詩 落ちたユズの実
誰かの家の木に、
たくさんのユズが実っている。
橙色をしたユズの実たちは、
熟して採りごろだけど、
だれもその実を採ろうとしない。
その木は、隣の家の庭まで枝を伸ばしているから、
たくさんのユズの実が、隣の庭に落ちている。
だれが落ちたユズの実を、片付けるのだろう。
*
僕はユズの木に実る、
ユズ。
木に光をいっぱい浴び、
小さな青い実が生って、
橙色に染まるまで、
毎日、毎日、成長する。
僕は仲間のユズたちと、
競うように色づいて、
季節とともに実りゆく。
やがて秋が訪れて、
実りとともに、鳥たちは、
隣に実る柿の実を、
ヘタだけ残して、食べてゆく。
どうして僕たちは、鳥たちに、
相手にされないのだろうか。
どうして人間たちも、僕たちを、
採ろうとしないのだろうか。
早くしないと、僕たちは、
地面に落ちて、死ぬだろう。
いったい、僕たちは、
何のために生まれたか。
そして、その日はやってくる。
風の強い日の午後。
僕は必死に、木にしがみつく。
力が尽きて、手を放す。
気づけば、地面に落ちていた。
ころころ、転がる僕。
僕は見る。
空は、こんなにも、大きかった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?