
海氷下自律探査ドローン「COMAI(コマイ・氷下魚)」

■食物連鎖の頂点に君臨するヨコズナイワシ

藤倉克則さん(JAMSTEC 地球環境部門海洋生物環境影響研究センター)
私からご紹介したいのは、ヨコズナイワシという魚です。

ヨコヅナイワシの液浸標本

皆さんご承知の通り、私たち人間というのは、他の生き物を使わないと生きていけない、 いわゆる生態系サービスっていうのを受けているわけなんですけど、その広範な生物多様性というものなんですが、残念ながら海の生物多様性も、いろんな変化、まー悪い方の変化っていうのを否めないところなんですが、世界的にも、じゃあ私たち人がいかに、かつ保全しながらどうしたらいいかという、保全とのバランスを取ろうというのは、もう世界的な課題です。で、その中で、保護区を作りましょうというのがあって、日本も保護区を作ったんですよ。ただ保護区って、1回作っちゃうと、えー、それで終わりってわけではなくて、えっと食物連鎖の一番上のやつがいなくなっちゃうと、そこにいる生態系ってボロボロになっちゃうんですよ。なのでヨコヅナイワシが、実は日本の海洋保護区で見つかったんですね。

ですので、そのヨコヅナイワシがいるっていうことをちゃんとモニタリングすれば、深海の◯◯でちゃんと機能してますよっていうやつの1つの指標になるかなと思って。

桝太一さん
ただこう、おっきくて珍しい魚っていうだけじゃなくて、すごく意味がある魚だってことを理解する……。

藤倉克則さん
これまでメディアの皆さんのヨコヅナイワシは結構取り上げていただいたんですけど、本当に伝えたいのはそちらの方なので……。

桝太一さん
あ……なんかすいません、メディア側の人間として申し訳ございません。なんか、そのあたりも伝えられるように……。

■宇宙・深海・海の生き物・歴史・ロボット好きも楽しめる展示

桝太一さん
まぁ、なんか聞いてみてわかったかと思うんですけども、本当にこう、今回、「海」展と言っても海、一言で済ます……済ませられるような展示ではなくて、 それこそ、まあ、そうですね、宇宙好きから、深海好きから、海の生き物好きから、歴史好きから、ロボット好きから、そして社会課題、環境問題に興味がある方まで、本当にいろんな方がいろんな視点で見られる展示になっていると思いますので、多くの方に来てほしいですし、特に 子どもたちには夏休みの宿題のヒントが見つかるんじゃないかなと思っていますので、ぜひ多くのお子さんたちにも楽しんでもらいたいと願っております。
見どころを伺いました。皆さん、ありがとうございました。

(そして桝太一さんが、会の前半の自己紹介のパートでおっしゃっていたことが、締めの言葉として適当だと思われたので、ここに追記しておきます)

大学で科学を伝える科学コミュニケーションの研究をしているんですけども、まさに博物館っていうのは科学を伝えるその代表的な存在だと思っていますので、そこに少しでも貢献できればと思いますし、また、僕自身も今回の展示に携わることで学べることがあるかと思っています。で、最後にナビゲーターとして一言だけお伝えすることがあるとすれば、今回の展示って、見たから海のことが全て分かるというものではないと思っています。むしろ、海ってまだまだ分からないことがいっぱいあるんだなと。そして、この研究者の皆さんがまさに今その謎を解き明かす真っ最中なんだなということが伝わると思います。

ですから、この展示を見た後でもっと知りたくなって、実際に海に行きたくなる、展示の出口が海への入り口になるような、 そんな展示になってくれるという風に思っておりますので、ぜひ皆さん、どうかよろしくお願いいたします。

■読むのが面倒な方のための動画も用意


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?