手にしたものは黒くて震えて
2019年の夏、私は初めて昆虫の即売会に参加した
参加の理由は ただそこに行ってみたかっただけ とか 横浜なら近いし暇つぶしに とか、そんな程度だった気がする
幼いころから鱗翅目昆虫を中心に収集していたため、昆虫飼育は普通の少年程度にしか通ってこなかった
入場してしばらく回っていると、あるクワガタが目についた
タランドゥスオオツヤクワガタ
幼少期に図鑑で見たっきり、生で見たことなんてなかったその真っっっ黒い昆虫は、なんだかひときわ浮いて見えた
もしかしたら記憶の奥そこ、とっくに忘れたクソガキ私はこいつのことを目を輝かせて見ていたのかもしれない
頭を覗かせた衝動を抑えることはなく、見せてほしい とブースの方に声をかけた
思えば、この「見せてほしい」が道を踏み外した記念すべき第一歩だった
気が付けば手の上でブルブルと威嚇を始めたこいつと日本円札を交換してしまっていた
もちろんその時はカワラ材なんてものも知らなかったので、産卵や飼育のコツをある程度聞いたりなんかもしたが、写真でしか見たことないものが自身の手の中に収まっていることの興奮が大きく、あまり頭には入らなかった
ほぼ門外漢が1人で何か新しいことをを始めるというのは思っている以上に難しいもので、最初は何が何だか分からなかった
後食だとかの生態みたいなものは基礎知識としても、その業界特有の専門用語に苦しめられた
というか今も苦しんでいる
分からないことは多いがとにかくこのバイブレーションを絶やさないように、と躍起になっていたのは覚えている
今ならそんなに神経質にならなくてもいいのに
そんなこんなで1年が経ち、その時の子はすでに死んだ
しかしありがたいことにしっかりと子孫を残してくれたため、また1年あの黒と振動を楽しめそうである
私がしっかり道を踏み外す要因を作ってくれた黒は、今はちょっといい標本箱に収まっている
きっかけの子供 80㎜弱ぐらい
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