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20億円分の名刀13本を、東博へ寄贈した、太っ腹な渡邉誠一郎さんって何者?

東京国立博物館には、『三条宗近(名物・三日月宗近)』や『無銘貞宗(名物・亀甲貞宗)』などの国宝に指定された太刀をはじめ、『備中国住守次作』、『備州長船住兼光(名物・福島兼光)』『定利(山城)』など多くの太刀、刀、短刀を所蔵されています。

国宝『三条宗近むねちか(名物・三日月宗近みかづきむねちか)』
国宝『無銘貞宗むめいさだむね(名物・亀甲きっこう貞宗)』

以上はすべて平成3年1991年に渡辺誠一郎さんという方が、東博に寄贈したものです。同氏の父・三郎さんは、「特殊鋼」という言葉の生みの親として知られる冶金学者であり、実業家、貴族院議員でもありました。そして冶金学者として、興味が刀剣へと広がっていったのは、不思議ではありません(また、太平洋戦争後に、GHQからの接収や、戦後のごたごたによる刀剣の散逸を危惧して買い集めたという経緯もあったようです)。

そして渡辺三郎さんが亡くなった後に、引き継いだ渡辺誠一郎さんが、膨大なコレクションの中から、上記の太刀・刀を含む13振(口)を、東博へ寄贈しました。その刀剣13振の評価額は、20億円とも言われたようです。

渡辺誠一郎さんが父の膨大なコレクションを、寄贈または売却される際の詳細が、業界紙『刀剣界』(49号・令和元年9月15日発行)の『ある刀屋の履歴書』に、飯田高遠堂の飯田慶久さんによって記されています。

そこには、渡辺誠一郎さんが父の三郎さんから継いだ、膨大なコレクションは、まず「東博の小笠原信夫先生と刀剣博物館の田野辺道宏先生によってABCDの四段階に分類された」と語られています。そして一番上のAクラスに分類されたのが、東博に寄贈された13振だったのです。(なお、Bクラスについては岡山の株式会社林原=林原美術館に収められたそうです)

南都高市郡住藤原貞吉(号・大保昌おおほうしょう

前置きが長くなりましたが、<2022年8月18日>に東博を訪れたところ、「渡辺誠一郎氏寄贈」の短刀『南都高市郡住藤原貞吉(号・大保昌おおほうしょう」』がありました。

短刀『南都高市郡住藤原貞吉(号・大保昌)」』についてですが、インターネット上での情報は少なく、文化遺産データベースの説明が最もわかりやすいです。

鎌倉時代・文保元年(1317年)。大和保昌派(ほうしょうは)は、銘にもあるように奈良・高市郡に住み貞吉・貞宗・貞清などの刀工が有名で、柾目(まさめ)の地鉄(じがね)に沸(にえ)のよくついた直刃(すぐは)の刃文(はもん)が特徴です。この短刀は長く加賀国(かがのくに/石川県)の前田家に伝来し、平造(ひらづくり)で重(かさね)(刀身の厚さ)が厚く大振りであるため、大保昌の号があります。

文化遺産データベースより

ただしこれも、刀自体の説明というよりも、刀を作った保昌貞吉ほうしょうさだよしや、保昌派という大和の刀工集団の説明に重点が置かれています。

まず、解説文が何を言っているかといえば、保昌貞吉ほうしょうさだよしが属する保昌派ほうしょうはが作る刀は「柾目まさめ地金じがねにえのよくついた直刃すぐは刃文はもんが特徴」だとしている。今回の「大保昌おおほうしょう」も、そうした特徴を踏まえているといいます。

そう言われても、ちんぷんかんぷんですよね。

まず地金じがねというのは「刀剣の表面に現れる、木材のような模様や全体の様相」と、東博の解説パネルには書かれています。まぁざっくりと、刀の全体ととらえておけば良いでしょう。

次に柾目まさめというのは、「ほぼまっすぐに平行した模様」だといいます。刀の「ここは切れそうだな」と言うところが「」で、刃とは逆側の切れない背中部分が「むね」といいます。柾目まさめは、刃と棟と、その間にある模様が、だいたい平行に走っているということです。

写真左側を見ると、刃と棟と、その間に走る模様が平行です。これが柾目まさめ

直刃すぐは刃文はもん」というのは、詳しい人に言わせれば全く異なるものなのでしょうが、はじめは前述の柾目まさめと同じようなものと考えて良いでしょう。解説パネルには「直刃すぐはは、直線的な刃文」とあります。焼刃やきばの模様が、素直で真っ直ぐだよ、ということです。

にえのよくついた」というのは「刃文を構成する粒子」のことだとあります。その粒子の中でも視認できるものがにえで、それよりも細かいものをにおいというそうです。

刃文の「もやっ」とか「ふわっ」としたところが、なんとなくにえとかにおいだと思っておきましょう。

なかごには、『南都高市郡住藤原貞吉』とめいが刻まれています

https://www.mokuzai-tonya.jp/05bunen/zuisou/2005/05nihontou17.html

なお、渡辺誠一郎氏から寄贈された平成三年の7月には、東京国立博物館の平成館にて「渡辺誠一郎氏」寄贈展が開催され、目録が発行されました。
【渡辺誠一郎寄贈の13振】(東京木材問屋協同組合のHPより
1 国宝太刀 銘「三条宗近(名物・三日月宗近)」 長さ 二尺六寸四分
2 国宝太刀 銘「無銘貞宗(名物・亀甲貞宗)」 長さ 二尺三寸四分
3 重文太刀 銘「備中国住守次作」 長さ 二尺八寸七分
4 重文太刀 銘「備州長船住兼光(名物・福島兼光)」 長さ 二尺五寸三分
5 重文太刀 銘「定利(山城)」 長さ 二尺三寸六分
6 重文太刀 銘「無銘貞宗(名物・切刃貞宗)」 長さ 二尺四寸二分
7 重文小太刀 銘「長光(名物・蜂屋長光)」 長さ 一尺八寸
8 重文打刀 銘「左兵衛尉藤原国吉(号・鳴き狐)」 長さ 一尺八寸
9 重文短刀 銘「左安吉(名物・一柳安吉)」 長さ 一尺六分
10 重文短刀 銘「吉光(名物・海部・長束藤四郎)」 長さ 七寸六分
11 重文短刀 銘「南都高市郡住藤原貞吉(号・大保昌)」 長さ 九寸三分
12 重文短刀 銘「国光(名物・新藤五)」 長さ 八寸四分
13 重文短刀 銘「備中国住次直作」 長さ 八寸九分


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