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推し建物

日課の井の頭公園に散歩に行ったら平日なのに竹下通り並みの人出でひるみました。
花見の季節だとわかっていながらすっかり忘れていたのです。

ウォーキングできるような状態ではないため、木々の間を通り抜ける人通りの少ない裏道を使って誰もいない住宅街へと私の散歩道を軌道修正しました。

さて、その住宅街の一角には奇抜なデザインの某漫画家先生宅があったりするのですが、その数軒隣に廃墟化しかけているデザイン性の高い豪邸があります。

建てられた当時はかなりモダンだったのではないでしょうか。
コンクリートのブロック板を凸凹に積み重ねた箱のようなデザインで、一見、小さな公会堂のようにも見えるお家です。
エントランスに続く石垣の表情と相まって住む人の哲学も伺えるような厳かさも感じられます。
有名な建築家さんが建てたのかもしれません。

だいぶ植物に侵食されている様子から、すでに10年くらいは人の気配がなく放置状態になっているようです。

ちょっとクセのある建物の表情が植物に覆われることで、ギラギラしてた俳優さんの脂抜きが完了していい感じに枯れてきた風格と同じような空気を漂わせて佇んでいるその建物が私はとても気に入っております。

いつもそこを通るたびに写真を撮ったり、時々ストリートビューで眺めたりして愛でています。
今日も「うん、オッケー♪」と思いながら前を通り過ぎることができて幸せでした。

なぜそんなにこの建物に執着しているのかと言えば、この土地の販売情報を不動産売買サイトで偶然見かけ、思いの外ショックを受けたことがきっかけです。

売られてしまえばきっとこの上物は壊されるに違いないと思うと喉の後ろの辺りがきゅっと絞まるような感覚を覚えました。

残念ながら吉祥寺の土地は自分で買えるほどの金額ではないのです。私がイーロン・マスクだったなら即金で買い取って保存するのに。
現時点でその土地はまだ買い手は見つかっていないようです。

この建物が世界から消える日まであとどれくらいの時間が残されているのかわからないけれど、信仰者のような私(もしくは密かな愛好者たち)だけを惹きつけて、今日もそこに存在してくれていることに感謝のような念が湧き起こります。

形のあるものはいつかなくなるとわかっていても、いつまでもなくならないでほしいと願う身勝手なエゴですが、この気持ちは消さなくてもいいでしょうか。




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