見出し画像

濃霧の愉しみ

日付で言えば1月13日の午前3時頃、部屋で勉強をしていて、換気のために窓を開けた。すると、窓の向こうの景色一面が濃い霧に満たされていた。
僕は驚くのと同時に心を躍らせて、窓から首を突き出し、景色を眺めた。
空気を吸い込むと、しっとりと湿度のある、冬の早朝や深夜によく匂うあの、傷んだキャベツのような煙のような匂いがした。


霧は車のヘッドライトや街灯、信号など外にあるあらゆる光源を、まるで水彩画のようにぼんやりと空気の層に滲ませていた。
車が止まり信号の赤色灯が灯ると、辺りに金魚のような赤色が滲み、車が進み出し青色灯が灯ると、青緑色の光が神秘的に浮かび上がった。
この霧の中では電柱の白色灯や車のライトすらも美しく、特に紫色のランプで煌々しく飾られた大型トラックは、どこか宗教的な雰囲気さえ漂わせていた。


スマホで写真を撮っているうちに、フラッシュを焚くと霧の粒子が反射し、無音の川の中にいるような、激しい空気の流れを写せることに気付いた。そうして懐中電灯も持ち出して、しばらく遊んでいた。

スイッチを押してライトをつけると、その先から真っ直ぐに光線が走り、まさに『スターウォーズ』のライトセーバーそのものだった。
懐中電灯の光を車へ向けないよう気を付けつつ、右手に見える真っ暗な総体文の壁へ光線を走らせてみたり、真下の田んぼや道路を光の先でなぞるように照らした。

田んぼの中から野良猫が走っていたので、光をそちらへ向けてみた。猫は光に気付き、鬱陶しそうにこちらを一度だけ睨み、そのまま車の下にさっと隠れてしまった。
しばらくすると車から出てきたので、再び照らしてみると、またこちらを一度だけ顧み、何かの影へ走り去ってしまった。

猫が振り返った時、光の反射した目がきらっと光った。


上空へとライトを向けると、光の先は天井のような夜空に行き当たり、雲に触れた。長い長い棒で天をつついているような気分だった。
空が低く感じ、星は天上にただ貼り付いているだけのように思えた。また吐きかけた息を電灯で照らし、真っ白な炎のように写した写真も撮った。


そのようにして、気が済むまで遊んだ。
久しぶりに見た霧は、景色をとにかく神秘的で美しいものにし、最近の憂鬱な気分をすっきりとさせてくれたようたった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?