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コーディネーター・アラジンのブログ #106 環境シンポジウム

勤労感謝の日、ウィング21で白馬村の環境シンポジウム「地域と暮らしのゼロカーボン勉強会」が開催されました。

午前の部は、映画「マイクロプラスチック・ストーリー ぼくらが作る2050年」の上映から始まり、村内の中高生が取り組みを発表しました。

午後からの部は本格的な基調講演と「2030年をターゲットとした白馬村ゼロカーボン行動計画提言」の概要発表があり、それらを受けたパネルディスカッションが行われました。

ここでは午前の発表を紹介しましょう。

映画「マイクロプラスチック・ストーリー」


まず、みんなが鑑賞した映画「マイクロプラスチック・ストーリー ぼくらが作る2050年」(原題「Microplastic Madness」)は、ドキュメンタリー映画で、アメリカで製作されました。

ニューヨークのブルックリンの小学5年生(アメリカでは小学校は5年生までの所が多い)の子どもたちが、環境問題に目を向け、特に海洋におけるマイクロプラスチックの影響を学ぶことに始まります。やがて、それらの問題が自分たちの身の回りから生じていることに気づき、学校や地域での活動を通じて、プラスチックごみの問題に対処し、解決策を見つけようとします。自分たちの××××ようと校長に提案し実現します。そして、××××のアクションを起こします。(ネタバレはいけませんね。)
そして、子どもたちがどのようにして環境問題に取り組んでいったかを追いながら、子どもたちの視点からプラスチック問題の深刻さを分かり易く浮き彫りにしています。

↑↑↑ は予告版ですが、機会があれば是非みてください。お薦めです。


白馬中学校

続いて、白馬村内の子どもたちからの報告です。
まず、白馬中のSDGsクラブを代表して古瀬さんが、報告してくれました。

みんなで取り組んだこととして、グリーンカーテンで葉の量と教室内の温度の関係を調べたり、古紙回収でリサイクルに回して、そのまま焼却するのとくらべて2.0kgのCO2を削減したとか、プラごみの回収で8.8kgの削減ができたという話をされました。

アルからひとこと
 よく取り組まれていますね。
 古紙やプラごみ回収量から、CO2の排出削減量を数値化して、一見分かり易いように見えますが、そもそも1kgのCO2ってどのくらいか、実感をともなっていないと、回収に頑張ったけどそれが多いのか少ないのか分かりませんよね。聞いている人でピンと来たひとは僅かでしょう。
 何か、日常生活で発生するCO2の量と比較できるものを合わせて紹介してくれると分かり易かったかな。
 だいたいですが、プロパンガスで家庭のお風呂1回沸かすと2kg程度のCO2が発生します。白馬中での古紙回収分が2kgのCO2削減になるとの発表でしたが、それは白馬中の一人の生徒が一日だけ温泉にでも行って家の風呂を焚かなかったときの節約分と同じです。
 お風呂に入る度に思い出してくれるといいかもね。 

次の資料参照


また、それぞれの生徒ができることを話し合ったときに、ある生徒は、このまま行くと、白馬で休耕田が増え、山が荒れ、土地が買い占められるということに危機感を覚え、白馬で牧場や農場で起業したいと言っているという話もありました。

日本の中山間地では農業の未来が危ぶまれています。白馬村でも、放棄地が増えていますね。現在の農業従事者が単純に高齢化によって農業をやらない・やれない人が増えるのは当然ですが、問題は若い人たちが農業を継いだり、農業に興味を持たないことが問題です。白馬中の生徒が問題意識を持って、農業や牧畜に興味を持っているのは嬉しいことですね。


白馬高校


続いて、登壇したのが、白馬高校の卒業生の手塚君です。
彼は、4年前、気候変動マーチを白馬村で呼びかけ実施し、マーチのゴールの白馬村役場で、村長に直に訴えました。それが村長を動かして白馬村の気候非常事態宣言につながった、白馬高校の三銃士??の一人です。このブログ#104でも、ことしの教室断熱プロジェクトを紹介しましたが、彼は、最初にそのプロジェクトを実現した一人として、その内容と意義について詳しく報告してくれました

まず、断熱の必要性を問うために、生徒全員にアンケートを実施したところ、4分の3の生徒が、手がかじかんで授業がうけづらかった経験があり、9割の生徒は断熱改修の必要性を感じていることがわかった。

断熱の原理を勉強し、冬は暖かく、夏は涼しく、冷暖房の電気や灯油の削減、CO2の発生を抑制できることを理解しました。

また、実際に、サーモグラフィで教室を見てどこが寒いのかを調査したりもしました。

やはり、断熱が一番だと、応援してくれる大人の人たちと、断熱改修ワークショップをすることにしました。

壁に木枠をあて、断熱材をカットして枠にはめるのは、今年の実践(ブログ#104)と同じです。

違うのは、初めての教室断熱改修ワークショップは3日間をかけて、できることを徹底的にやりました。
写真のように天井の点検口から、グラスウール製の断熱材を押し込んで天井裏に並べました。

さらに廊下の壁も断熱し、廊下の窓のガラスは外してポリカーボネート板に変えて断熱効果を高めました。最後に、壁に明るい色を塗りました。

断熱効果を数値化して検証しました。

差が歴然ですね。14℃以上の差!
2つの教室を比較。断熱の効果がよく分る。

10分という短い報告時間でしたが、濃い内容で断熱の効果がよく分りました。
司会者からは、彼らの最初の取り組みがきっかけで、今では多くの学校で教室断熱の予算も付くようになり、取り組みが拡散していることも報告されました。

ここでアルから苦言をひとこと
白馬高校の現状からみた問題点を敢えて、書かせていただくと、
 「断熱の取り組みを外に宣伝できるほどやっているのに、体育や芸術などで教室が空のときでも、電気つけっぱなし、ストーブ強のまま、前後の扉開けっ放しになっていることが実に多く目につきます。」
環境に対する学びが自分の日頃の行動を変えるところまでいかないと、ダメなんですがね・・・・


白馬インターナショナルスクール(HIS)

続いて、白馬インターナショナルスクールの取り組みの報告がありました。

学校の敷地として取得された森を使って、100年継続する研究を始めたそうです。壮大なプロジェクトですね。

その森は9エーカーもあるそうです。さすが、インターナショナルスクールですね。子どもたちは面積をエーカーで測るんですね。ヤード・ポンド法は日本では使用できないため、日本の人はなじみがないので、どれくらいかを調べてみると、東京ドームの広さが11エーカーだそうです。HISの森は広いですね。

この森の中の生徒たちが自分で選んだ区画を研究対象とするようです。

植生を調べています。この生徒の区画はどうやらカラマツ林ですね。

植物の鑑定は、携帯で写真を撮って、SEEKというアプリで、また、気温や土壌の温度を温度プローブを使って測定し、森の光量はLUX meterというアプリで行うそうです。

そして、データーの収集を改善するために、現地に行かなくてもデータが遠隔で記録ができるシステムをJeston nanoのボードを使ってスマートに出来ないかと提案しているところだそうです。(やることが凄いですね。)

最新のロボティクスにも使えるボードの利用を考えているHIS生

いやー、とても現代っ子的発想で、驚かされました。

子どもたちにとって、開発ボードをいじるのも楽しいと思いますよ。このアルもその年ごろはアマチュア無線に夢中でしたから。真空管とはんだ付けの世界でしたが(笑)

ちょっとだけ、アルから森の話をさせてください。
ひとことで森と言ってもいろいろありますね。
100年かけて森の変化を観察しようというのは興味深いことですが、報告の中にありましたある生徒の観察区域は樹木はすべてカラマツでしたね。
下草もシダ類が多かったですね。
観察はもちろん大事ですが、それと同時に、この森がどうして今の状態にあるのかという過去の歴史を調べてみるのも大切です。 おそらく、終戦後にカラマツや杉を植林された人工林でしょうね。その後、放置されていたのかも知れません。白馬に限らず全国の中間山地で起きていることです。
人工林が放置されると何が起こるでしょうか?
人工林は人の手で管理しなければ維持できません。下刈り、枝打ち、間伐を行い日光を地面にあてて根を強くしなければなりません。日陰が増えると日光を必要としない植生に変化して、それまで生息していた植物や動物が見られなくなり、多様性が損なわれます。そして土壌がゆるくなり、斜面などでは災害を招くことにもなります。間伐材もそこらに放置しておいてはいけません。刈り捨て間伐とよばれる行為で、せっかく日光が入っても地面にとどきません。戦後の植林が行われた頃は、里山や人工林に人が入って、煮炊きに必要な燃料として間伐材や下草を争うように集めては利用していました。
もしHISのみなさんが、SDGsの観点からも、その森を豊かな森として持続可能にしようとするなら、二つの道が考えられます。
 1.現在の林相である人工林を維持するため、間伐等の保全作業をして下層植生を衰退させないで、森を管理し続ける。
 2.人工林を徐々に伐採して、針葉樹ばかりでなく、落葉広葉樹や常緑広葉樹をバランスよく配置し、バイオマス利用などで落ち葉や枯れ枝を適当に除去することで下層にカタクリやフクジュソウが見られる里山を作り出し、継続管理する。

もし、2を選ぶのでしたら、白馬から遠くない黒姫にあるCWニコルさんが育てられ、今も財団によって育てられている「アファンの森」に行って学ぶといいと思います。

報告では、森の観察にできるだけ人が足を踏み入れないで済むように、電子機器をもちいて遠隔で観察が出来る装置を紹介されていましたが、生きている森を生きている人間が仲間として大切にしようとするなら、葉の色やつやや手触りやにおいや味、音や風など機械で数値化する前に、一人の人間として五感でそれらを感じとることの大切さも忘れないでくださいね。

植物の名前も、写真から判定するアプリは確かに便利そうだけど、葉の大きさ、付き方、切れ込みの様子、手触り、茎に角があるか、など、自分で観察して、何がこの植物の特徴なのかを探り、図鑑で調べる努力をした方が、よほど楽しいし、ためになると思いますよ。みんなが牧野博士にならなくてもいいけど、せっかくこんなに自然に恵まれている所で学んでいるのだから、都会の中学校ではできない自然との接し方をしてはどうでしょう。

以上が、前半の部の中高生たちの発表でした。